(5)背中の血が止まらず、死を覚悟…「仕事や家族、全てのこと考えた」

男性検察官は、加藤智大(ともひろ)被告(27)にダガーナイフで背中を刺され、重傷を負った男性証人に事件当時の状況を詳細に尋ねていく。証人は業務研修を受けるため、事件の約1週間前に東京へ単身赴任したばかりで、この日は上京してきた妻、娘とともに秋葉原へ観光で訪れていた。
加藤被告が運転するトラックが人をはねながら交差点に突入するのを目撃した証人は、家族とともに走って逃げる途中、背中に衝撃を感じたという。
証人「何回か(背中に)手を当ててみると、血が噴き出したのを感じ、これはやられたなと思いました」
検察官「その後、どういう経路で逃げましたか」
証人「路地に入っていきました」
検察官「どのようなことを考えましたか」
証人「このまま走っていたら、出血多量で死ぬかなと思いました」
検察官「奥様とお嬢さんはどうしていましたか」
証人「(逃げている途中)娘の姿は見えました」
検察官「お嬢さんに声はかけたのですか」
証人「『やられた』と言いました」
検察官「どこまで逃げたのですか」
証人「このあたりまで行って、倒れ込みました」
男性は、大型モニターに映し出された現場見取り図を指した。男性が逃げ込んだという路地の西側の突き当たりにあたる場所だ。
検察官「倒れた際、近くに誰か来ましたか」
証人「家内と娘と…。周りの人も助けてくれました」
検察官「奥様には何と言いましたか」
証人「携帯を渡し、『この人たちに連絡してくれ』と言いました」
検察官「なぜですか」
証人「万が一のことを考え、その行動に出たのだと思います」
証人は万が一のことを想定し、妻へ重要な知人たちへの連絡を託したようだ。
検察官「死んでしまうかもしれないと思ったのですか」
証人「はい。血が止まらなかったので…」
検察官「このとき、痛みはありましたか」
証人「痛みもありましたし、呼吸も苦しくなっていました」
検察官「ほかにどんなことを考えましたか」
証人「いまやっている仕事とか…家族とか…すべてを考えました」
遮蔽(しゃへい)措置がとられているため様子をうかがい知ることはできないが、証人は検察官の質問に落ち着いて答えていく。加藤被告は手元のノートにしきりにメモを取っている。
検察官「娘さんはどうされていたのですか」
証人「これは後で聞きましたが、携帯で救急車を呼んでいました」
検察官「奥様は何をされていたのですか」
証人「血を止めてくれていました。ビニールの袋で傷口をおさえてくれていました」
検察官「周囲には他の人もいたのですか」
証人「はい。『頑張れ』とか、『しっかりしろ』とか…みんな助けてくれました」
検察官「それを聞いてどう思いましたか」
証人「うれしかったです」
検察官「病院ではどのような処置を受けましたか」
証人「レントゲンなどを撮って、止血の応急処置をしてもらいました。病院の名前を聞いたとき、助かるかもしれないと思いました」
検察官「検査などを受ける際に苦労したことはありますか」
証人「待っている間は痛いですね。…本当に痛かったです」
検察官「事件当日の夜に手術を受けたのですか」
証人「はい。ICU(集中治療室)に5日間入り、後は一般病棟です」
証人は6月23日に退院し、7月7日から職場へ復帰したという。検察官に「体調が万全になったと思えた時期は?」と尋ねられると、「8月に入ってからです」と答えた。
検察官「今、傷の状態はどうですか」
証人「外科的に言う完治状態です。今でもつっぱり感があります」
検察官「傷がひきつると何か起きますか」
証人「すべてフラッシュバックします。いま申し上げた内容全部が、です」
検察官「ほかに事件のことを思いだすことはありますか」
証人「トラックがそばを通り過ぎたときや、人ごみに入ったときです」
ここで検察官は、加藤被告が事件後に被害者へ送った手紙について質問した。
検察官「被告から手紙が届いたことはありますか」
証人「来ていたようです」
検察官「それは、どういうことでしょうか」
証人「内容を見ていないからです。そのまま警視庁に提出しました」
検察官「差出人は?」
証人「弁護士さんだったと思います」
検察官「中を見たいとは思いませんでしたか」
証人「見ない方がいいと思いました。こういう公正な場に出る前に予備知識をつけたくなかったからです」
最後に検察官は、男性に「いま、事件について思うことはありますか」と尋ねた。
証人「たくさんの方が亡くなられ、その方々に哀悼の意を示したい。被告には反省してもらいたいと心から思います」
さらに、過熱した事件報道についても言及した。
証人「報道機関の方々には、家族がこういう目に遭ったらと考えていただき、ちゃんと考えて報道をしてもらいたいです。あまり興味本位で報道はしてほしくありません」
代わって弁護人が質問に立ち、証人が逃げた経路などについて確認。最後に弁護人が「今後、手紙を読んでいただけることはあるのでしょうか」と尋ねると、証人は「ちゃんと結審したら読ませていただきます」と答えた。
ここで証人尋問は終了し、裁判長は約20分間の休廷を告げた。