第35回公判(2012.3.13) 【最終弁論】

 

(9)札束握りしめ感謝のメールも「もらっていない」と弁護側否定 木嶋被告は小首かしげる

木嶋被告

 首都圏の連続不審死事件で殺人などの罪に問われた木嶋佳苗被告(37)に対する裁判員裁判(大熊一之裁判長)は、弁護側による最終弁論が続けられている。

 平成21年8月、埼玉県富士見市の駐車場で駐車中のレンタカーの車内で練炭を燃やし、薬物で眠らせた交際相手の東京都千代田区、会社員、大出嘉之さん=当時(41)=を一酸化炭素(CO)中毒で殺害したとされる事件について、弁護側が反論している。

 「木嶋被告は大出さんにカネ目的で近づき、結婚をちらつかせて計470万円を受け取った。嘘がばれてカネの返済を迫られることを恐れ、自殺に見せかけて殺害した」というのが、この事件について検察側が描いている構図だ。

 検察側が「木嶋被告が本気で結婚を考えていたわけではない」とする根拠の一つに、マンション契約がある。

 木嶋被告は大出さんに「同居するためのマンションを探す」といっていたが、実際に契約した部屋の家賃は27万円。大出さんの月収は30万円で、生計が成り立たない−というものだ。

弁護人「木嶋さんは料理教室を開こうと計画していて、1回のレッスン料や生徒の数など、具体的なことを考えていました」

「実際に有名な料理学校の卒業生が開く教室を受講したり、インターネットで調べたり、準備をしていました」

 弁護人は、木嶋被告が大出さんの収入だけでなく、自身が開く料理教室でも収入を見込んでいたと主張したいようだ。

 また、検察側は木嶋被告がブログに400万円の札束の写真を掲載したり、「感謝します」というメールを大出さんに送っていたことを根拠に、現金470万円を大出さんから受け取っていたと主張している。

 だが、弁護人はこの点について「現金は受け取っていない」と真っ向から否定する。

弁護人「ブログにアップした現金は、大出さんからではなく、この年の1月に他の男性からもらったものです」

 ブログに写真を掲載したのは7月。だが、木嶋被告は6月の時点で、貴金属類を換金したり、借金返済を先送りするなど経済的に追い込まれていた。

弁護人「400万円に手を付けなかったのは、料理学校の資金だったから。料理学校を開くのは木嶋さんの夢。おカネに手を付けないのはありうることです」

 さらに弁護人は、検察側が主張する木嶋被告の“証拠隠滅行為”について言及する。

弁護人「検察側は、木嶋さんが大出さんの携帯電話のメールを削除したとしています。しかし、木嶋さんが削除したという証拠はどこにもありません」

 また、木嶋被告は大出さんが死亡した後、大出さん宅を訪れ、「(貸していた)写真を返してください」というメモを残している。

 検察側は、この行動を「何日たっても大出さんの死亡に関する連絡がないため、不安にさいなまれて様子をうかがうため」と主張している。

弁護人「もし殺害が失敗して大出さんが生きていたら、木嶋さんはすでに逮捕されている。わざわざ生死を確認することはありえません」

 続いて、大出さんの遺体が発見された現場の状況に話が移る。

 弁護人は、レンタカーが駐車されていたのはアパートが隣接する駐車場だったことをあげる。

弁護人「犯行中に1人でも近くを通りかかったら失敗し、逮捕される。この駐車場のような場所を選ぶはずはありません」

 睡眠薬を飲ませて大出さんを眠らせ、練炭に火を付けて殺害したとする検察側。これに対し、弁護側はこう反論する。

弁護人「大出さんはどの時点で睡眠状態になったのでしょうか」

「まず、自宅で睡眠状態になったとしたら、どうやって大出さんは車まで行ったのでしょう。木嶋さんが担いで運ぶことは考えられない。引きずって運んだ痕跡もない」

「検察側は、大出さんをもうろう状態にさせて車まで歩かせた可能性があると主張しています。しかし、都合良くもうろう状態にはできません」

「車の中で睡眠状態になったとしたらどうでしょう。車に乗り込むまでは起きていた。では、なぜ発見されたとき、大出さんは後部座席にいたのか。後部座席に積まれた練炭やコンロに気づくはずです」

 木嶋被告はひざの上に両手を重ね、小首をかしげて弁護人を見つめている。

⇒(10)「肉体関係が重要」とのメール 「定型メールに過ぎず深い意味ない」