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「お前が生意気を言うからだ。何、調子こいてんだ」

検察側が初公判で朗読した冒頭陳述の要旨は次の通り。

 罪状 殺人・死体損壊

 被告人 武藤勇貴

【被告人の経歴】

 被告人は、昭和60年、武藤家の二男として東京都内で出生した。平成16年3月、私立高校を卒業した後、歯科医師を目指し大学歯学部への進学を望み、事件当時、4度目の受験を目指して予備校に通うなどしていた。被告人は、両親と長男、事件の被害者である妹の5人家族で生活していた。

【被害者の経歴】】

 被害者は、昭和61年、被告人の妹として出生した。被害者は、幼いころから不満があればそれをはっきりロにするようなところがあり、中学生のころから両親に対して些細(ささい)なことにも反抗的な言動を示すようになった。高校3年生だった平成16年12月ごろから翌17年5月ごろまで家出をするなどしたこともあった。

 しかし、被害者は、短大進学後、女優を目指すことになり、演技のレッスンなどを受けるなど充実した生活をおくるようになり、友人たちにもそれまでとは違った明るい表情を見せるようになるなど、将来に向かって希望を持って生活していた。

【犯行に至る経緯】

 被告人は、兄や被害者である妹と違って比較的おっとりとした性格で、幼いころから、兄とはもちろん被害者とも比較的艮好な関係を持っていた。しかし、被害者が中学生のころから被告人の尊敬してやまない両親に対して反抗的な言動をするようになったのを目にし、次第に被害者に対する憎悪感を抱くようになっていった。

【犯行の状況】

 平成18年12月30日、母親と長男は、帰省し、父親も仕事で外出していたため、被告人は、被害者と2人だけで自宅にいた。その日の午後3時ごろ、被告人は、自宅3階の自室を出て自宅2階の居間に行ったところ、テレビを見ていた被害者から「勇君は、自分が勉強しないから成績が悪いと言っているけれど、本当は分からないね」などといわれた。

 被告人は、このときの被害者からの言葉を、「お前はいくら勉強したって無駄だよ」と言われているものと受け取った。被告人は、成績の振るわない被告人の受験姿を見た両親から歯学部以外の学部を受験することや専門学校への進学を勧められたものの、あくまでも歯科医師になりたいとの希望を持って4度目の歯学部受験を間近に控えていた。合格しなければならないという相当なプレッシャーを感じる一方、勉学に集中できず、成績が上がらないことに悩んでいた。

 そのような時期に、憎悪感を抱いていた被害者から「いくら勉強しても無駄」という意味のことを言われたことで、被告人は、被害者に対する強い憤りの感情を抱いた。

 そこで、被告人は、2階の居問から3階自室へ向かう被害者の後を素早く追うと、3階廊下に置いてあった木刀をつかみ、被害者の自室前で、被害者の後頭部を背後から1回、思い切り力を込めて殴り付けた。

 被害者は「ギャー」と声を出し、両手で後頭部を押さえて、その場にしゃがみ込み、壁を背にして被告人と向かい合いになった。そして、被告人に対して、「何すんの。何かしたかよ。何でたたくんだよ」などと言い返してきた。

 被告人は、このような被害者のロのきき方にますます腹を立て、しゃがみ込んでいた被害者の頭部目がけて、持っていた木刀で5、6回殴り付けた。これに対して、被害者が「ウォー」とうなり声をあげながら、左手を伸ばして木刀をつかもうと抵抗してきたが、被告人は、被害者のその左手を自らの左手でつかみ、右手に持った木刀で、被害者の頭部をまた4、5回、殴り付けた。そのため、被害者のつけつめが飛び、被害者の右目付近が腫れ上がった。

 被告人は、被害者が「痛い。分かった。分かったからもうやめろ」と怒鳴ったことで、ようやく被害者を殴るのをやめた。そして、被害者が「私が何かしたか。何でこんなことすんだよ」などと文句を言ってきたのに対して、被告人は「お前が生意気を言うからだ。何、調子こいてんだ。とうちゃん、かあちやんに生意気な態度で」などと切り出し、よつんばいになってはって逃げようとする被害者の左手をつかみ、右手を足で踏みつけて逃げ出せないようにした上で、日ごろの被害者の両親に対する言動を非難するなどした。

 しばらくすると、被害者が歯をガチガチさせながら寒気を訴えてきたことや、被告人としても被害者を木刀で殴ったことに対する負い目を感じていたことから、木刀を手放し、座り込んだ被害者の肩付近に3階廊下の洗面台のところに置かれていたタオルを掛けてやったりした。

 しかし、被害者が「右手が痛えんだよ。足どけよ。私は女優なんだよ。自分で稼げるようになって、こんな家、出ていってやる」などと怒鳴りだしたため、被告人には、再び被害者に対する怒りが込み上げてきた。

 同日午後4時ころ、被害者が、被告人に対して、「私には女優になってスターになる夢がある。勇君とは違う。勇君が歯医者になるのは、パパとママのまねじゃないか」などと言った。被告人は、この言葉を「特に自分でやりたいこともなく、親の引いたレールの上を走るだけだ」という意味だと受け取った。被告人が歯科医師を目指していたのは、将来、砂漠を買ってそこに草を植えてオアシスを作り環境保護に役立ちたいという夢があり、そのための資金稼ぎをしたかったからであり、両親のまねをしたいと思ったからではないという気持ちがあった。

 このように、被告人としては自らの信念で歯科医を目指しているにもかかわらず、これを被害者から否定され、親の物まねをしているだけと見下されたことで、被害者に対する鬱積(うっせき)した憤りが一気に爆発し、「もう聞きたくない。この口を黙らせるには、もう妹を殺すしかない」と考え、殺害を決意した。

 被告人は、向かい合っていた被害者の前にかがみ、被害者の肩に掛けていたタオルを被害者の首の前で交差させて巻きつけ、タオルのそれぞれの端を右手と左手で握り、両手の拳を上向きにして、両手を左右に開くように力いっぱい伸ばして被害者の首を絞め始めた。

 被告人は、以前見たドラマで180秒首を絞めれば人は死ぬという場面を見たような記憶があったことから、被害者の首を3分間絞め続けようと考え、1から180まで数えながら被害者の首を絞め続けた。

 被害者は、首を絞め始めた最初の一瞬だけ「ウッ」とうなり、その後次第に顔を青ざめさせていき、間もなく床にあおむけに倒れ、脚を伸ばしたり縮めたりしてわずかに逃れようとしたが、被告人は、被害者に覆いかぶさりながら数を数えて被害者の首を絞め続けた。

 被告人が被害者の首を絞めて120くらいまで数を数えたころ、被害者が口から舌を出したが、被告人は、180を数えるまで被害者の首を絞め続けた。

 被告人は、180を数えたところで、被害者が死んだものと思って、被害者の首を絞めていた手の力を抜いた。このとき被害者は、既に意識を失っていたが、まだ呼吸を続けており、それがいびきのようなうなり声になっていたことから、被告人は、被害者がまだ死んでいないと分かった。

 そこで、被告人は、被害者の息の根を止めるため、今度は被害者の顔を水の中に沈めて殺そうと考え、あおむけに倒れていた被害者の両手をつかんで引っ張り、3階から2階浴室まで、廊下や階段部分もその状態のまま引きずって運んでいった。

 被告人が被害者を浴槽に運んでいって風呂のふたを開けたところ、浴槽には水が7分目くらいまで入っていたことから、被告人は、被害者を持ち上げて、水が張られた浴槽に同女を仰向けの状態で入れ、被害者の首を右手でつかんで押し下げ、被害者の頭を浴槽の底に付けて頭全体を水の中に沈めた。

 そのとき、被告人が浴室の時計の時刻表示を見たところ午後4時7分になっており、被告人は、被害者の息の根を止めるためにはこのときも3分間被害者を水の中につける必要があると考え、浴室の時計が午後4時10分を表示するまで、右手で被害者の首を押さえて、その顔面を水没させ続けた。途中、被害者がビクンビクンと身体を数回波打たせるように動いたが、浴室の時計が午後4時8分か9分を表示するころには被害者は全く動かなくなり、被告人は、被害者が確実に死んだと思ったが、当初の計画どおり、浴室の時計が午後4時10分を示すまで、被害者の頭部を浴槽の底に押し付け続け、そのころ、被害者を窒息死させた。

 その後、被告人は、帰宅する父親に被害者殺害を気付かれないようにするため、2時間ほどかけて、3階廊下から2階浴室までの間に付着した被害者の血痕をぞうきんで丹念にふき取った。

 被告人は、このふき掃除をしながら、血痕をふき取っても被害者の遺体がそのままになっていれば帰宅した父親に被害者殺害が発覚してしまう、遺体を隠さなければならないと考えた。

 そして、被告人は、被害者をバラバラに解体した上で、自宅の自分の部屋に隠そうと考え、被害者の遺体解体を決意した。

 被告人は、台所にある包丁と自室に置いてあったノコギリを浴室に持ち込むと、同日午後6時30分ころから同8時30分ころまでの間、浴室洗い場において、被害者の遺体を上記包丁とノコギリを用いて解体した。

 被告人は、包丁やノコギリを使って被害者の両手首、両肘、両肩、両足首、両膝、両脚の付け根、首を切り落とし、腰を折って胴体部分を2つに分けた。

 被告人は、このように被害者を解体した上、これらを4つのビニール袋に分けて入れた上、自室のクローゼット内などに運び入れて隠した。

【犯行後の状況】

 被告人の父親は、同日午後11時過ぎころ帰宅したが、被害者が殺害されたことに気付くことはなかった。

 被告人は、翌31日午後3時ころ、予備校の冬期合宿に参加するため、父親の運転する自動車で都内にある予備校まで送ってもらった。その際、被告人は、被害者の死体の腐敗臭から犯行が発覚することをおそれ、父親に対して、「自分の部屋に鮫の死体がある。合宿から帰ったら自分で始末するから、部屋には入らないでほしい」などと話した。

 父親は、被害者と連絡が取れなかったことから、同日深夜、自動車を運転して、妻と長男らが待つ妻の実家に向かった。

 両親と長男は、新年が明けた平成19年1月2日午後11時過ぎころ帰宅した。

 両親は、翌3日になっても被害者と連絡がとれないことに不審を覚え、室内を見回り、被告人のクローゼット内に置かれたビニール袋に収められた被害者の切断された遺体を発見した。

⇒第2回公判