初公判(2012.1.10)

 

(3)偽名を使ういびつな交際にパトロン…

木嶋被告

 首都圏の連続殺人事件で練炭自殺に見せかけ男性3人を殺害したとして、殺人などの罪に問われた木嶋佳苗被告(37)に対する裁判員裁判の初公判(大熊一之裁判長)は、少しの休憩を挟み、検察官の冒頭陳述が始まった。

検察官「被告は殺人のほか、窃盗、詐欺、詐欺未遂など計10件の罪で起訴され、立証すべき事実もたくさんある。通常、冒頭陳述は1回だが、冒頭陳述は3段階に分けて行います」

 検察官は立ったままで続ける。「時系列メモ」と「具体的事実メモ」と書かれた2枚の用紙を手に持ち、大型モニターに映し出され映像を見ながら裁判員に分かりやすく説明する。

検察官「2枚の紙は常に手元に置いて、今後の審理の参考にしていただきたい」

 この後、検察官が事件の概要について説明を開始。木嶋被告は終始、検察官の方を向き、画面に表示された時系列メモを見ながら、裁判員と一緒に検察官の説明に耳を傾ける。検察官が被告の生い立ちから、事件に至るまでの経緯を詳しく説明。裁判員らはそれぞれ手渡されたメモと見比べる。

 時折、うなずくようなしぐさをする裁判員の姿もみられる。検察官は続ける。

検察官「被告人には平成19年から逮捕されるまで交際していた男性がいたが、偽名を使って付き合うなどいびつな交際だった。このほか、パトロンの男性がおり、多額の経済的支援をしてもらっていたが、平成19年8月に70代の男性が死亡したため、無職だった被告の収入は途絶え、生活が困窮した」

 検察官は、長年、無職だった木嶋被告が交際相手以外の男性から経済的な支援を受けながら生活していたことを明らかにした上で、新たな経済的支援者を探すため、その後、結婚紹介サイトに登録したことなど、一連の事件の犯行に至る経緯を裁判員に理解してもらおうとしているようだ。

検察官「被告は平成19年12月ごろに睡眠薬800錠を購入した。また、20年6月下旬ごろ、寺田隆夫さん=当時(53)=と安藤建三さん=当時(80)=と知り合い、同年6月から7月にかけて寺田さんと安藤さんから計4百数十万円をもらった」

 検察官はこの後、メモに沿って、被告が逮捕されるまでの間、被害者男性らに睡眠薬を服用させてから現金を盗んだり、練炭自殺に見せかけて殺害していたことなどを詳しく説明。被告はこの間、表情ひとつ変えず、検察官の説明にじっと耳を傾けた。検察官は次に「具体的事実メモ」を手に取り、3件の殺人事件の共通点について説明を始める。

検察官「被告は平成20年5月ごろ、13万円の家賃と30万円のクレジットカードの支払いに追われていた」

 検察官はパトロンの男性が死亡した後、急激に困窮したことを具体的に説明。その結果、同月ごろ、結婚紹介サイトに登録し、知り合った寺田さんらから、学費などの名目で次々と金をもらっていた状況を明らかにしていく。

検察官「被告は平成17年ごろから19年後にかけてハルシオンを入手した。また、21年2月ごろには、練炭やコンロを購入した」

 犯行の動機とともに、その後、犯行に使用する練炭やコンロをネットで次々と購入したことを説明。その上で、大出嘉之さん=当時(41)=や安藤さんの遺体から、被告が入手したものと同一の催眠導入剤が検出されていたことなどをひとつひとつ裁判員にわかりやすいように説明。その上で、大出さんら3人を殺害したとしたと結論付けた。

検察官「これまでの説明についてすべて記憶する必要はありませんが、今後の審理の際にメモを見ながら確認していただきたい」

 長時間の検察官の説明に、裁判員らもやや疲れた表情をみせる。

裁判長「これから休憩します」

 傍聴席を埋めた傍聴人らから「ふーっ」というかすかなため息のような声が漏れた。

⇒(4)木嶋被告、「性交渉の不一致」で次々別れる