(3)救命の可能性、薬物中毒への対応… 執拗に尋ねる弁護人

合成麻薬MDMAを飲んで容体が急変した飲食店従業員、田中香織さん=当時(30)=を放置して死亡させたとして、保護責任者遺棄致死など4つの罪に問われた元俳優、押尾学被告(32)の裁判員裁判第4回公判。検察側が請求した、救急車の走行実験をした麻布消防署の救急職員が落ちついた様子で証言している。
検察官の尋問が終了し、男性弁護士が立ち上がって尋問を始めた。
弁護人「薬物中毒の経験のある救急隊員はどれくらいいますか」
証人「(救急隊員に)なりたてだとない場合もあるかもしれませんが、3人の中には必ず1人2人います」
弁護人「違法な薬物の救急経験をお持ちの方は多いのですか」
証人「場所によると思います。東京だとやはり多いです」
弁護人「血中濃度の測定はできますか」
証人「できません」
弁護人「血中濃度が高い場合に下げる解毒剤は投与できますか」
証人「できません」
弁護人「薬剤投与はできますか」
証人「薬剤投与できる救命士とできない救命士がいます」
弁護人「セロトニン症候群はご存じですか」
証人「セロトニンという言葉は知っていますが、(症状を)理解はしていないので、観察カードに従って搬送します」
弁護人「肺水腫を起こした場合はどうしますか」
証人「普通に酸素吸入します」
弁護人「重篤な場合、根本的に肺水腫の治療をすることはできますか」
証人「治療は救急隊員にはできません」
弁護人「人工呼吸をする措置をとりますか」
証人「その通りです」
男性証人は、はっきりとした口調で、弁護人の質問に淡々と答えていく。
弁護人「薬物中毒の搬送で体位を変えるときに、振動が刺激になって、心室細動を早めることはあると思いますか」
証人「可能性はあると思います」
弁護人「救急車のAED(自動体外式除細動器)よりも、病院の(AEDの)方が優れていますか」
証人「変わらないと思います」
弁護人「患者が高体温だったらどうしますか」
証人「冷却します。救急室内のエアコンを冷やして体を冷やします」
弁護人「高体温かどうかはどうやって分かるのですか」
証人「体温計を使ったり…。触った感じでも分かります」
弁護人「医師の判断は仰がないのですか」
証人「高体温であるとは報告しますが、判断は仰ぎません」
弁護人「その場で高体温と分かった場合、救命士が判断するのですか」
証人「そうです」
押尾被告は弁護士が質問を始めると、視線を向け、ボールペンで何かメモを取っている。
弁護人「部屋の中でやるならどうしますか」
証人「あえてやるなら、冷却剤を脇の下や、首の横にあてたりします」
弁護人「心肺停止するとどうしますか」
証人「心肺蘇生(そせい)法を実施します」
弁護人「人工呼吸と心臓マッサージですか」
証人「そうです。心肺蘇生法は脈が回復するまで、医師に引き継ぐまで実施します。AEDは心室細動を生じている場合に使います」
119番通報時の救命の可能性と田中さんがいつ死亡したのかは今裁判最大の争点だ。弁護側は、田中さんの容体急変から死亡までは数分と主張。押尾被告は人工呼吸と心臓マッサージを行ったが救命の可能性は低く、保護責任者遺棄致死罪は成立しないと主張している。
弁護人「仮に部屋を出て、救急車に運ぶまでに心肺停止したらどうしますか」
証人「たとえ、それがどこであれ、心肺蘇生法を実施します」
弁護人「ストレッチャーを止めるのですか」
証人「ストレッチャーを止めて、(心肺停止を)確認したら、ストレッチャーを動かしながらやります」
弁護人「(ストレッチャーの)どの位置でやるのですか」
証人「心臓マッサージは原則、横でやります。人工呼吸は頭の上でやります」
弁護人「(心肺蘇生法を)やらない場合と、やりながら(ストレッチャーを)進める場合では、(やった方が)ストレッチャーのスピードは落ちますか」
証人「もちろんです」
押尾被告は資料をめくり、ボールペンで何かを書き込んでいる。
弁護人「患者がけいれんを起こしている場合、医師の指示を受ける必要はありますか」
証人「必要はないです。気道を確保して、酸素を吸入します」
弁護人「部屋に患者がいれば、部屋の中でAEDは装着しますか」
証人「はい」
弁護人「患者が暴れたら、時間を要する場合はありますか」
証人「あると思います」
弁護人「麻布消防署で、検証を行いますというのは、どの程度前に聞きましたか」
証人「はっきり記憶していないのですが、1カ月前くらいです」
弁護人「今年の1月18日に立ち会われていますが、その1カ月前でいいですか」
証人「はっきりとそこは記憶にありません」