Free Space

(6)「父母に謝る気持ちない」一転、「ウソついていた…」

検察官による加藤智大(ともひろ)被告(27)の供述調書の読み上げが続く。いよいよ事件当日(平成20年6月8日)の内容に入った。

検察官「事件当日の朝、私は携帯サイトの掲示板にスレッドを立てました。どういうタイトルかは覚えていません。ベージュ色のシャツとズボンにジャケットを着て、メガネをかけました。午前8時に、2トントラックのレンタカーを借りました」

「借りるときに怪しまれないよう、『引っ越しをする』とウソを言っていました。実際に借りるときも、荷造りのひもやテープを持っていきました」

「トラックで寮に戻り、福井県で買ったナイフを腰のベルトに、折りたたみ式のナイフをジャケットの内ポケットに、右足のくつ下に細いナイフを入れました。残りのナイフをリュックサックに入れて持っていきました。どのナイフを(人を刺すのに)使うかはこのときは決めていませんでした」

「その後、友人の部屋に行き、ゲームを5、6本とナイフ1本をあげました。カートの話と東京に行く話をしましたが、事件の話はしませんでした」

供述調書の内容は加藤被告が事件を起こした秋葉原に到着した場面に移る。

検察官「昼前に秋葉原に着きました。トイレに行きたかったので、ドン・キホーテの下のパチンコ店のトイレに行きました。歩行者天国が始まる(時間が近い)ことは知っていました」

加藤被告はここで、犯行予告の書き込みを行うことにためらったという。

検察官「スレッドの書き込みのタイトルを書き換えようとしていました。犯行予告を書くと捕まるので、(これまでは)はっきりとは書いていませんでした。予告してから事件を起こそうとしましたが、実際には、書き換え完了ボタンをなかなか押せませんでした」

「(書き込んだら)『もう後戻りができない』と思い、なかなか決心がつきませんでした。すぐに書き換え完了ボタンを押さずに歩いたりしていました。10分近くしてからトラックに戻り、ボタンを押しました」

「どうせ生きていたって仕方がないと思いました。誰かに気づいて止めてほしかったですが、誰も止めてくれませんでした。知り合いに連絡がいくと迷惑がかかるので、携帯電話の電話帳を消しました。やるしかないと思いました」

ここで法廷のモニターに、加藤被告の携帯電話の掲示板への書き込みが映し出される。加藤被告は「秋葉原で人を殺します。車で突っ込んで、車が使えなくなったらナイフを使います。みんなさようなら」と掲示板の内容を書き換えた。

検察官「書き換えた理由は、事件後すぐに、誰が事件を起こしたのか分かるようにするためでした」

供述調書の内容は事件現場となった交差点での様子に入る。事件を起こす直前の加藤被告の心境が検察官の口から語られていく。

検察官「歩行者天国は始まっていました。交差点近くで気が変わりました。はっきりはしないのですが、人が多いので躊躇(ちゅうちょ)したように思います。赤信号で突っ込むことも最初はできませんでした」

「(現場近くの)ロータリーを回っても決心はつかなかったです。通り過ぎるたびに『なんでやれないのか』『やらなくてよかった』という思いが浮かびました」

法廷の大型モニターに現場周辺の地図が映し出される。加藤被告は犯行直前に現場付近を周回する際、走るルートを変えていた。この理由は「タクシーの運転手が見ていたから」だった。

供述調書の内容は、犯行をためらっていた加藤被告が、現場の交差点にトラックで突っ込む場面に入る。

検察官「事件のあった交差点に近づいたときに、車が1台トラックの前に入りました。いったん減速しかけましたが、追い越そうと思いました。『えーい』という感じで自分を後押しするような感じで車を追い越して、自分の体感では時速40〜50キロくらいで交差点に突っ込みました」

「赤信号で突っ込みましたが、前方に2人の人がいるのが目に入りました。交差点には50人くらいがいるように見えましたが、かまわず直進しました。ブレーキを踏んだりはしませんでした。『ドン』『ガシャーン』と音がして、ぎょっとしてフロントガラスを見ました」

「トラックを止めて、リュックをあさってナイフを取り出そうとしましたが、気が変わって持っていかないことにしました。右の腰のベルトのナイフを右手に持って運転席から降りました。交差点に向かって走っていきました」

ここで、モニターに現場の交差点の図面が映し出される。取り調べで加藤被告が説明した、犯行時の行動を記したもののようだ。

検察官「交差点に走っていき、白い服の人をナイフで胸か腹を1回刺しました。その後覚えているのは、交差点で青い服の警察官のような人が背中を向けていたので、斜め後ろから背中を1回刺しました」

「交差点から(JR)総武線のガードに走っていくときに、白っぽい服の人の胴体をナイフで刺しました」

「ほかにも人数ははっきりはしないのですが、刺した人がいたように思います。手が届くあたりの人をナイフを出して刺しました。何人かは分からないです。はねた人も2人は間違いないですが、それ以外は覚えていないです」

加藤被告はうつむいたまま、検察官の調書の読み上げを聞いている。

検察官「(現場では)クモの子を散らしたように人が逃げていきました。交差点の中で大柄な人が口に手をメガホンのようにあて、逃げるように言っていました」

「追いかけてきた警察官と向かい合いました。『撃つぞ』といわれ怖くなり、ナイフをその場に落としました。そして逮捕されました」

「なんてバカなことをしたんだろうと思います。大きな事件を起こすことを考えていましたが、全然うれしくありません。反省しています。でも、どう言葉で言っていいのかは分からないです」

検察官は加藤被告の逮捕直後の様子や、所持していた凶器の詳細についての供述調書を読み上げる。さらに、逮捕後の加藤被告の心境を記した供述調書を、一問一答形式で読み上げた。

検察官 問「やったことについてどう思っているのか」

 答「被害者に申し訳ない。友達にも迷惑をかけて申し訳ないと思っています」

 問「被害者にどう申し訳ないと思っているのか」

 答「知っているわけでも恨みがあるわけでもない他人なのに、自分の都合で事件に巻き込んでしまい申し訳ないと思っています。今できることは正直に話すことだけです。どんどん話したいと思います」

 問「友達に申し訳ないとはどういう意味?」

 答「自分のせいで関係ないのにマスコミが押しかけたり警察に調べられたり迷惑をかけました。職場の同僚も同じようなことになっているのなら、申し訳ないと思っていることを付け加えてほしいです」

 問「父、母、弟についてはどう思っている?」

 答「正直言って、謝る対象という意識がなかったです。今は言葉になりません。父、母、弟とは疎遠で、私が起こしたことに謝罪しようという気持ちはありません。ほかに言うこともありません」

 問「今現在のあなたの気持ちは?」

 答「今回の事件がどうなれば解決になるか考えていますが、私が捕まって解決になるわけではありません。どんなに反省しても、被害者が生き返るわけでもけがが治るわけでもありません」

 「事件から逃げないで、正直に思いだすこと。それが自分がやることです。自分は死刑になるだろうと思っています。でも自分のことを考えるのではなく、本当のことをしゃべることが自分のやることだと思っています」

 問「それ以外には何かあるかな?」

 答「とにかく申し訳ないとしか言葉が出ないです」

続けて、検察官は加藤被告が両親への気持ちについて検察官に対して「ウソをついた」とする供述調書を読み上げた。

検察官「以前検事さんに『父や母は謝る対象ではない』などと話しましたが、本当の気持ちとは違います。ウソをついていました。ごめんなさいと、謝りたいと思ってます」

「父や母に大人になってからもお金のことで世話になっていると気づきました。(父母を)利用していたのに、悪いかのように話して隠している自分がすごくイヤになり、泣いてしまいました」

「父母にひどい目にあい、思い通りにならなかった不満は、今もあります。ですが、大人になって借金を肩代わりした父母に恩義を感じています」

「秋葉原の事件を起こし、バカ息子で迷惑をかけてごめんなさい。このことを隠して、強がりや見栄で責任転嫁したいという気持ちからウソをついていました。責任転嫁で引っ込みがつかなくなり、事件を起こしたところもあることも正直に話したいと思います」

⇒(7)動機は「悩み、苦しみをアピールするため」「ネット住人への復讐」とも