判決要旨(1)
【主文】
被告人を懲役5年6月に処する。未決勾留日数中120日をその刑に算入する
【理由】
罪となるべき事実など省略
◎量刑の理由
本件は、被告人が
【1】単独で(1)大学の教室で金品入りの財布を窃取し、(2)窃取したクレジットカードを使用して薬局で商品をだまし取り、(3)タクシーの運転手を欺き、タクシーに乗車して財産上の利益を得た
【2】女友達と共謀の上、(1)女が出会い系サイトで知り合った男性に暴行等を加えて、金品を強取しようとしたが未遂に終わり、(2)電車内で男性客から女が痴漢をされたと警察官に虚偽の申告し、(3)ゲームセンターで遊客から金品入りの財布を窃取したという、窃盗及び詐欺各2件、強盗未遂及び虚偽告訴各1件の事案である。
被告人は、本件各犯行当時、大学生として基本的に実家で両親らと同居し、両親らに小遣いをもらうなどして暮らしていたが、飲食、パチンコ代、女性との交際費などに多額の金銭を費消する派手な生活を送るうち、各種犯罪行為によって、楽をして遊興費等を入手しようなどと考え、本件各犯行に及んだものであって、金銭欲に基づく安易かつ身勝手な犯行動機に酌むべきものは全く認められない。
その各犯行態様をみても、
【1】(1)の窃盗及び(1)(2)(3)の詐欺の各犯行は、他大学の学園祭の最中に、無人となっていた教室に一人で入り込み、机上に置かれていた学生のショルダーバッグ内から現金やクレジットカード入りの財布を抜き取った上、その直後に盗んだクレジットカードを利用して、薬局でひげ剃りなどを購入したり、乗客を装って利用したタクシーの運賃の支払いに同カードを不正使用したりしたもので、いずれも計画性のみられる悪質な犯行である。これら3件の被害合計額は10万円余りと決して少ないとはいえない。
また、【2】(1)の強盗未遂の犯行は、被告人が、当時交際していた女との共謀に基づき、女にインターネットの出会い系サイトを通じて、女との交際を求める男性を言葉巧みに呼び出させた上、女をして前記男性と一緒にホテルに行く振りをさせつつ、同人の車を停めていた駐車場に連れ込ませ、同所において、被告人がいきなり、おれの女に手を出したなどと怒鳴りつけ、被害者の弁明も一顧だにせず、繰り返しその顔面を手拳で殴打したり、その腹部等を膝蹴りしたりし、さらに路上に引き倒した被害者の腹部等を足蹴にするなどの激しい暴行を加えつつ、金銭を要求したもので、計画的かつ巧妙であるのみならず、粗暴かつ執拗な犯行であって、相当に悪質というべきである。
被害者は、被告人から、突然、因縁をつけられ、一方的に激しい暴行を受けて大きな苦痛と恐怖を味わわされたばかりでなく、その後も、食事を含む日常生活や接客業の仕事等にも大きな支障を生じるような痛みがしばらく続いたというのであって、その結果を軽視することはできない。被害者の被告人に対する処罰感情には今なお厳しいものがある。
また、【2】(2)の虚偽告訴の犯行は、被告人において、女を利用して、電車内の男性客を痴漢犯人に仕立て上げて、同人を窮地に陥れ、そこにつけ込んで、示談金の名目で多額の現金を獲得しようと計画し、警察官まで欺き、本来、国民の社会生活や人権を守るための砦となることが期待されている司法手続きを、その金銭欲のためによこしまな方法で利用しようとしたのであって、そのような動機と手段に酌量の余地は寸毫も認められない。被告人は、漫画本からヒントを得て、自ら立てた計画を女に打ち明け、その承諾を得るや、被告人が主導して、女が痴漢に狙われ易いようスカートを履き、気の弱そうな中年男性を狙うよう指示した上、女との間であらかじめ男性客を痴漢犯人に陥れるための手順や役割分担等を取り決めた上、一緒に地下鉄に乗り、帰宅途中の被害者に狙いをつけて、女において、男性客と互いの身体が接触するほどの位置に意図的に佇立した上、同人に対し「今、触りましたね」などと嘘を言い立て、驚いて反論を試みようとしていた同人にすかさず近づいた被告人が、第三者を装い「触ってましたよね」などと嘘を言って、女に加勢して、困惑している被害者を一層窮地に追い込み、その後同人を同行した駅長室において、臨場した警察官らに対し、女があたかも痴漢の被害に遭ってショックを受けている被害女性を演じつつ、架空の痴漢被害を申告し、被告人においても、実際に痴漢の場面を目撃した正義感の強い若者であるかのように演じることによって、警察官を欺いて虚偽告訴の犯行に及び、その結果、被害者に濡れ衣を着せて府条例違反の罪で逮捕させるに至ったものであって、計画的かつ巧妙で卑劣きわまりない悪質な犯行である。