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(12)「自分の命で償うしか」「逃げず問い続けていかなければ」…最後まで揺れる思いを吐露する被告

東京都港区で昨年8月、耳かき店店員の江尻美保さん=当時(21)=と祖母の鈴木芳江さん=同(78)=を殺害したとして、殺人などの罪に問われている元会社員、林貢二被告(42)の裁判員裁判。弁護側の最終弁論が引き続き行われている。

昨年5月に導入された裁判員裁判で初めて、検察側が死刑を求刑した。女性4人男性2人の裁判員は、被告の生死を左右する重大な判断を下さなければならず、緊張した表情で最終弁論に耳を傾けている。

弁護人は、体を裁判員の方に向けて、裁判員に語りかけるようなゆっくりとした口調で主張を続ける。耳かき店に来店禁止になったことでショックを受けた林被告の精神状況について読み上げた。

弁護人「美保さんと良好な関係を築いていたのが、平成21年4月5日を最後に、絶たれました。どうにかしたいと考えましたが、切り替えが苦手で問題処理を理屈で考える被告の性格が影響しました」

弁護人は、被告は意識野が狭窄し、抑鬱(うつ)状態になり殺意につながったと主張した。

弁護人「芳江さんへの殺意の発生についてですが、被告は集中しきった状態でパニックを起こし、衝動的に行ったものです。冷静なものではないのは、(芳江さんに対して)ハンマーをめちゃくちゃに使っていることからも明らかです」

「(美保さんの)母親の声で、被告が美保さんへの攻撃を中止したことは、鑑定医も我に返ったためとしています」

被告は、こわばった表情でうつむいている。

弁護人「(追いつめられ意識の範囲が狭まる)意識野の狭窄と(感情から行動する)情動行為で事の重大さに気づくことができず、善悪の判断ができなかったのです。我に返った後に救護できなかったのは、それまでの余波のせいです」

「芳江さんのときは、パニック状態で衝動的になっていました。美保さんのときは、善悪の判断ができなかったのです」

弁護人は、視線を裁判員に一瞬移した。

弁護人「責任を考えるにあたり、この点を考慮してもらいたいと思います」

裁判員は一様に、弁論を続ける弁護人を見つめている。

弁護人「被告は事件の後、しばらくの間は面会できないほど泣いて過ごしていました。美保さんが死亡したと聞くと、拘置所から病院に連れて行かれるほどショックを受けました。(事件当時)169センチで63キロあったのは46キロに減りました」

「最高裁判例の死刑適用基準で酌(く)むべき事情があります」

1年にわたり、後半数カ月は毎週土日続けて7〜8時間という長時間、年末年始などの特別な日に狭い空間で美保さんと被告が過ごしたことを指摘し、弁護人は、被告の一方的感情とはいえないと指摘した。

弁護人「(美保さんとの間が)あまりに楽しく、親密であったためにその場所を失うのは考えられませんでした」

「美保さんとの経緯には、ひとえに被告の身勝手さだけでなく、店に通っていた時の関係が影響していると弁護人は考えます」

弁護人は、芳江さんへの犯行経緯はパニック状態であったと繰り返した。

弁護人「美保さんに対する思いは、愛憎が裏表に現れたものであり、美保さんの母親の声で我に返って(殺害行為を)中止しています」

「美保さんが死亡したのを聞いた被告が拘置所から病院に運ばれ、大きなショックを受けたのは、殺意が強固なものでなかったことの表れです」

続いて弁護人は、被告が事件を反省していると訴えた。

弁護人「被告は犯行当時から、毎日(事件を)思いだし、後悔し、反省してきました」

右から2番目の女性裁判員が弁護人に視線を移した。

弁護人「事件のことを思いだすときの被告の苦渋の表情は、この法廷で事件当日の証拠が出されたとき、事件当日のことを話すとき、被害者の話に及んだときに表れていたはずです」

「本人のみならず、被告の母親も被害弁償を申し出ています」

「美保さんが亡くなったときに精神的に不安定になったことや、事件や被害者、遺族のことに触れるたびに自責の念にかられている被告の姿は、被告の人間性の表れです」

右から3番目の女性裁判員が顔をあげて弁護人を見つめた。

弁護人「このような被告に対し、極刑はやむを得ないと言えるのでしょうか。被告にとって罪の償い方は極刑しかないと考えるのか、この点を考えてほしいと思います」

若園敦雄裁判長が林被告に証言台に立つよう促した。

裁判長「被告は前に出てください」

林被告が、係官に促され、裁判長の正面に立った。

裁判長「これで法廷での審理を終わります。何か述べておきたいことがあれば述べることができます」

被告は、直立の姿勢のままだ。被告の言葉を待ち、一瞬の間をおいて、被告がゆっくりと、か細い声で話し始めた。

被告「今まで、直接聞くことができなかった、ご遺族の話を直接聞いて、悲しみをとてもよく感じました」

被告は、一語一語区切るかのように話し続けていく。

被告「今まで私は毎日、事件のことを考えてきました。裁判の中で、被害者の写真や現場の写真…」

被告は言葉をつまらせ、1度軽くうなづくと言葉を続けた。

被告「改めて後悔しています」

裁判員は顔をあげ、被告の言葉を聞き漏らすまいと、真剣な表情で被告を見つめている。

被告「私のしてしまったことは、自分の命で償うしかないと思っています。しかし、それでは逃げることになるのではないかと、自分のしてしまったことと向き合って、問い続けていかなければならないのではないかといろいろな思いが心の中を駆けめぐっています」

「最後に、亡くなった鈴木芳江さんと江尻美保さん、ご遺族の方に心からおわびします」

被告は泣いているようで、一瞬声を詰まらせた。

被告「申し訳ありませんでした」

被告は涙声になり、頭を深々と下げた。

右から2番目の裁判員は、不安げな表情で左側に視線をやり、ほかの裁判員の様子を探っていた。

裁判長「判決は11月1日午前11時からこの法廷で言い渡す予定です。これで閉廷します」

係官に促され、立ち上がり、一礼した被告。裁判員は固い表情のまま被告をみつめていた。

⇒第6回公判