Free Space

(2)「理由はそれだけ?」裁判長いぶかる

検察官「ボールペン刺したとき?」

鈴香被告「違う」

検察官「短い調書のときだったということだが?」

鈴香被告「はい」

検察官「腰が痛いと言っていたときは、長い調書が取られていたが、このときではないのか?」

鈴香被告「はい。確か」

検察官「あと、検察調書の内容、とくに(長女の)彩香ちゃんのことが書かれている件について、調書と法廷では、だいぶ違うことを言っている。殺すつもりだったとか、(彩香ちゃんを)川に落としてからも覚えていたこととかが書かれた調書に署名してますよね?」

鈴香被告「はい」

検察官「理由として怖かったと?」

鈴香被告「はい」

検察官「最初に座ったら突然『バカヤロー』と怒鳴られ、豪憲君の写真を見るようし向けられ、怖くて逆らうことができなくなったと?」

鈴香被告「はい」

検察官「まず、そもそもこうした事実があったかどうかは別にして、なぜそれだけの理由で怖くて署名しちゃうのかが分からない」

鈴香被告「出された調書は必ず署名しないといけないような気になって、ほとんどの調書にサインした」

検察官「あなたの言うことを前提にしても、どうしてそんな気になったのか。最初怒鳴ったけど、後は怒鳴ってないっていうんでしょ?」

鈴香被告「はい」

検察官「写真もあなたが見ると言ったから、こっちは見せた訳なんだけど、その後は見せてないでしょ?」

鈴香被告「はい」

検察官「それだけの理由でサインするのが分からない」

鈴香被告「…なんか、もう、警察の調書よりも、検事の調書に必ずサインと指印を押してました」

鈴香被告のかみあわない答えに耐え切れなくなったのか、藤井裁判長が急に言葉をはさみだす。

裁判長「だから、なんでそうしたのか理由を聞いているんだけど。あなたは2つ理由を挙げたけど、それだけなんですか?」

鈴香被告「それだけで十分だと思う」

裁判長「だから、それだけの理由でいいのか?」

鈴香被告「はい」

検察官「では、それを前提で聞く。『調書のこの部分が嫌だ』と言ったことは?」

鈴香被告「ある」

検察官「訂正してくれと言ったことは?」

鈴香被告「ある」

検察官「そのときに検事は怒鳴った?」

鈴香被告「いいえ」

検察官「死体の写真を見せられた?」

鈴香被告「いいえ」

検察官「あなたが(検事に)怒鳴られたという話は、公判で初めて出てきた話だ。この裁判は公判前整理手続きを採用しているが、その席でも出てこなかったし、弁護側は冒頭陳述で取り調べが不当だったと細かく書いてきたが、そこにも出てこない。あなたは、弁護士に(怒鳴ったという)その話をしているのか?」

鈴香被告「言っている」

検察官「少なくとも、公判が始まってからじゃないのか?」

鈴香被告「違う」

検察官「こんな大事なことが公判まで出てきていない。弁護士に言ったの?」

鈴香被告「はい」

検察官「それも、公判前までに?」

鈴香被告「はい」

検察官「いつごろ?」

鈴香被告「…(バカヤロー)言われたのと同時に言っている」

検察官「では、最初から言っているというのか?」

鈴香被告「はい」

検察官「実際には2時間おきに休憩を与えているのに、『2時間おきに休憩を与えよ』などとするピントのはずれた抗議文が当初、弁護側から出されているが、その中にも怒鳴られたとは書かれていない。本当に(弁護士に)言ったのか?」

鈴香被告「はい」

鈴香被告の右手にいる2人の弁護士は、自分たちが絡んだやりとりを、無表情なまま眺めている。

検察官「豪憲君の遺体写真の件だが。6月30日に、これまで彩香ちゃん事件について絶対かかわっていないと言っていたが、彩香ちゃんが家を出た後、頭が真っ白になって思いだせないという話に変わった。こういう調書を取るまでに、写真は見せられたのか。それともこの調書の後だったのか?」

鈴香被告「覚えていない」

検察官「自分の言い分が変わったのは覚えているでしょ。最初はかかわっていないと言ってたけど、その後から、彩香ちゃんが出ていったあとは思いだせないと。なぜ(供述が)変わったのか?」

鈴香被告「…」

沈黙は20秒も続いた。

検察官「じゃあ、思いだせないと。『(彩香ちゃん事件を)頑張って思いだしたい』というのも?」

鈴香被告「はい」

検察官「豪憲君の写真は、その後? 前?」

鈴香被告「ちょっと思いだせない」

検察官「少なくとも、それを見せられて、彩香ちゃんのことについての話が変わったという印象はないね?」

鈴香被告「覚えていない…」

検察官「そもそも写真を見たがったのはあなただ。検事が断るのを強引に見せてくれといった」

鈴香被告「違う」

検察官「豪憲君のご遺体は、アリに食われていた状態だった。その話は聞いていたか?」

鈴香被告「聞いていた」

検察官「それでもショック受けたのか?」

鈴香被告「はい」

検察官「あなた、警察官にも写真を見せるよう頼んでないか?」

鈴香被告「彩香の写真は見せてと頼んだことはあるが…」

検察官「彩香ちゃんの方は、なぜ見せてくれと?」

鈴香被告「とにかく人の手元に置いておきたくなかった」

検察官「あなたに見せたからと言って、警察の手元からなくなるわけではない」

鈴香被告「最後の写真を他の人に渡したくなかった」

検察官「それが見たいということだったのか?」

鈴香被告「見たいというより、欲しかった」

⇒(3)検事のネクタイ毎日同じ「笑いこらえた」