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(1)黒色スーツが白い肌に映え…身じろぎせず判決聞き入る

大阪市営地下鉄の電車内で今年2月、会社員の男性が痴漢にでっち上げられた事件で、虚偽告訴などの罪に問われた無職、阪田真紀子被告(31)に対し、大阪地裁で8日開かれた判決公判。阪田被告は、共犯の元甲南大生、蒔田文幸被告(24)=同罪などで公判中=にすべて指示されたと述べ、先月30日の公判で弁護側は執行猶予付き判決を求めていた。懲役4年の求刑に対し、裁判官が宣告した刑は懲役3年、執行猶予5年だった。判決が下されたその瞬間は…。

午後3時半過ぎ、大阪地裁802号法廷。満席の傍聴席には、これまで開かれた2回の公判と同様、この日も痴漢にでっち上げられた被害者の男性(59)が座る。阪田被告から直接謝罪を受け、今は処罰を望む気持ちを持っていないという男性は険しい表情だ。

阪田被告は女性弁護人に付き添われて入廷した。上下黒のスーツ姿が弱々しそうな白い肌によく映える。目も大きく清楚(せいそ)な印象だ。傍聴席に視線を向けることはなく、終始下を向いている。

裁判官「それでは開廷します。被告人は真ん中の席に立ってください」

証言席の前に立った阪田被告は、両手を体の前にそろえて直立。やはり視線を落としている。

裁判官「主文。被告人を懲役3年に処する。この判決確定の日から5年間、その刑の執行を猶予する」

執行猶予を宣告する判決にも、阪田被告は特に反応を見せず、じっと耳を傾けている。

インターネットの出会い系サイトを使って呼び出した男性に暴行して現金を奪おうとした強盗未遂事件(美人局)、地下鉄の電車内で被害の虚偽申告をした虚偽告訴事件(痴漢でっち上げ)、ゲームセンターで財布を置引した窃盗事件。この3つの事件を検察側の主張に沿って認定した裁判官は、量刑の理由を説明した。

裁判官「被告人は、犯罪行為によって楽をして現金を入手しようとしていた蒔田被告から各犯行を持ちかけられ、嫌われたくないという思いから、悪いことと知りつつこれに応じる決意をしたもので、被告人自身は直接金銭欲を満たす目的がなかったとはいえ、やはり身勝手な動機に基づくもので、酌むべき事情があるとはいえない」

阪田被告の犯行の悪質さについて、裁判官は容赦ない非難の言葉を浴びせていく。

裁判官「虚偽告訴事件については、被告人は蒔田被告に誘われるまま、電車内の乗客を痴漢犯人に仕立て上げて被害者を窮地に陥れ、そこにつけ込んで、示談金名目で多額の現金を獲得しようとするのに協力したものであり、警察官までも欺き、本来、社会や市民の人権を守るための砦となるべき司法手続きを、その金銭欲のためによこしまな方法で悪用しようとしたものであって、その卑劣な手段に酌量の余地はない」

「被告人は蒔田被告の助言に従ってスカートをはき、痴漢に狙われやすい外観をとり(中略)、あたかも痴漢の被害にあってショックを受けている女性を演じつつ、架空の被害事実を申告し、蒔田被告は犯行を目撃した正義感の強い若者であるかのように演じた」

裁判官は、阪田被告について「不可欠で極めて重要な役割を果たした」として厳しく非難する言葉を続けていく。阪田被告は終始うつむいたままだ。

裁判官「公共交通機関を日々利用している多くの男性通勤客に対して、いつ本件と同様の無実の嫌疑をかけられ事件に巻き込まれるかもしれないという不安を与えたことが推察される。また、実際に被害に遭遇し勇気をふるって申告した女性についても、虚偽申告ではないのかとの疑いの目で見られるという可能性を生じさせた」

社会に与えた影響からも実刑で臨むことも十分考慮に値する−とまで述べた裁判官は、執行猶予を選択した理由を説明し始めた。

裁判官「被告人は本件直前ごろ、鬱(うつ)病が悪化し、強い自殺願望を抱いていたところ、偶然知り合った蒔田被告から、同病者であるとして慰めたり安心させたりする言葉をかけられたことによって、蒔田被告に精神的に大きく依存するようになっていた」

阪田被告は今年1月25日、大阪・ミナミで蒔田被告に声をかけられて知り合い、その日のうちに借りていたマンションで同棲を始めた。同棲の解消は2月4日。わずか10日ほどの2人の“蜜月”だった。これまでの法廷で「誰にも認めてもらえない、必要とされてない、生きていてもしょうがないと思っていたとき、私のことを必要で、好きだと言ってくれたのが彼だった」と話した阪田被告。裁判官は、そうした境遇に一定の理解を示す。

裁判官「事件以前の被告人の生活ぶりをみても犯罪傾向はうかがわれず(中略)、虚偽告訴については、被害者に身に覚えのない罪を着せたという良心の呵責に苛まれ、犯行の6日後には蒔田被告の脅迫的制止を振り切って警察に進んで自首し、被害者にかけられていた嫌疑が完全に晴らされるに至っている」

蒔田被告の公判で検察側が冒頭陳述で明らかにした事実によると、自首をしようとする阪田被告に対し、蒔田被告は「ふざけるな。おれは自首なんかせえへん。鬱になってあんなおかしなこと言ってしまいましたと取り消してこい。ばれたらおれ刑務所やんけ。そうなったら家族もみんな殺したる。自首取り消してこい」と威圧したという。

⇒(2)切望した執行猶予…裁判官の問いに唇をわずかに動かす