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(11)「シャワーから出たら女性が倒れていた」「すぐ来て」 被告から緊迫した電話

東京・六本木ヒルズのマンションの防災センターに勤務する男性職員に対する女性弁護人の質問が続いている。保護責任者遺棄致死などの罪に問われた元俳優、押尾学被告(32)の裁判員裁判第4回公判。押尾被告は机にノートを開き、やり取りを聞いている男性検察官が再び質問に立ち、証人のそばへ移動して、語りかけるように質問していく。

検察官「日曜日の夕方6時と夜9時すぎを比較すると、周辺の交通量はどうですか」

証人「土日、祝日、平日とそれほど差はないと思います」

検察官「時間で比べるとどうですか」

証人「特別な渋滞は起きないと思います」

検察官「いろいろな通りがありますが、渋滞で動けないようなことはないですか」

証人「ないと思います」

男性検察官は、救急車の大きさなど細かい質問を続けた。

検察官の再質問が終了し、右端の男性裁判員が質問した。

裁判員「緊急通報用のボタンは各部屋にあるのですか」

証人「リビング、トイレ、風呂場についています」

次に左から2番目の男性裁判員が質問した。

裁判員「緊急通報用のボタンは、入居時に説明を受けないと分からないようなものですか」

証人「見たらすぐに分かります。非常ボタンと書いてあるので」

続いて左から3人目の男性裁判員が質問した。

裁判員「防災センターの職員と警備員を含めて、館内には何人くらいの人がいるのですか」

証人「少ない時間帯でも10人くらいはいます」

裁判員「AEDの操作は経験がないということでしたが…」

証人「生身の人間の体に使ったことがないだけで、訓練や講習を受けているので操作方法が分からない人は館内にはいないと思います」

裁判員「緊急通報のボタンは裸の状態なのか、それともカバーがついているようなものなのですか」

証人「カバーはついていないので、すぐに押せる状態です」

押尾被告は裁判員のほうを見つめている。続いて向かって右側の男性裁判官が質問した。

裁判官「緊急通報のボタンはリビングのどのあたりについているのですか」

証人「間取りによりますが、インターホンに兼ねてついています」

裁判官「入居時は非常通報ボタンについてどの程度説明があるのですか」

証人「防災センターに連絡が入って救急対応が動きます、という説明はしています」

山口裕之裁判長が「終わりました、ありがとうございました」と告げ、男性証人は退廷した。次の証人は、押尾被告が、合成麻薬MDMAを一緒に飲んだ飲食店従業員、田中香織さん=当時(30)=が異変を起こした直後に電話をかけたという知人男性だ。

山口裁判長が、傍聴人に証人の姿を見られないよう傍聴席と証言台との間に衝立(ついたて)を設置すると説明した。すぐにグレーの衝立が立てられた。

山口裁判長の「よろしいですか、入ってもらってください」との声で、証人の男性が入廷。押尾被告は知人である証人にあいさつするかのように、うなずくようなそぶりを見せた。証人が低いぼそぼそとした声で偽証しないという宣誓書を早口で読み上げると、男性検察官が質問を始めた。

検察官「あなたは押尾被告の友人ですね」

証人「はい」

検察官「事件のあった平成21年8月2日に電話で話しましたか」

証人「はい」

検察官「その日は何をしていましたか」

証人「静岡と神奈川の県境にいました」

検察官「なぜですか」

証人「プライベートで」

検察官「交通手段は?」

証人「車です」

検察官「1人ですか」

証人「知人といました」

検察官「誰かから電話がありましたか」

証人「押尾被告からありました」

検察官「何時ごろですか」

証人「午後6時20分すぎだったと思います」

検察官「電話に出ましたか」

証人「出ていません」

検察官「その後かかってきましたか」

証人「2度ほどかかってきましたが、不在着信でした」

ここで検察官は、裁判員らの手元の小型モニターに、押尾被告と関係者の電話のやり取りをまとめたという一覧表を示した。証人と押尾被告が18時35分に通話した記録があるようだ。法廷内の大型モニターには映し出されず、傍聴席からは見ることができない。

検察官「この通話で、押尾被告は何を話しましたか」

証人「大変なことがあった。ヒルズにすぐ来てくれないかということでした」

検察官「どんな口調でしたか」

証人「焦っているようでした」

検察官「どう返答しましたか」

証人「いま静岡ですぐには行けないと答えました」

検察官「押尾被告はあきらめましたか」

証人「何とかならないかという感じでした」

検察官「理由は説明していましたか」

証人「とりあえず来てくれということでした」

検察官「押尾被告は何が起きたと話しましたか。なるべくそのままの表現で言ってください」

証人「シャワーから出たら女性が意識なく倒れているという会話だったと思います」

検察官「女性は誰だと言っていましたか」

証人「話はなかったと思います」

押尾被告は緊迫した様子で電話してきたという。証人は離れた場所にいたこともあり、現場に行くことは考えなかったという。

検察官「あなたは最終的に何と返事をしましたか」

証人「対処法も分からないので、救急車を呼んだほうがいいと言ったと思います」

検察官「この電話の後、知り合いに電話しましたか」

証人「押尾被告との共通の知人にしました」

検察官「その方の名前は法廷で言ってもいいことになっていますが、誰ですか」

証人「…。人の名前は言いたくないです」

男性検察官は、表で特定してもらうとして、男性に名前の書かれた一覧表を示しているようだ。

検察官「共通の知人にはなぜ連絡したのですか」

証人「押尾被告と仲が良かったので、連絡が行っているのかなと思い確認のために」

男性検察官は、再び証人に一覧表を示しているようだ。証人と共通の知人に通話の記録があるという。

検察官「この電話について、共通の知人とどんな話をしましたか」

証人「連絡の有無、現場に行くのかどうかという内容だったと思います」

検察官「共通の知人は、押尾被告から連絡はあったと言っていましたか」

証人「あったと言っていました」

⇒(12)「非常に有名な方なので救急車呼べない」 知人が元マネジャーとの会話証言