(3)首の圧迫に「かかと」使った可能性も 舌打ちするリンゼイさん父

英国人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=に対する殺人と強姦(ごうかん)致死、死体遺棄の罪に問われた無職、市橋達也被告(32)の裁判員裁判の第2回公判は、約20分の休廷を挟み、リンゼイさんを解剖した女性医師の証人尋問が再開された。リンゼイさんの母、ジュリアさんは再び入廷する市橋被告をにらみつける。
男性検察官は、リンゼイさんが負ったけがや死亡の原因について女性医師に尋問を続ける。
検察官「けがは何によって生じたと考えられますか」
証人「皮下出血や表皮剥脱(ひょうひはくだつ)は鈍体でできたと考えられます。鈍体とは刃物などでないもの。手首や足首の圧痕(あっこん)にはそういう形状が強く圧迫したと考えられます」
検察官「鈍体はこぶしや足も」
証人「含まれます」
検察官「手首や足首の圧痕はプラスチック製のバンドでも可能ですか」
証人「形としては大変似ている」
男性検察官が言う「バンド」とは、市橋被告がリンゼイさんを拘束するのに使った結束バンドのことだ。実際に犯行で使用されたことを立証する趣旨とみられる。
検察官「顔にあった鼻の傷はどうでしょう」
証人「何らかの圧迫があったと考えられます」
検察官「粘着テープでできることは」
証人「可能です」
検察官「被害者に救命措置の痕跡はありましたか」
証人「はっきりとは認められませんでした」
一般に、心臓マッサージをした場合、胸部を強く圧迫するため胸骨の骨折などが生じる場合がある。市橋被告が主張するリンゼイさんへの救命措置の実施について、検察側の反論とみられる。
検察官「リンゼイさんの死因は何と判断しましたか」
証人「一番考えられるのは首の圧迫による窒息死です」
検察官「根拠を説明してください」
証人「首以外の表皮剥脱や皮下出血は死因となり得ない。首の筋肉からの出血や輪状軟骨の骨折など圧迫の痕跡があったからです」
検察官「首の圧迫でなぜ死亡しますか」
証人「輪状軟骨は気管を取り巻いていて、(圧迫されることで)酸素を取り込めなくなるからです」
検察官「首のほかに窒息死の根拠は」
証人「教科書には窒息の3兆候というのがあります。『血液の暗赤色(あんせきしょく)と流動性』『臓器の鬱血(うっけつ)』『臓器や粘膜の溢血点(いっけつてん)』です。これが満たされていた」
血液は酸素不足で色が濃くなり、暗赤色に変わる。溢血点とは、毛細血管が切れ、細かい内出血が起きることだ。
検察官「リンゼイさんの溢血点はどんな風にありましたか」
証人「腎臓や肺の表面に溢血よりもう少し大きな溢血斑ができていました」
ここで、検察官は裁判員らに分かるよう「窒息の3兆候」について再び説明を求めた。
窒息死の場合、例外的に死後も血液は固まらないという。臓器は酸素が必要だが、不足することで血管が拡張し、鬱血するという。
検察官「どのような手段、方法で窒息したと考えられますか」
証人「輪状軟骨が両方で折れていることから、(首の)真ん中に狭い面で圧がかかったと考えられます」
検察官「狭い面での圧とは具体的にどのようなことでしょう」
証人「2通り考えられます。狭い作用面で押した場合と、平らな面で押した場合です。狭い場合は分かると思いますが、丸いものを平らなもので押すと接触部分は狭くなります」
検察官「狭いものとは人間でいうとどの部分になりますか」
証人「指でも、手のひらの下の方やかかとです」
検察側の立証で、首の圧迫にかかとが使われた可能性も浮上した。通訳を介してやり取りを聞いていたリンゼイさんの父、ウィリアムさんが体を大きく反らし、舌打ちした。
検察官「平らなものとは」
証人「腕やすねです」
検察官「首が圧迫された力はどれくらい」
証人「教科書には強くても15キロぐらいで気道がふさがる、とあります。おそらくそれ以上でしょう」
検察官「頚部(けいぶ)圧迫の時間、窒息死するまでの時間はどれくらい」
証人「酸素を最も必要とするのは脳。脳には5分酸素が行かなければ死亡するとあります」
ここで、検察側はモニターに「窒息の経過と症状」と題した表を映し出した。時間軸に対し、血圧や脈拍、呼吸の変化が折れ線グラフで示されている。
検察官「死亡まで5分ということですが、表に基づいて説明を」
証人「窒息が始まってから死ぬまで4期に分かれる。最初の1期(〜1分)は症状が出ない。2期(1〜3分)では呼吸困難、失禁などがある。3期(3〜4分)は呼吸ができなくなり、血圧も下がる。4期(4〜5分)では口をパクパクさせ、呼吸が止まる。4期を越えると、口のパクパクした動きもなくなり、心臓も止まる。個人差はありますが」
検察官「心停止までの大体の時間は」
証人「10〜15分続く人もいるが、常軌を越えて長いというのはないです」
検察官「首を絞め、圧迫した場合、1分程度した後に解放すれば?」
証人「その程度であれば、そのまま(状態が)戻る可能性が高い」
検察官「3分以内、2期であれば」
証人「1期を過ぎると、急に2期に入るのではないです。3期に近づくと医療措置が必要になります」
検察官「3分以上、3期に入ってからでは」
証人「医療措置がなければ蘇生しないでしょう。自発呼吸も止まっています。人工呼吸しないと死んでしまいます」
検察官「これまでの説明で、窒息死にはどれくらいの時間が必要?」
証人「5分くらい。平均で」
検察官「首を絞めた場合、どれくらいで死亡しますか」
証人「最低でも3分は必要」
検察官「リンゼイさんの場合は」
右から3番目の男性裁判員が身を乗り出して、証人の言葉を待った。
証人「健康な20代の女性ということで、ここからはそう外れることはないでしょう」
これで検察側の証人尋問が終了し、休廷に入った。午後1時半から再開し、弁護側による女性医師への証人尋問が行われる。