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(13)「家族、仕事、社会の信用…。田中さん。すべてと言っていいぐらい失いました」 後悔にじませる被告

合成麻薬MDMAを一緒に飲んで容体が急変した飲食店従業員、田中香織さん=当時(30)=を放置して死亡させたとして、保護責任者遺棄致死罪に問われた元俳優、押尾学被告(32)に対する弁護人の被告人質問が行われている。男性弁護人は、押尾被告がMDMAを使用するようになった理由などを質問している。

弁護人「MDMAを使うようになったのは、セックスの快感を増すためだったのではないのですか」

被告「違います」

弁護人「田中さんと使用するようになったのはなぜですか」

被告「仲が良かったし、いろいろ教えてもらうことも多く、クスリの気持ちよさにおぼれてしまう自分がいました」

弁護人「今は薬物を使用したことをどう思っていますか」

被告「軽い気持ちでクスリに手を出し、本当にバカなことをして、とても後悔しています」

弁護人「違法薬物は二度としませんか」

被告「はい」

弁護人「本当ですか」

被告「こういうことが起きて、二度としたくありません」

弁護人「平成21年8月3日に逮捕されて、何を失いましたか」

被告「家族、仕事、社会の信用…。田中さん。すべてと言っていいぐらい失いました」

弁護人「田中さんが亡くなったことについてはどう思っていますか」

被告「すごく仲良かったので、非常に残念です。自分がそばにいながら助けることができず、悔やんでいます。ただ、私は見殺しにするようなことはしていません。毎日、冥福(めいふく)を祈っています」

裁判員は眉間(みけん)にしわを寄せて、押尾被告と弁護人のやりとりを見つめている。

弁護人「どのように祈っていますか」

被告「わたしはキリスト教なので、イエスさまとマリアさまに犯した過ちや今までやってきたバカなことのお許しを求めたり、田中さんのことを悔いたりしています」

弁護人「田中さんの遺族に対してはどう思っていますか」

被告「もし立場が逆なら、私の両親も同じ気持ちだと思う。ただ一つ分かってほしいのは、私は見殺しにすることは、絶対にしていません」

押尾被告は絶対という言葉に力を込め、何度も見殺しにはしていないと強調する。ここで弁護人の質問は終了し、質問は検察側へと移った。

男性検察官が押尾被告が麻薬取締法違反罪に問われた前回の裁判と今回の裁判で、証言した内容が食い違っていることを追及していった。

検察官「前回は、田中さんが部屋に来て何をするつもりだったと答えましたか」

被告「覚えていません」

検察官「何の目的もなかったと答えていませんか」

被告「そう書いてあるのならそうなんだと思います」

検察官「前回の裁判と今回の裁判と、どちらが本当なんですか」

被告「今回がすべてです」

検察官「今回と前回は何が違うんですか」

被告「前回は隠したい、少しでも現実から逃げたいという気持ちで、隠したいということしかなかった。今回は何も隠さず、すべて話しています」

検察官は口調を強めて質問を進めていく。

検察官「本当にあなたが田中さんとドラッグセックスを始めたのはいつなんですか」

被告「21年4月ぐらいです」

検察官「21年4月より前に、ほかの女性とドラッグセックスをしたことはないんですか」

被告「ドラッグセックスはありません」

検察官「仮にそうだとして、なぜ田中さんとドラッグセックスを始めたのですか」

被告「一緒にやろうということになり、お互いに余計なことは言わず聞かず、信頼関係があったというか…」

検察官「MDMAは誰が持ってきていたんですか」

被告「田中さんです。あと私もあります」

検察官「田中さんと8月2日に会うと約束したのはいつですか」

被告「前日、前々日…」

検察官「7月29日にやり取りをしていませんか」

被告「そうです」

検察官「田中さんが来るのが分かっているなら、田中さんに持ってきてと頼めばよかったのではないですか」

被告「お互いに用意するというのが前提なんです」

検察官「(事件のあった六本木ヒルズの部屋の)ベッドの脇に、(携帯音楽プレーヤー)アイポッドが忘れてありましたよね。誰のものですか」

被告「私の女性の友人です」

検察官「ベッドの脇に忘れるなんて、ずいぶん親密な関係なんですね」

弁護人「異議あり」

弁護人がやりとりをさえぎるように言った。弁護人は「その人については詳しく聞かないことになっている」などと山口裕之裁判長に訴えた。

検察官「田中さんとのドラッグセックスの回数は?」

被告「覚えていません」

検察官「何回会って、そういう機会を持ったのですか。会ってもしないときもあったのでしょう?」

被告「数えたことがありません」

検察官「10回以上とか、4、5回とかおおざっぱな数字でもいいから分かりませんか」

被告「正確な回数は分かりません」

検察官「数が多すぎて覚えていられないということなのか、少ないけど言うことで誤解されることがあってはいけないということなのか、どちらなんですか」

被告「質問が難しいです」

検察官「いっぱいあって回数が分からないのか、少ないが数えていないのか、どっちですか」

被告「真ん中ぐらいです」

検察官とのかみ合わないやり取りの連続に、傍聴席から突然、笑いが起きた。

検察官「(8月2日に田中さんと会った日に)田中さんはハイテンションでハグしてきて、MDMAを飲んで、DVDを見たということですね。あなたはメールの『来たらすぐいる?』という表現を、自分自身が欲しいのかという意味だと言っていますが、田中さんが来てすぐにしたのはセックスではないじゃないですか」

被告「イチャイチャはしてました」

検察官「あなた(押尾被告)が欲しいか、という意味ではないんじゃないですか」

被告「違います」

裁判員はひじをついて眉間に指を当て、押尾被告を見つめている。

検察官「(麻薬取締法違反罪で実刑が確定している)泉田さんが、アミノ酸(MDMAの隠語)という言葉を使い始めたのはいつですか」

泉田さんとはMDMAを押尾被告に譲り渡したとして実刑が確定した泉田勇介受刑者(32)のことだ。

被告「分かりません」

押尾被告はきっぱりした口調でそう答えた。

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