初公判(2010.11.24)

 

(4)47カ所の傷を3D映像で再現 残忍な犯行に目をそらす裁判員

現場

 中央大理工学部の高窪統(はじめ)教授=当時(45)=を刺殺したとして、殺人罪に問われた卒業生で元家庭用品販売店従業員、山本竜太被告(29)の裁判員裁判。休廷後から始まった検察側の証拠調べは、女性検察官による高窪教授の傷や死因についての詳細な説明に入った。

検察官「平成21年1月15日に被害者の司法解剖が行われました。その結果、被害者の遺体には刺切創、つまり突き刺したり切りつけたりした傷が全身に47カ所ありました」

 裁判員の手元にある小型モニターには、遺体の解剖図や損傷の一覧が表示されているようだ。

検察官「被害者の傷について説明します。被害者の胸と腹には、5カ所の肺などを損傷する刺切創がありました。青丸印を付けたところです」

「次に被害者の傷をCT画像を用いて再構築した3次元画像で示します」

 検察官はゆっくりとした口調で小型モニターに表示されているとみられる図表の説明を続ける。

検察官「背中には19カ所の刺切創がありました。肺、大動脈、心臓などを損傷していました。うち8カ所は体の前面まで貫通している傷でした」

 山本被告が執拗(しつよう)に高窪教授を刺した様子が傷の状態を通して語られる。向かって右から2番目の男性裁判員は、あごに手を当てながら熱心に小型モニターに見入っている。

検察官「解剖図で説明します。傷の1カ所目は背中の14番が刃物の入り口で、3番が刃物の出口となる傷です」

「背中の傷も3次元画像で示します。貫通している傷の方向を青の矢印で示します」

 小型モニターに表示されている傷の図には、分かりやすいようにそれぞれ番号や矢印がふってあるようだ。

検察官「次に手の傷について説明します。両手に3カ所ずつ計6カ所の刺切創がありました。これは防御創の可能性があります」

「その他の傷は顔面、両前腕部、下腿部など9カ所の刺切創がありました。これらの位置を解剖図で示します」

 向かって左から3番目の男性裁判員は時折、小型モニターから目をそらし、考え込んでいるような表情をみせた。

検察官「次に死因について説明しますが、これは解剖医が言っているものとして聞いてください」

「胸部刺創により胸腔内臓器損傷による失血死と考えられます。刺し傷や切り傷によって、左右の肺や心臓などが損傷し、大量の血液が流出したと考えられます」

 裁判員たちは真剣な表情で検察官の朗読を聞いている。次に死亡までの時間についての説明に移った。

検察官「被害者は胸腔内臓器損傷により大量出血していることから、攻撃を受けて短時間で死亡したと考えられます。肺に穴が空き、呼吸ができなくなったことから、両肺損傷の時点で被害者は動けなくなってしまっていたはずです」

「左右の手に、いわゆる防御創があることなどから、被害者は一瞬のうちではなく、ある程度抵抗したと考えられます。これらのことから強度の攻撃は最後の方で加えられたと考えられます」

 傷の状態からは、山本被告が抵抗する高窪教授を刺し続けた残忍な犯行の状況が浮かんでくる。

検察官「次に傷についての鑑定書の証拠調べを行います。全身のX線画像を元に再構築した3次元画像のDVDを表示します」

 手元の小型モニターにDVDが再生されたようだ。約2分後、再生が終わり大型モニターの電源が入れられた。

 画面には「統合捜査報告書(DNA型鑑定結果)」と表示されている。検察官は、高窪教授の右手親指のつめに付いていた付着物のDNA型鑑定結果の説明を始めた。

検察官「DNA型鑑定とは聞き慣れない言葉なので、DNA型鑑定とは何かという説明をします。特定のDNA領域を検査すれば父親と母親から受け継いだ塩基配列の繰り返し配列が明らかになります」

 女性検察官は図や表も示しながら、淡々とDNA型鑑定の説明を続ける。

 次に大型モニターには今回の事件で鑑定がどのように行われたかが、時系列で示された。

検察官「右手親指爪片付着物について専門家に意見を求めました。その結果、被害者のDNAと被告人のDNAが混合して作成されたものと考えて差し支えないということでした」

 DNA型鑑定結果の説明が終わると、次に男性検察官による「統合捜査報告書(犯行準備状況)」の説明に移った。裁判員たちは小型モニターから目を離さず検察官の説明を聞いている。

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