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(7)遺族に頭を下げた星島被告…“最後”の発言は「1日も早く死刑にしてください」

弁護側の最終弁論は佳境に入る。星島被告は被告人席で両手をひざに置き、うつむいたままだ。その目は閉じているようにも見える。

弁護人「次に被告の勾留(こうりゅう)中の反省の状況についてです。被告人は逮捕直後、弁護人との接見で、被害者の冥福(めいふく)を祈る方法を尋ねたので、弁護人が般若心経を差し入れたところ、これまで毎日のように写経を続けています。昨年11月の時点で既に2000枚以上になっており、その後さらに写経を続けていますが、そのすべてに被害者への謝罪文言が付け加えられています」

被告が人知れず行ってきたこと、それは写経だった。

「また、拘置所の自室には簡単な祭壇を作り、生花などのお供えをして毎日被害者の冥福を祈っています。被告は自分の犯罪を許してもらうために被害者の冥福を祈っているわけでも、写経を続けているのでもありません。あくまで純粋に被害者の冥福を祈るために続けているので、公判で膨大な量の写経したものを提出することを望んでいません」

弁護人は再び罪の重さについて触れる。判決としては無期懲役が相当なことを強調する。

弁護人「被告の犯した罪は決して軽視できないが、被告を無期懲役に処したとしても果たして罪刑の均衡を失しているといえるでしょうか。『永山判決の死刑基準』と比較しても、決して死刑に処しなければ正義に反するとは思えません。一般予防の見地からですが、最近、極悪非道な事件、人間の生命を軽視した事案が後を絶たず、マスコミを騒がせています。しかし、今回の事件と類似の事件は起こっておらず、被告を死刑にしたからといって、一般予防に資するとは思えません」

最終弁論はまとめに入る。星島被告はほとんど体を動かさずうつむいたままで、どこまで弁護人の言葉を聞いているのかは分からない。

弁護人「まとめの言葉ですが、『永山判決の死刑基準』に当てはめると、被告に対して死刑をもって臨む必要までは認められません」

これまでの公判で「死刑にしてほしい」と述べてきた星島被告。弁護人はこうした星島被告の言葉についても意見を述べていく。

弁護人「すでに死を覚悟している被告に対し、はたして実際の死刑判決が必要でしょうか。被告にとって無期懲役は死刑より辛く厳しいものになるかもしれませんが、弁護人としては無期懲役の刑で被告に将来にわたって被害者の冥福を祈らせるべきだと思量します」

死刑回避のため、弁護人は様々な表現を使って訴える。

弁護人「人間は2度死ぬといわれています。1度は肉体的に、もう1度は、その死んだ人のことをみんなが忘れ去ったときだといいます。被害者のご遺族や関係者も被害者のことは一生忘れないでしょうが、被告も被害者を一生忘れず供養を続けるでしょう。被告は命の尊さを理解したはずであり、被害者の冥福を祈る気持ちが強い以上に、被告には刑務所内で冥福を祈らせる毎日を送らせることも、この事件処理の選択肢の1つであろうと思量するものです。弁護人としても被害者のご冥福を祈りつつ、被告に一生涯、被害者の冥福を祈らせるよう望み、弁論を終えます」

最終弁論が終わり、弁護人は着席した。裁判長に促された星島被告が証言席にゆっくりと歩みを進める。証言席に立った星島被告は、最終意見陳述を始めた。相変わらず小声だが、被告人質問などに比べれば口調ははっきりしている。

星島被告「東城瑠理香さん、遺族のみなさん、友人、知人の方々、申し訳ございませんでした。謝っても謝っても気持ちはおさまりません。弁護士の先生は何度も接見で説得してくれましたが、やはり死刑でおわびさせていただくしかないと思います。瑠理香さんの無念、思い返すだけで…」

星島被告の声がつまる。語尾が聞き取りにくくなる。

星島被告「どうしてこんなにひどいことをしたのか、1日も早く死刑にしてください。1日も早くお願いします」

最終意見陳述の最後、星島被告は傍聴席に座る遺族らを振り返る。頭を下げながら、さらにはっきりとした口調で「すみませんでした」と謝罪した。公判が始まって以来、星島被告が遺族に直接メッセージを送るのは初めてだ。しかし、遺族らが星島被告と目を合わせることはなかった。

星島被告が裁判長のほうに体を向けると、裁判長は「評議に慎重を期したい」と、当初2月10日に指定していた判決期日の延期を提案する。検察側・弁護側も了解したため、裁判長は改めて判決を2月18日午前10時に指定し、午前11時37分、閉廷した。

⇒論告要旨(1)「性奴隷」は夢想の産物、動機に酌量の余地なし