(4)殺害後に夫と“会話” 警察署の鏡に白シャツの祐輔さんが…
検察側が請求した鑑定人、金吉晴氏への尋問が続く。
金鑑定人「犯行直前の平成18年12月11日、事件の1日前に歌織被告は祐輔さんとケンカをし、その夜は眠れなくなった。11日には祐輔さんの浮気をしたテープ(交際女性との電話の会話を録音したテープ)を入手し、『これで離婚できるはず』と、一種の解放感を味わっていた。その日に母が上京すると言っており、『母が来る前に決着を付けよう』と思い、祐輔さんに電話をしたが怒鳴りつけられた」
「そして強い恐怖感を抱いて、友人の○○さん(実名)を呼び、祐輔さんには早めに帰宅するように依頼して待っていた。私たちは○○さんを面接したが、夫を待っている間の被告の様子は『普通だった』と話している」
金鑑定人は、ここから歌織被告の精神状態の変化の説明を始める。被告はじっと聞き入った。
金鑑定人「祐輔さんの帰りが遅く、○○さんは帰宅してしまい、1人で待っていた。そのときから様子が変わり、いつも部屋から見慣れている代々木公園が、暗くて不気味に見えるようになり、孤独感を感じた。これは『未視感』という現象だ。そして部屋の中が不気味で、いつもかわいがっている犬にもさわれなくなった。これも『未視感』といえるだろう」
「午前4時に祐輔さんが帰ってきたが、話はかみ合わず祐輔さんは寝てしまった。それから歌織被告は『地響きが聞こえるような感覚、体が二つに割れてマグマが吹き出すような感じを覚えた』と言った。不安、不穏を感じる、強い情動反応といえる」
「その後、血を流している女性の姿が見えてきた。歌織被告はそのとき『もしや自分の姿かもしれない』と思ったという。その後、意識がぼんやりしてきて、気づくとワインボトルを片手に持っていた。そして気がつくと祐輔さんの枕元に座っていた」
「血を流した女の姿の幻覚が浮かんできて、視野が明るくなりフラッシュのように様々な映像が浮かぶという幻視、幻聴が見えた。これは『夢幻状態』というものだ。視野が明るくなっていろいろ見える。歌織被告は『死ぬ前の走馬燈のようなものかと思った』といった」
幻聴、幻覚についての証言がさらに続く。
金鑑定人「歌織被告は、『祖母からもらった携帯のストラップが大きく見えてきた』と言った。これは祐輔さんに捨てられたもので存在はしないものだ。そして次には祐輔さんが読んでいた男性雑誌が見えてきた。これは被告が嫌に思っていたものだ。その後、祖母がインターフォン越しに話しかけてくるという、白黒の映像が見えてきた」
「そしてまた代々木公園の暗い映像が見えた。だが、被告の座っている位置からは公園は見えない。だから、これは幻視ではないかと思われる」
金鑑定人の報告はは、ついに犯行時の歌織被告の精神状態に至った。
金鑑定人「それから女性の『助けて』、という声が聞こえた。体に鉛が入ったような感じがし、ワインボトルが重く感じた。疲労感があって、『もう嫌だ』とワインボトルを下ろしてみた。この行為については『重くなければ下ろさなかった』と言っている。そして祐輔さんが『何でだよ』といって近づいてきた。額に出血が見えて恐怖を感じて、重ねて殴打した」
「被告は『一つの映像のように感じた』といっている。その後、隣の部屋で放心状態になった。これは情動反応だ。そして手の痛みに気づいて、血の付いた指紋が盛り上がってくるような感じがした。これは『巨大視』だ」
「また幻視が見えた。火の粉の舞う中に裸の女性がいて走っていた。女性は火の見やぐらに上って半鐘を鳴らして『速く逃げなさい』と言った。被告はそのとき『あ、自分だ』と思ったという。その後、部屋から朝の光景が見えた。代々木公園が非常にきれいに見えて、精神状態が楽しくなって自分が笑っていることに気づいた。これは一種の強迫感だ」
「その後、室内を徘徊(はいかい)した。パン屋にコーヒーを飲みに行こうとしたが、血だらけの服の上にコートを着ているのに驚いた。髪の毛にも血が付いていてドライヤーで乾かしたが、ドライヤーがショートした。祐輔さんが壊したのではないかという恐怖を感じた。家の中でも手袋をして、血のにおいが体から離れなかった。これは『幻臭』である」
「被告は『祐輔さんの存在は逮捕まであった』と言っている。だが事件後に、それまでは一度もなかった幸福感、多幸感を感じたのも事実だ。
「事件後、被告はほとんど睡眠をとっていない。ネットカフェで過ごしたりした。遺体を切断するノコギリを買うときも、『ノコギリなんて小学生で使って以来だよ』と歌織被告が言うと、祐輔さんが『お前じゃ絶対できないよ』と言った」
「遺体を捨てに行くときは、新宿のマクドナルドで寝てしまった。そのときも『お前の負けなんだ。逃げるなら逃げてみろ』と祐輔さんに言われ、『バカじゃないの』と言い返した。頭部を公園に埋めているときも祐輔さんの声で『ありえない』と聞こえた。捜索願を警察署に出しに行くときも、署についたら階段踊り場の鏡に自分と祐輔さんの姿が、白いワイシャツを来ている祐輔さんの姿がはっきり見えた。そして祐輔さんは『ざまあみろ』と言った」
「警察に行って不安感はなくなって多幸感、平和で落ち着いた気持ちになった。ただ部屋は怖いので、渋谷や青山を何時間も歩いた」