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裁判員会見(3)「反省伝わらず」「分からないことだらけ」 疑問も残った裁判員/strong>

千葉県市川市のマンションで平成19年、英国人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=を殺害したとして、殺人などの罪に問われ、千葉地裁(堀田真哉裁判長)で無期懲役の判決が言い渡された無職、市橋達也被告(32)の裁判員裁判を担当した裁判員5番の30代男性が、千葉市内のテレビ局でカメラ撮影に応じる記者会見を行った。

記者「現在の気持ちは」

裁判員5番「ほっとしている。審理と評議を含め、自分個人の悩み、迷いはつきまとっていました。違う意見の裁判員と議論を重ね、いろいろ考えることが増えました」

「夜寝れなかったことはなかったですが、もやもやとしたものがあったのは事実なので。これで終わってほっとしています」

男性は落ち着いた表情で、質問に対し時折笑顔を見せた。

記者「事件は大きく報じられ、海外メディアの注目も高かった。3週間の日程をプレッシャーに感じましたか」

裁判員5番「報道は見ないようにしました。裁判所に入ってから、裁判官が常に配慮してくれました。重く捉えすぎないようサポートしてくれました」

記者「リンゼイさんの遺族がイギリスから来て証言し、最高刑を望みました。影響された部分はありますか。遺族の言葉をどのように受け止めましたか」

裁判員5番「ご遺族に感情を伝えていただいたことは、こちらも誠意を持って受け止めました。それが、判決に影響があったかは個人としては難しいです。明確にお答えできないです。どうでしょうか」

記者「イギリスから遺族が来ていなかったら公判への関わり方はどうなったか」

裁判員5番「結果が変わっていたかは分からないですが、法廷で遺族の涙を流す場面を見ました。遺族が公判に参加したことは意義があったと思います」

続いて、記者が法廷での市橋被告の印象を尋ねた。

記者「市橋被告は初公判の入廷後、土下座をしました。だが、判決では『真摯(しんし)な反省は感じられない』と認定されました。どのように感じますか」

裁判員5番「私たちが入廷する前だったので、市橋被告の土下座は見ていないので分からないです。だが、反省の色が伝わってきたかと言われれば、証言台に立っている被告人の返答を聞く限り、本当のことを話しているという印象は受けられず、疑問が残りました」

記者「法廷で、細かな逃走の経緯が明らかになりませんでしたが」

裁判員5番「どうだろう。今回、(市橋被告が出版した)逃亡生活中の手記も読んでいないんですね。裁判員をまっとうすることに手記を読むことが邪魔になるということでなく、読みたいと思う要素がなかったのが一番の理由。あまり気にしていないですね」

市橋被告が逃亡生活を記した手記に対する男性の印象は薄いようだ。

記者「リンゼイさんに対する思いはどうですか」

裁判員5番「実際のいきさつ、どのような理由でマンションに入室して、どういう経過をたどって殺されたかは、終わってみても分からないことだらけ」

「被告人は話していましたが、それがすべてがそのままだったとは言い切れるほどの印象はないです。すべては想像になりますが、やっぱり、とんでもない恐怖を持たれていたんだろうなと思います」

「(強姦については)女性でないので屈辱、無念は分からない。長い時間拘束されて自由を奪われた。被告人と一緒の数時間もさぞかし、絶望というか…。言葉が出てこない。無念であったろうなと思います」

記者「女性の気持ちが分からないということですが、裁判員は男性のみで裁判官に1人女性がいただけでしたが」

裁判員5番「女性の気持ち…。どうでしょう。性別が偏ったことで意見が偏ったのはなかったと思う。全員男性ですが、見方が偏ったことはないと言い切れると思います」

記者「法廷の中で証拠として遺体の写真をごらんになったと思います。トラウマになったり、プレッシャーになったりはしていませんか」

裁判員5番「初めて証拠の写真が映し出されたときはショッキングで、心拍数が上がるのを感じました。でも事件の真相を知る、検察側、弁護側双方が言っていることを判断するための重要な証拠なので、自分には『証拠の1つ』と言い聞かせて見ていました」

記者「もやもや、悩みがあったということですが、どのようなときですか」

裁判員5番「やっぱり被告人自身の言うことの信憑(しんぴょう)性が薄い。勝手な印象ですが。証拠自体がいくつかあってもあいまいだった。どちらの可能性が高いか一つ一つ判断していかなければならなかった。すごく想像以上に大変というか難しかったです」

記者「難しいなかで、無期懲役と決めました。何を重視しましたか」

裁判員5番「先入観はもちろん、勝手な憶測は挟み込まず、法廷で立証された証言、証拠を判断材料として決めていこうと。そうしなきゃという思いがありました。最終的には自分の感覚、直感で感じた印象、遺族の感情を注視していたかもしれない」

記者「逃亡生活っていうのは肝だと思います。量刑に逃亡はどれくらい影響を与えましたか」

裁判員5番「あまりないと思いますよ。言い切るのは語弊があると思いますが」

記者「自首していれば、何かが変わったというところもありましたか」

裁判員5番「何かしら変わったかもしれませんが。反省の色がない。(逃亡は)事件の印象を伝えるものとなった。(悪質性を)感じ取りました」

男性は終始、淡々とした様子で裁判を振り返り、会見を終えた。

⇒その後