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(2)首を骨折、陰部に出血…遺体の状況生々しく

英国人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=に対する殺人と強姦(ごうかん)致死、死体遺棄の罪に問われた無職、市橋達也被告(32)の裁判員裁判第2回公判。リンゼイさんの司法解剖を担当した女性医師に対する検察側の証人尋問が続いている。女性医師は淡々とした口調で遺体の詳細を証言する。

市橋被告はうつむいたまま、微動だにしない。検察官の後ろに座るリンゼイさんの父、ウィリアムさんは口元の前で手を組みながら、また母のジュリアさんはほおづえをつきながら、女性医師の説明に聞き入っている。

検察官「次に(リンゼイさんの遺体の)首の部分について、写真にもとづいて説明してください」

証人「首にはたくさんの筋肉があるのですが、そのうち胸骨舌骨筋(きょうこつぜっこつきん)という筋肉に出血が見られました。また、その奥にある輪状軟骨には骨折がみられました」

検察官「では首の内部の図を示します」

モニターで首の模型図が示されたようだ。傍聴席から見ることはできない。

検察官「骨折はこの部位で間違いないですか」

証人「はい」

検察官「胸骨舌骨筋は、首のどの位置か説明してください」

証人「鎖骨とのど仏を結んでいる筋肉です」

検察官「輪状軟骨についてもお願いします」

証人「のど仏のすぐ下です」

検察官「骨の『輪』の中はどうなっていますか」

証人「空気の通り道になっています」

模型を使った説明だが、ジュリアさんは目に涙をため、徐々に鼻が赤くなってきた。再び検察官はリンゼイさんの遺体の写真を示した。今度は胸骨舌骨筋と輪状軟骨の部位に限定した写真のようだ。

検察官「写真の矢印の部分は何を示していますか」

証人「骨折部分です。2枚のうち(1)とあるのは、遺体の右側から撮っており、マルで囲んだ先、これが骨折です」

検察官「骨折は2カ所ですね」

証人「はい」

検察官「これはどういう力が働いたと推測できますか」

証人「真ん中の方から強く押す力が働いたと推測できます」

検察官「胸骨舌骨筋の状態も合わせて、推測できることはどういうことですか」

証人「頚部(けいぶ)に強い圧迫が加えられたと考えられます」

検察側は4日に行われた初公判の冒頭陳述などでリンゼイさん殺害について「強姦後に犯行発覚を防ぐ目的」で相当の力で圧迫し、明確な殺意があったと主張。一方、弁護側はリンゼイさんに大声を出されたため腕を顔に巻くなどした結果、あくまで「死なせてしまった」と訴えていた。女性医師の証言により、検察側は自分たちの主張の根拠を示そうとしているようだ。

続いて検察側は、リンゼイさんの遺体の胸部、腹部、腕の写真を順に示していった。傍聴席から見て左から3番目の青のワイシャツ姿の男性裁判員は、みけんにしわを寄せ、モニターを見ている。ウィリアムさんは、娘の変わり果てた姿に思わず目を覆った。

検察官「腕が変色していますが、これは何ですか」

証人「すべて皮下出血です。左腕のマルで囲った部分は、点のようなものがいくつか見えると思いますが、肘から手首にかけて等間隔にあるのは『圧痕(あっこん)』が混じっています」

検察官「右手首はどうですか」

証人「小さなマルが2つあると思いますが、この中にも圧痕があります」

検察官「それ以外に右手に特徴はありますか」

証人「左に比べるとむくんでいるという特徴があります。実際に切って開けると、中に組織液、要するに水がたまっていて、そのためだと思われます」

検察官「原因は何が考えられますか」

証人「手に強い圧迫が加わり、血流が悪くなったというのが一般的です」

リンゼイさんを強姦した際か、死に至らしめた際かの言及はなかったが、検察側は市橋被告が強い力でリンゼイさんの手を押さえつけたことを印象づけたいようだ。

続いて検察側はリンゼイさんの下半身部分について尋問を続ける。

検察官「陰部はどうでしょう。写真はありませんが」

証人「膣入り口の粘膜、右の小陰唇内側のつけ根に出血がありました」

検察官「出血はどうして起きたと考えられますか」

証人「強く圧迫されたと思います」

検察官「何が原因ですか」

証人「何か圧迫、挿入があったのでは」

午前11時5分、休廷に入った。ウィリアムさんはポケットに手を入れて市橋被告をにらみつけ、いったん退廷した。

⇒(3)首の圧迫に「かかと」使った可能性も 舌打ちするリンゼイさん父