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第5回公判(2010.12.2)

 

(1)その瞬間、微動だにせず…前を向いたまままばたきを繰り返す被告

中央大学

 中央大学理工学部教授の高窪統(はじめ)さん=当時(45)=を刺殺したとして殺人罪に問われた卒業生で元家庭用品販売店従業員、山本竜太被告(29)の裁判員裁判員判決公判が2日午後、東京地裁で始まった。検察側と弁護側の双方に「犯行当時、山本被告は妄想性障害にかかり、心神耗弱状態だった」という点で争いはなく、裁判員が量刑をどのように判断するかに焦点が絞られている。

 検察側は「妄想性障害だったが、妄想に完全に支配されていたわけではなく、自分の行動をコントロールすることはできた。思い込みに基づく身勝手な動機は強い非難に値し、結果は重大」として、無期懲役から心神耗弱による減軽を考慮し、懲役20年を求刑した。

 これに対し弁護側は「動機の多くが、妄想に起因していることを冷静に判断してほしい」として、懲役6年が相当だとした。

 これまでの被告人質問で山本被告は「自分を監視する団体のトップである高窪教授を殺害すれば、これらの出来事の首謀者が分かると思った」と動機を説明。自分への嫌がらせに高窪さんが関与していた可能性については「50%程度だと思う」と、今も半信半疑であるとしながらも、遺族に対しては「大切な人を奪ってしまい、申し訳ないことをした」と謝罪した。

 法廷は前回までに続き東京地裁最大の104号法廷だ。裁判所側が「準備が整わない」として予定時間を約30分遅れての開廷となった。午後3時28分、刑務官に伴われ、傍聴席から向かって左の扉から山本被告が法廷に入ってきた。

 前回同様、白いタートルネックのセーターに黒いズボン姿。髪が少し乱れている。山本被告は弁護人の隣の席に座ると、まっすぐ前を見据える。時折、気持ちを落ちつかせるように数秒間深く目をつむる。

 続いて男性3人、女性3人の裁判員も入廷した。午後3時ちょうど、今崎幸彦裁判長が開廷を告げた。

裁判長「それでは開廷いたします。被告は前にきてください」

「お待たせしました。そこに立ってもらえるかな。山本竜太被告ですね」

山本被告「はい」

 山本被告は背筋を伸ばして証言席の前に立つと、まっすぐに前を向いてはっきり法廷に響く声で答えた。

裁判長「判決を言い渡します」

 いよいよその瞬間が訪れた。法廷はしわぶき一つ聞こえず、水を打ったように静まりかえっている。

裁判長「主文。被告を懲役18年に処する。未決勾留日数中230日をその刑に算入いたします」

 山本被告は判決の瞬間も微動だにせず、うつむきがちに前を向いていた。裁判員らは一様に真剣な表情で目の前の山本被告を見つめていた。

裁判長「判決理由は少し長くなるので、もとの席に戻って」

 山本被告は、弁護人の隣の席に戻ると、先ほど同様、少しうつむきがちに前を向き、まばたきを繰り返している。表情からは動揺は読み取れない。

裁判長「理由の要旨を述べます」

 今崎裁判長は「罪となるべき事実」について述べる。裁判所が認定した判決によると、山本被告は昨年1月14日、東京都文京区の中央大後楽園キャンパスの1号館4階の男子トイレで、刈り込みばさみを分解して片刃にした自作の刃物で高窪さんの背中や胸などを多数回突き刺して殺害した。

 次に焦点となる山本被告の責任能力についての判断に移った。

裁判長「被告が犯行当時、心神耗弱の状態だったことは当事者間に争いはない。しかし、被告の量刑を決める重要な事情であるので、立ち入って検討する」

 今崎裁判長は、法廷での鑑定医の証言を「合理的なものと考える」とし、山本被告が周りの出来事を悪意のあるものと考える「妄想性パーソナリティー障害」があった点を指摘した。

裁判長「望み通り就職先が決まらないことなどから精神障害である妄想性障害を発症し、『被害者を中心とする圧力団体が自分に対し、精神的な苦痛を与え続け、命を狙っている』と強く信じるようになった」

「鑑定医は『精神障害は犯行に至る経緯に大きな影響を与えていたが、犯行当時の考えや行動すべてにわたって強く影響を与えたわけではない』と指摘している。裁判所はこの意見を合理的なものと考えた」

 今崎裁判長は「嫌がらせの首謀者をはっきりさせたい」「殺すことで嫌がらせが終わるかどうか答えを見つけるしかない」と山本被告が考えていた点を挙げ、「中心的な動機は妄想に基づいていた」と指摘した。

裁判長「妄想がなければ、決して本件のような犯行を犯さなかったことは明らかである」

「ただし、殺害を決意したことに妄想が直接的な影響を及ぼしたと断定するのは早計である。殺害以外にも被害者に直接会って談判する、警察に相談するなどの手段が考えられた」

 今崎裁判長は、山本被告が法廷で「幕末期の武士であれば、嫌がらせを受ければその相手を直ちに切るという発想になったはずだ」と独特の価値観で説明した点を挙げた。

裁判長「武士を引き合いに出した説明は理解でき、犯行を決意する過程における妄想性障害の影響は限られたものだったという鑑定医の意見は納得できる」

 次に被害者の行動を確認したり、現場の下見を繰り返した点を挙げ、「極めて綿密、周到に準備し犯行に及んでいる」と指摘した上でこう続けた。

裁判長「被告の一度決めたらやり遂げる性格の表れ、被告が犯行の遂行に向け、計画的かつ冷静に取り組んでいたと理解できる」

「被害者を多数回突き刺すという残忍かつ執拗(しつよう)なものだが、心臓を刺すつもりではずれたことや被害者の反撃が予想外であわてたことを認めている。一見、異様な犯行でも妄想による直接の影響があったとみることは相当ではない」

 今崎裁判長は「以上の検討をへて被告の責任については以下のような結論に至った」とし、動機には妄想性障害の影響が強く認められ、「犯行までの行動を方向付けた」と指摘した。

裁判長「他方で、殺害を決意してからの行動は、山本被告のもともとの性格や考え方に起因する部分が大きく、妄想の影響は限られたものだった。被告の行動は妄想性障害に基づく妄想の影響以外の心理による判断で犯したといえる部分がある」

 今崎裁判長は「量刑 の理由」について述べ始めた。山本被告は、まっすぐ前を向いたまま、微動だにせず、まばたきを繰り返している。

⇒(2)「冥福を祈ってください」 裁判長の語りかけに、抑揚のない声で「分かりました」