第35回公判(2012.3.13) 【最終弁論】

 

(3)弁護側「不十分な捜査」と反論 フリル姿の木嶋被告聞き入る

木嶋被告

 首都圏の連続不審死事件で殺人などの罪に問われた木嶋佳苗被告(37)に対する裁判員裁判(大熊一之裁判長)は、弁護側による最終弁論が続いている。弁護側は、平成21年1月の東京都青梅市で練炭自殺に見せかけ、交際相手の寺田隆夫さん=当時(53)=を殺害した事件に特化し、検察官の主張に対する反論を続けている。

 裁判官の方を向き、淡々と反論を重ねる弁護人。木嶋被告は黒いニットとピンクのキャミソールを重ね着した上に、フリルのついた白いカーディガンを羽織っている。スカートのすそにもフリルがあしらわれており、華やかな装いだ。

 左肘を軽くテーブルに乗せて、じっと男性弁護人を見つめている。

 検察側は、室内から発見された練炭とコンロのメーカーと個数が一致しいていると主張。木嶋被告の犯行の根拠の一つに挙げている。弁護側は、この点に言及する。

 弁護人は、発見された3種類のコンロについて、年間の販売個数を挙げていく。いずれも1万個を超える量だ。

弁護人「いずれのコンロも年間、かなりの個数が販売されています」

「木嶋さんが購入していたものと同じメーカーだからといって、部屋で見つかったものと同じものだとは限りません。指紋やDNAが検出されたのとは話が違う」

 弁護人は刑事裁判の基本である「疑わしきは罰せず」の原則に立ち、検察側の立証のあいまいさを印象づけたいようだ。

 練炭の個数についても言及していく。現場から見付かった練炭は16個だった。

弁護人「個数が一致したということは、木嶋さんが購入したものと同じだと強く推測されそうです。確かに、練炭が1個ずつ売られているのであれば、強い推測は働きます」

「しかし、実際には練炭は1箱8個入りで流通しています。16個はちょうど2箱分ということになります」

 弁護人はさらに、事件直前に、寺田さん宅に届いた箱の中身について反論する。

 検察側は、木嶋被告が練炭とコンロを殺害直前に寺田さん宅に送ったとしている。

弁護人「木嶋さんがコンロを箱に入れたことは考えられません。木嶋さんが、寺田さんが確実に自宅にいる時間を指定して発送しているからです。荷物に寺田さんを殺害するためのコンロを入れたとするのは極めて不自然です」

 弁護人は荷物に入っていたのはシーツやシャンプーなどの日用品だったと主張。約20キロの練炭とコンロを入れた場合、荷物の送料は記録されているものより高くなると主張する。

弁護人「車で運んだ場合はどうでしょう。約20キロの荷物は手軽に持ち運べません。マンションの住人に目撃される可能性もあり、あえて危険を冒すはずはありません」

 では、ほかに誰が練炭やコンロを室内に持ち込んだのか。

 検察側は、インターネットや店舗の販売記録から、寺田さんが練炭やコンロを入手した形跡がないとしている。

弁護人「警察官が調べたのは、職場のパソコンだけ。しかも、大半の履歴にはアクセス不能でした」

「店舗の記録も、いつ、何個売ったかだけ。誰に売ったかは分かりません」

「しかも、捜査を開始したのは寺田さんが死亡した2年半後の平成23年7月。この間、練炭やコンロの販売を止めた店舗もあるはずですが、調べていません」

「また、寺田さんのお姉さんも、寺田さんの部屋にあった古いパソコンを持ち帰ったと証言していますが、その中のデータについても分析していません」

「つまり、寺田さんが練炭とコンロを入手した形跡がないというのは、不十分な捜査内の結論にすぎないのです」

 弁護人は、あくまでも寺田さん自身が練炭やコンロを購入した可能性を否定できないと主張していく。

 では、木嶋被告は何のために練炭やコンロを購入していたのか。

弁護人「検察側は、木嶋さんが練炭を料理を使ったことがないと言い切っています。しかし、木嶋さんは練炭を使った料理をブログにアップしています」

 しかし、ブログにはどんな熱源を使ったかは書かれていない。

弁護人「木嶋さんは、不特定多数が見るブログのため、事故が起こってはいけないと、どんな火元を使ったか書かなかったと証言しています。作り方についても具体的に話しており、特に不自然ではありません」

「練炭を使った料理をしたことがないという検察側の主張は、間違いないとは言い切れません」

 ここで、弁護人は大熊裁判長に休廷を求めた。審理は15分間の休廷に入った。

 木嶋被告はゆっくりと立ち上がり、法廷をあとにした。

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