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(2)女性の中毒状態は「エクソシスト」に「呪怨」…映画のタイトルになぞらえる検察官

元俳優、押尾学被告(32)の男性弁護人が、「救急車を呼ばなかったことと、(MDMAを服用して死亡した)田中香織さんの死亡に因果関係はなく、押尾さんは無罪です」と保護責任者遺棄致死罪について無罪主張することを説明した。押尾被告は、目を閉じて聞いている。

続いて、検察側の冒頭陳述が始まった。男性検察官が裁判官の両脇に座った6人の裁判員に、「事前に配布した資料には実名が書かれていますが、プライバシー保護のため、一部仮名を使って読み上げます」と断った上で、起訴内容について説明し始めた。

検察官「押尾被告は、MDMAを譲り受けた▽田中さんにそのMDMAを飲ませたという譲り渡し▽田中さんが重い中毒症状を起こしたにもかかわらず、保身のために救急車を呼ばずに死亡させた▽(麻薬の)TFMPPを所持していた−という4つの罪に問われています」

ここで、検察官はMDMAやTFMPPが、いずれも幻覚作用があり、麻薬取締法で譲り受け、譲渡、所持、使用が禁止されている薬物であることを説明。また、起訴罪名の一つである保護責任者遺棄致死罪についても説明した。

検察官「保護責任者遺棄致死罪とは、保護責任のある者が要保護者を保護せずに、死亡させたという罪です」

続いて、検察官は押尾被告と田中さんの身上経歴についても述べた。

検察官「押尾被告は東京都多摩市に生まれ、高校中退後、平成10年ごろから芸能活動を始めました。18年に結婚し、川崎市内に自宅がありました。事件当時は、知人から貸し与えられていた六本木ヒルズ2307号室に住んでいました。事件が発覚したことで、昨年8月に所属事務所を解雇されています。田中さんは岐阜県出身で、高校卒業後に上京します。いったん、地方に転居した後、20年ごろに再び上京し、クラブホステスとして働いていました。事件当時は、都内のマンションで女性と同居していました」

検察官は、押尾被告が違法薬物を使い始めた経緯についても説明した。

法廷内に設置された大型モニターにも、冒頭陳述の内容が映し出されている。

検察官「押尾被告は遅くとも20年ごろから性感を高める目的でMDMAを入手し、関係を持つ女性にすすめるようになりました」

「薬物を使って関係を持つことを、これから『ドラッグセックス』と呼びます」と、注釈を加えた。

検察官「押尾被告は、ドラッグセックスの相手であるKさんに、MDMAがいるか聞く意味で『あれ、いる?』とメールをしたこともあります」

押尾被告が飲食店で働いていた田中さんと知り合ったのは、20年11月ごろだという。

検察官「21年3月には、アメリカのホテルで、一緒に渡米したEさんがMDMA中毒となって失神し、本人も倒れたことがありました。押尾被告はこの時のことについて(知人の)泉田勇介さんに、『麻薬を飲んだら女の子が死にそうになり、自分も危なかった』と説明しています」

泉田受刑者は、押尾被告にMDMAを渡したとして、麻薬取締法違反罪で懲役1年の実刑判決が確定している。

検察官「21年7月には、Kさんに再び『あれ、いる?』というメールを送っています。同じころ、田中さんは知人男性に、薬物を飲まされドラッグセックスをしたことを話しています」

同月5日に渡米した押尾被告は、滞在先で「偽のMDMA」とも呼ばれる合成麻薬TFMPP約50個を購入。一部を使用し、残りを所属事務所の社員に渡して日本へ持ち帰らせたという。また、30日には泉田受刑者にMDMAを入手するよう依頼し、翌31日に10錠を手渡されたという。

そして、検察官はいよいよ、事件が起きた8月2日の押尾被告らの行動について言及していく。

検察官「午後2時14分、六本木ヒルズに向かっていた田中さんに押尾被告は『来たらすぐいる?』とメールをしました。2時17分、田中さんは『いるっ』と返信をしています」

2時34分に田中さんが六本木ヒルズの部屋に到着すると、押尾被告はMDMAを田中さんに渡して一緒に服用し、DVD鑑賞を始めたという。

検察官「3時56分、2人はDVD鑑賞をやめ、1時間ぐらいかけてセックスをしました。その後、押尾被告、田中さんの順番にそれぞれ5分ずつぐらいシャワーを浴びました。5時10分に当時の妻からメールが届き、5時12分に返信しています。そしてセックスを再開し、約30分間セックスしました」

田中さんに異変が生じたのは、この後だったという。

検察官「寝ていた田中さんが突然体を起こしてあぐらをかき、誰かをにらむようにして歯を食いしばり、うなるようになりました」

検察官は、この状態を「怒りの状態」と名付けた。

検察官「手を動かした後、急に力が抜けたようになり、笑った後、ぼーっとした状態になりました」

これについては、それぞれ「ボクシングの状態」「笑いの状態」「無表情の状態」と名付けた。

検察官「怒りの状態から無表情の状態になるまでにかかった時間は約3分間で、田中さんはこれを2〜3回繰り返しました」

しかし、田中さんの“奇行”はこれだけでは終わらなかった。

検察官「5時50分には、田中さんは両眼を見開き、白目がむき出しになるなど、映画『エクソシスト』に出てくる女の子のような状態になりました。これを『エクソシストの状態』と名付けます」

「エクソシスト」は、少女に憑依(ひょうい)した悪魔と神父らの戦いを描いた、アメリカのホラー映画だ。

検察官「その後、田中さんは一点を見つめて『うーっ』と言ったりして、映画『呪怨(じゅおん)』に出てくる男の子のような状態になりました。これを『呪怨の状態』と呼びます」

「呪怨」は、日本の人気ホラー映画で、ハリウッド版のリメイク作品も制作されている。

検察官「押尾被告は5時50分ごろから、田中さんに約30分間、MDMAの中毒症状が表れたにもかかわらず、救急車を呼ぶなどの措置をとりませんでした」

田中さんの異変に気づいた押尾被告は、6時32〜47分ごろにかけ、知人らに次々と電話をかけ「女性の具合が悪い」「女性が倒れた」と説明したという。しかし、6時47〜53分の約6分間については通話記録がなく、検察官は「この間に田中さんに心臓マッサージや人工呼吸を行っていた」と説明した。

検察官「司法解剖の結果、田中さんの血液から多量のMDMAが検出され、死因は急性MDMA中毒でした」

心臓マッサージなどを行っても容体が改善しないため、押尾被告は再び、知人らに電話をかけたという。

検察官「6時53分〜7時半にかけ、押尾被告はBさんや△△さん(法廷では実名)に次々と電話をしました」

△△さんとは、田中さんの携帯電話を捨てたとして証拠隠滅罪で略式起訴された元マネジャーの男性だ。押尾被告はこの電話で「女性が死んじゃってるような感じ」「死んじゃっているみたい」「死んでいる」と、田中さんが死亡している可能性を伝えたという。

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