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(21)ついに逆ギレ「検事さんみたく賢くない」にらみつけ

検察官「あなたはその後、豪憲君を殺害したことを認めている。話をしてすっきりしたか?」

鈴香被告「覚えていない」

検察官「うそをついていたわけでしょ?」

鈴香被告「そうです」

検察官「本当のことを話して、すっきりしたんじゃないのか?」

鈴香被告「…覚えていない」

検察官「あなたは検事に話した後、留置の人に『検事に話して楽になった』と言っている。覚えていないのか?」

鈴香被告「はい」

検察官「豪憲君を殺害したことを認めたとき、全部話したんじゃないのか?」

鈴香被告「いいえ」

検察官「うそをついていた?」

鈴香被告「はい」

検察官「どう、うそをついていたのか?」

鈴香被告「殺害した場所(についてうそをついていた)」

検察官「本当は?」

鈴香被告「玄関」

検察官「なんとうそをついたのか?」

鈴香被告「『彩香の部屋の入り口』と言ったと思う」

検察官「何でそんなうそをついたのか?」

鈴香被告「わざわざ(殺害に使った)ひもを取りに行ったと思われるのがいやだったし、冷たい玄関より、少しでも温かみのある廊下側と言った方がいいのでは、と思った記憶ある」

検察官「ひもとは、腰ひものことか? 彩香ちゃんの部屋にかけていたというひもか?」

鈴香被告「はい」

検察官「『わざわざ取りに行ったと思われる』というのは、どう思われると考えたのか?」

鈴香被告「悪い印象を持たれると思った」

検察官「悪い印象というのは、計画的な犯行だと思われるということか?」

鈴香被告「そう」

検察官「あなたは『計画的に殺したと思われたくない』と考えていたということか?」

鈴香被告「最初からは、そこまでは考えていなかった」

検察官「最初の時点では、そこまで考えていなかったのか?」

鈴香被告「そう。後から出てきた」

検察官「いつごろから考えていたのか?」

鈴香被告「覚えていない」

検察官「豪憲君を殺害したことを認める供述をする直前に、計画的だと思われたくなくてうそをつくことにしたのか?」

鈴香被告「はい」

検察官「あなたは、『豪憲君は彩香ちゃんの部屋で死んでいた』と話したころから、そういうことを考えていたんじゃないのか?」

鈴香被告「いいえ」

検察官「じゃあ何で、『彩香ちゃんの部屋の前で殺した』と説明したのか?」

鈴香被告「玄関からすぐ見える部屋だったから」

検察官「だったら『玄関で殺した』と言えばいいんじゃないのか?」

鈴香被告「検事さんみたく賢くないので、考えていなかった」

それまで前を向いていた鈴香被告は、鋭い目つきで検事側をにらみつけて説明した。

検察官「ずいぶんきつい目でにらまれたようだが…。皮肉を言うんですか?」

鈴香被告「言いません」

気まずい空気が法廷内に流れる。

検察官「ええと、特に気になるところを聴きます。7月23日に警察であなたは取り調べを受けたとき、『彩香ちゃんを殺すために橋から落とした』という調書に署名しなかったら、休憩を取らせてくれず、腰が痛くて床に寝てしまったと言っていた?」

鈴香被告「はい」

検察官「あなたは『署名しないと休ませない』と言われ、署名したと言っている?」

鈴香被告「はい」

検察官「このときは、(腰は)午前中から痛かったのか?」

鈴香被告「4、5日前から痛かった」

検察官「床に寝るほどの激しい痛みは?」

鈴香被告「取り調べ中」

検察官「取り調べはいつから?」

鈴香被告「午後からだったと思う」

検察官「午後から、自分の意に沿わない調べがあって痛んだのか?」

鈴香被告「今も痛い」

検察官「いや、取り調べが続けられないほどの痛みは午後からだったのか?」

鈴香被告「はい」

検察官「そういうひどい取り調べを受けたことを、被疑者ノートに書かなかったのか?」

鈴香被告「書く時間がなかった」

検察官「(その日の)夕方、接見に来た弁護人には話している?」

鈴香被告「食事の時間を削って接見していたので、(被疑者ノートに)書く時間はなかった」

検察官「この日の夜の取り調べで、あなたの話だと途中で休憩を取っている。そこで書こうとは思わなかったのか?」

鈴香被告「いちいちロッカーからノートを取ってもらって、部屋に帰って書く時間はない」

検察官「このとき、(彩香ちゃんを殺害したという調書に)署名して初めて休ませてもらったと話していたが、本当にそうか?」

鈴香被告「そう」

検察官「あなたは無理矢理署名を取られて、留置場に戻った。そこで(腰の)薬を塗ってもらい、取り調べに戻ったということか?」

鈴香被告「はい」

検察官「弁護人の接見より前だったか?」

鈴香被告「はい」

検察官「あなたが署名したのは、(腰の)治療をした後じゃなかったか。治療をしてもらって、取調室に戻ったのではないか?」

鈴香被告「…」

裁判長「どうですか」

鈴香被告「前だと思う」

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