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(2)「強姦時の供述、信用性低い」殺意認定 被告の主張、次々と否定

平成19年3月に英国人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=が殺害された事件で、殺人と強姦(ごうかん)致死、死体遺棄の罪に問われた無職、市橋達也被告(32)の裁判員裁判の判決公判で、堀田真哉裁判長が判決理由の読み上げを開始。裁判所が認定した事実について説明していく。

裁判長「3月25日、被告方でリンゼイさんの顔に打撃を加え、結束バンドで両手首、両足首を拘束して抑圧し、強いて姦淫をした。26日ごろまでに殺意をもって被害者の頸部(けいぶ)を圧迫して殺害し、リンゼイさんの遺体を浴槽に入れて土を入れた。以上の事実について証拠によって認定します」

最大の争点となっていた殺意の有無について、検察側の主張が受け入れられたことになる。検察側の後ろに座るリンゼイさんの父、ウィリアムさんと母、ジュリアさんは目に涙をため、手で拭う。

堀田裁判長は「判断について説明します」と述べ、強姦時の状況に関する争点について言及する。検察側は市橋被告がリンゼイさんを強姦する際、顔を殴打した上で結束バンドや粘着テープで手首を縛り、強姦したと主張。弁護側は強姦時は殴打していないと反論していた。

裁判長「被告は3月25日午前9時54分ごろ、玄関付近でリンゼイさんを押し倒した。上から抑えつけ、両手首、両足首を結束バンドで拘束した」

堀田裁判長は結束バンドの大きさは45センチ、30センチで、結束バンドで手首、足首を拘束するのに手間がかかることを指摘した上で読み上げを続ける。

裁判長「リンゼイさんが少しでも抵抗したら、拘束は困難である。被告がリンゼイさんを拘束する際、リンゼイさんが抵抗できなかったと推認される」

「遺体の顔、胸部、腹部などに鈍体により形成された皮下出血が多く残されていた。リンゼイさんが強姦されそうになったとき、激しく抵抗することは常識的に考えられ、被告がリンゼイさんの(傷の程度が重かった)右目を強い力で殴るなど、全身に暴行を加えたと考えるのが自然だ」

女性通訳の言葉に耳を傾けながらウィリアムさんとジュリアさんは互いの顔を見て、うなずき合った。傍聴席に背を向けた状態で座る市橋被告に動きはない。

裁判長「被告は『強姦の際は殴っておらず、上から抑えつけて数分間もみ合いになり、被害者が疲れたからか抵抗しなくなったため、服を脱がせ、結束バンドで拘束した』と供述している。2人に大きな体格差がなかったことなどを考えると、被害者は驚愕(きょうがく)と恐怖で抵抗できなくなったと考えられる」

「驚愕」「恐怖」の言葉が通訳され、ジュリアさんは顔をゆがめて、うつむいた。堀田裁判長は市橋被告がリンゼイさんのコートの袖を強姦時に手で破り、リンゼイさんが死亡した後にカーディガンをハサミで切断したと述べていることについて明確な説明をしていないことなどを指摘した上で、こう述べた。

裁判長「被告の強姦時に関する供述は信用性が低い」

さらに堀田裁判長は市橋被告の暴行に関する供述についても疑問を呈していく。

裁判長「被告は顔を殴ったことについてはリンゼイさんを強姦した後に拘束した状態で4・5畳の和室に連れて行き、リンゼイさんに『たばこを吸いたい』などと言われてイライラし、『私を帰さないと大変なことになる』と言われてカッとなり、殴ったと供述している」

「被告は『リンゼイさんと人間関係を築いて許してもらいたかった』と述べていたのに、『リンゼイさんから帰さないと大変なことになると言われて殴った』というのは理解しがたい。強姦の際にリンゼイさんに抵抗された時には殴らず、拘束されて抵抗できないリンゼイさんを殴ったという供述は一貫性を欠いており、信用できない」

静かな口調で弁護側の主張を次々と退けていく堀田裁判長。右から3番目の男性裁判員も厳しい視線を市橋被告に向ける。

裁判長「被告が強姦の手段として顔面に打撃を加えたと推認できる。傷から手の拳による打撃と考えることもできるが、足で蹴ることも想定できるため、打撃の方法は特定できない」

判決の読み上げが続くが、市橋被告の背中は微動だにしない。

⇒(3)「頸部圧迫3分以上…明確な殺意」 動機は「発覚を恐れたため」