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(5)ダガーナイフ購入後、2日続けて風俗店に…その理由は

約1時間半の休憩後、村山浩昭裁判長が開廷を告げ、午後の審理が再開された。東京・秋葉原の無差別殺傷事件で殺人罪などに問われた加藤智大(ともひろ)被告(27)はいつものように傍聴席に一礼した後、弁護人の前の長いすに座った。大型モニターには「乙3 被告人供述調書」と書かれている。午前に引き続き、男性検察官が加藤被告の供述調書を読み上げていく。

検察官「平成20年7月6日の調書で、犯行を決意した状況について書かれています」

「平成20年6月5日、いつものように(職場だった)関東自動車工業に行きました。私は一度、クビといわれて、その後にクビはなくなったといわれたことで、私は『まともな扱いをされておらず、パーツにすぎない』と感じていました。この日はいつものように我慢して、工場に行きました」

加藤被告はそこで自分が作業で着るつなぎがなくなっていることに気付く。

検察官「『もう辞めろってか』と思いました。買ってきた缶コーヒーを壁に投げつけて、工場から飛び出しました。寮に帰り着くと、派遣会社の人が先回りしていて『つなぎがあったことを伝えにきた』と言っていました。私は『悪いのはオレですか』と言って部屋に入り、アルコールを飲みました」

加藤被告はつなぎがなくなったことなどを、心のよりどころにしていたインターネットの掲示板に書き込んだという。

検察官「(閲覧者が)慰めてくれたり、アドバイスをくれたりすることを期待していました。工場にも親しい友人はいましたが、戻ることはできませんでした。自分の苦しみ、悩みを相談できるのはスレッドだけでした。しかし、誰もまともなレス(書き込み)をくれませんでした」

加藤被告はそれ以前から、彼女のいないこと、容姿のコンプレックスについて書き込みをしてきたが、加藤被告が納得できるような「まともなレス」はなかったという。

検察官「ネットの人に無視され、存在が認められていない。社会にとって要らない存在、生きていても仕方ない。オレなんてどうなってもいいと思いました。しかし1人で自殺するという考えは浮かびませんでした」

加藤被告は平成18年、19年に自殺を考えた過去があったが、このときはまったく別の思いに駆られたという。

検察官「私のことを無視したネットの人を許せないと怒り、大きな事件を起こすことで存在を認めさせたいと思いました。大きな事件で復讐(ふくしゅう)したいと思いました。普通の殺人事件では新聞に小さく載り、ネットの人に伝わらないと考えました」

加藤被告は17年4月に仙台市青葉区のアーケード商店街で男がトラックを暴走させた事件、20年3月に茨城県のJR荒川沖駅周辺で男が刃物で通行人を襲った通り魔事件を思いだしたという。

検察官「このとき、人がたくさんいるところにトラックで突っ込み、ナイフで刺すことを考えました。日曜日の秋葉原でやることを思いつきました。秋葉原には人がたくさんいることを知っていました。20回は遊びに行っていて、日曜日は歩行者天国に人が集まっていることを知っていました」

「次の日曜日の6月8日に事件を起こそうと考えました。私は6月5日の日中のうちに事件のことを考え、夜までに決意したのは間違いないです」

加藤被告はこれまでの公判で、この「6月5日に事件を決意」という供述を含め、検察側が主張する動機や犯行を決意した時期について否定する発言を繰り返している。

検察官「事件が良くないことであることも分かっていて、事件を起こしたくない気持ちも持っていました。準備の様子、内心の気持ちをスレッドに書き込み、誰かに止めてほしいと思いました。犯行予告を書くと捕まってしまうので、犯行予告とまではいきませんが、本当の気持ちなどを書きました。しかし誰も止めませんでした」

男性検察官は続いて、犯行に使ったトラックやナイフを用意した経緯に関する供述調書を読み上げる。

検察官「6月6日朝、ナイフを買うために福井の店(ミリタリーショップ)に行きました。福井の店は持っていた雑誌に載っていました。店ではナイフ6本、特殊警棒1本を買いました。(ナイフ6本のうち)両刃のナイフは事件で使ったものです」

加藤被告は一度、近くの回転すしで食事をした後、再びミリタリーショップに戻ったという。

検察官「ナイフを持ったときに手が滑るといけないので、黒の手袋を買いました。この手袋は大きすぎたので、(事件当時は)使いませんでした」

法廷内の大型モニターには加藤被告がナイフなどを買ったときのレシートが映し出される。加藤被告はナイフなどを買った後、静岡に戻る。

検察官「(静岡県沼津市の)沼津駅の近くの風俗店でサービスを受けました。ナイフなどを買ったことで、お金をずいぶん使いました。トラックを借りるお金がなかったので、秋葉原でパソコンとゲームを売ってお金を作ろうと考えました」

加藤被告は翌7日、秋葉原でパソコンとゲームを売り、計7万3千円を手に入れ、4トントラックを借りるために沼津のレンタカー店を訪れる。だが4トントラックがなかったため、結局は2トントラックを翌日借りる契約を交わした。

検察官「レンタカー店では借りることがもっともらしく聞こえるように『引っ越しをする』とウソをつきました。8日はタオル、テープ、荷造り用のヒモをコンビニエンスストアで買ってからレンタカー店に行きました。秋葉原で突っ込むために2トントラックを借りました」

「レンタカーを予約した7日、風俗店に行きました。6日に行った店と同じ店です。なぜ行きたくなったのかは分かりません。2日続けていった理由は、誰かに相談したかったのかもしれませんが、記憶にはありません。事件のことは話していません。ただ6日の女の子だったと思いますが、福井に行ったこと、ナイフを買ったことは話しました。止めてもらいたいという気持ちがあったのかもしれませんが、よく覚えていません。風俗には1カ月に1回ぐらいで行っていました」

続いて、別の男性検察官が掲示板の書き込みを説明する供述調書を読み上げる。

検察官「『6月5日6時17分 作業場に行ったらつなぎがなかった。やめろってか』。怒りと本心を書きました」

「『6月7日16時03分 準備完了だ』。レンタカーを用意したことを書きました」

「『(6月7日)20時34分 もっと高揚するかと思ったら意外と冷静』。スレッドに書き、誰かに気付いて止めてもらいたかったです」

法廷内の加藤被告はうつむきながら、自らの供述調書を聞き入る。表情には変化がない。

⇒(6)「父母に謝る気持ちない」一転、「ウソついていた…」