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(2)「痴漢が一番熱いと言われ」「精神状態が…」

質問している検察官は若い女性。ハキハキとした口調で淡々と事実を確認していく。

検察官「次に虚偽告訴の件ですが、最初にその話が出たのは」

阪田被告「知り合ってから事前に話をして、犯行当日にやろうと」

検察官「でっち上げのことを蒔田被告はどのように言っていた」

阪田被告「痴漢でっち上げは目撃者と被害者がいれば99・9%、100%に近い確率でお金になる。ちょろい。触られましたといえば、男性は失うものがあるから、名誉とか家庭のために金を出す。それが『一番熱い』と」

蒔田被告が当時、使ったという『痴漢が一番熱い』という独特の言い回し。傍聴席から失笑が漏れた。

検察官「それは蒔田被告が言ったことか」

阪田被告「はい」

検察官「『熱い』とはどういうこと」

阪田被告「蒔田被告にとってやりたいこと、好奇心があることという意味だと思います」

検察官「どんな時に使うのか」

阪田被告「ゲームセンターでスリをした時もゲーセンが『熱い』とか。閉店間際の百貨店で万引したときも『熱い熱い』と言ってました。店員も人間なので、閉店間際は帰り支度に忙しくて万引しやすくて『熱い』と」

検察官「痴漢(でっち上げ)はあなたが言い出したのか」

阪田被告「違います」

検察官「蒔田被告はあなたから持ちかけられたと言っているが」

阪田被告「違います」

検察官「蒔田被告から『熱い』と言われたからか」

阪田被告「私は、痴漢でっち上げということ自体、聞いたことがなかったので。痴漢自体は聞いたことありましたが、でっち上げて金を取るというのは聞いたことがなかったので、最初は彼が何を言っているんだろうと…。そんなことができるのかなと」

検察官「示談金を脅し取ることを聞いたとき、あなたはやりたいと思ったのか」

阪田被告「やりたくなかったです」

検察官「でも『御堂筋線は混んでる』と蒔田被告に言ったことはありませんか」

阪田被告「そうですね。真っ向から犯罪やからやめとこうという度胸も勇気もなかったので、蒔田被告から『大阪ならどこが混んでるかな』と言ってきたときに、彼も知ってるとは思いましたが『御堂筋線が一番混んでる』と言いました」

検察官「あなた自身も乗り気だったのでは」

阪田被告「いえ。話を合わせたというか、一般常識として混んでいる路線の話をしました」

検察官「蒔田被告とはどんな話をしたのか」

阪田被告「私のマンションで話しました。『松屋町から心斎橋へ出て、心斎橋駅から天王寺駅までの間が一番混んでいるからお前が中年のおっさんに近づいていって狙え』と(言われた)」

検察官「そんな指示口調だったですか」

阪田被告「一方的に指示されてました」

検察官「蒔田被告から見れば、あなたも乗り気と思わせる態度を取ったことは」

阪田被告「蒔田被告が数メートル離れて歩けとかいろんな指示をポンポン出してきたので、私はうんうんと従うしかなくて、乗り気というよりは…」

検察官「蒔田被告は『私が合図を出すからそしたら来て』とあなたが言ったと供述しているが」

阪田被告「それはないです」

検察官「あなたの動機としては、お金がほしかったのではなく、蒔田被告に嫌われるのが怖かったということですか」

阪田被告「はい」

検察官「1月25日に知り合って、次の週の水曜日に強盗未遂、その金曜日に痴漢でっち上げ、次の日に窃盗、その2日後には同棲を解消してます。そんな知り合って間もない男と犯罪をしていますが、重大な認識あったんですか」

阪田被告「犯罪とは頭の片隅では分かりつつも、感覚が麻痺していたというか、蒔田被告の力になりたかったのがすべてで、重大なこと、犯罪をするという明確な意識がしっかり持てない状態でした」

検察官「知り合って間もないのに、そこまで蒔田被告の心をつなぎ止めたいと思った理由は何ですか」

阪田被告「そのときは…」

ここで阪田被告はすすり泣き、おえつを漏らし始めた。

阪田被告「自分の精神状態が…。…でしたので」

途切れ途切れで消え入りそうな声。ほとんど聞き取れない。

阪田被告「死のうと思っていたときに、蒔田被告に出会って、彼も『自分も鬱病だ。つらいけど頑張っていこう。しんどいのはよくわかる』と。彼の生い立ちや私の生い立ちを話していると似たような部分があって。後で蒔田被告の話していたことが嘘だったと分かるんですが、私は彼の言葉を信じて…」

検察官「強盗や虚偽告訴をやりたくなかったのに、そういうことをさせる蒔田被告を嫌いにならなかったの」

阪田被告「すぐには嫌いにならなくて。蒔田被告は悪いことを悪いと思っていなくて、犯罪と向き合っていない時があって…。更生させたいと思ったけど」

検察官「でも一緒にいたのは矛盾してますよね」

阪田被告「自首した後、悪いことと思っていなくてかわいそうだと思って自首を勧めたんです」

検察官「2月4日に同棲を解消してますけど、その時は嫌われても怖くなかったのか」

阪田被告「頭が混乱していて、2月4日のときは蒔田被告が精神的に不安定で怖くなって」

検察官「あなたが怖くなった」

阪田被告「はい」

検察官「何で抵抗が無くなった」

阪田被告「怖くて」

検察官「何で急に怖くなった」

阪田被告「暴力ふるっている姿を見たり、すごくイライラしていて。肩がぶつかっただけですごく怒ったり」

検察官「美人局で呼び出した男性を殴って、その後は嫌いにならなかった」

阪田被告「そのときはほめてもらってうれしかったので…」

検察官「いつ未練がなくなった」

阪田被告「警察で取り調べを受けていたとき、担当の刑事さんに蒔田被告が心配で様子を聞いたら、罪を認めない態度を聞いて」

検察官「どんなこと」

阪田被告「刑事さんから、蒔田被告が全部あなたのせいにしようとしていると聞かされて。ショックを受けて…」

検察官「それで未練がなくなった」

阪田被告「だんだん」

検察官「終わります」

⇒(3)「ターゲット決めたのは私」「示談金は1万や2万円ではないと…」