第34回公判(2012.3.12) 【論告求刑】

 

(4)検察官「殺害の動機は470万円」「うそをつけば何とかなると」

木嶋被告

 首都圏の連続殺人事件で練炭自殺に見せかけ男性3人を殺害したとして、殺人などの罪に問われた木嶋佳苗被告(37)に対する裁判員裁判(大熊一之裁判長)は、検察側の論告が続けられている。

 検察官は、木嶋被告が問われている3つの殺人事件を、各事件を詳細に意見を述べている。

 午前中に予定されているのは、平成21年8月の東京都千代田区の会社員、大出嘉之さん=当時(41)=と、21年1月の東京都青梅市の寺田隆夫さん=当時(53)=の殺害事件だ。

 いずれも練炭自殺に見せかけて殺害したとされる。

検察官「被告は21年7月25日に386万円を借金返済などに使っている。なぜそれができたのか。前日の7月24日に(大出嘉之さんからだまし取った現金が)手に入ったからだ」

 検察官は木嶋被告がうそがばれるため、大出さんを殺害したことを裁判員らに強調していく。

検察官「被告は他の男性から金をもらったことは認めているが、大出さんから金は受け取っていないとうそをついている。それは口座振り込みでないからだ。現金については、うそをつけば何とかなると思っていたからだ」

 検察官は動機にも踏み込む。

検察官「大出さんを殺害した動機は470万円。うそがばれれば、返済を迫られるから、どうしても大出さんを殺害する必要性があった」

 犯行後の証拠隠滅などについても言及する。

検察官「犯行後、被告は大出さんとのメールを削除するなど証拠隠滅も図っている。さらに、大出さんのマンションに『写真を返してください』と書いたメモを入れている。これについて、弁護側は被告が大出さんの死を知らなかったためと説明しているが、大出さんの母親の証言から大出さんの部屋に被告が映った写真などはなく、弁護側の説明は不合理だ」

「被告がメモを入れたのは犯行後、何日たっても大出さんの死亡に関する連絡がないため、警察から目を付けられていると思い、2週間不安にさいなまれ、様子をうかがうためにメモを入れた。警察はすでに捜査をしており、被告は9月末に逮捕された」

 この後、検察官はひときわ大きな声で大出さん殺害についての結論を述べる。

検察官「以上の証拠や事情などから、大出さん殺害の犯人は被告であることは明らかだ」

 この10分間の休憩を挟み、検察官は寺田さん殺害についての意見に切り替えた。

 木嶋被告は廷内の時計にちらりと目をやった後、手元のノートに何かをメモしている。

検察官「続いて、東京事件の寺田さん殺害について説明していきます。この事件は、寺田さんが自殺したのか、誰かが殺害したのかが争点。だが、この点について、自殺とは考えられない。では、誰が犯行を行ったのか。検察官の考えを述べていきます」

 検察官は、寺田さんの自宅から見つかった練炭やコンロの入手経路などについて説明していく。

検察官「寺田さんのマンションからは複数の練炭とコンロが見つかっており、死因は一酸化炭素中毒だった。警視庁は当初、自殺と判断し、練炭やコンロも押収しなかったのは痛恨の極みだ」

 寺田さん殺害について、警視庁は当初、自殺と判断。司法解剖さえも行われず、物証は乏しい。検察官は状況証拠を積み上げて木嶋被告の犯行を印象づけていく。

検察官「弁護側が自殺したと主張する寺田さんの自宅では遺書が見つかっていない。また、自宅からパソコンの本体と鍵が持ち去られている。このことから、自殺したと考えるのは不自然だ。さらに、弁護側は寺田さんが別れ話を苦に自殺したとしているが、寺田さんは健康状態も良好で、経済的にも余裕があり、会社の上司の話などから自殺はあり得ない」

 検察官はこの後、木嶋被告が犯人であることを裁判員らに訴えていく。

検察官「被告は1月30日に寺田さん方を訪問し、1人で立ち去っている。寺田さんが亡くなったのは1月31日であり、最後にあったのは被告しかいない。また、被告は寺田さん方の鍵を持っており、被告が寺田さんを殺害したと考えられる」

「犯行の動機については、寺田さんについたうそがばれ、金の返済を迫られるのを防ぐためだった」

 検察官はさらに状況証拠を固めていく。

検察官「寺田さんは当時、車や自転車を所有しておらず、レンタカーを借りた記録も残っていない。練炭などを購入できる行動範囲は5キロ以内と考えられる。練炭のうち◯◯社製(法廷では実名)のものは重さ約20キロあり、自宅周辺で購入したとは考えられない。またネットでの購入記録もないが、被告がネットで同じ会社の製品を購入した記録は残っている」

 検察側は、練炭などを購入したのは木嶋被告しかあり得ないことを強調。寺田さんが自殺するために購入したとの弁護側の主張を「不合理」と断じた。

検察官「さらに、練炭などを使って自殺する際、睡眠薬や酒などを飲むのが一般的だが、これらの痕跡が残っていない」

 この後、木嶋被告が別れ話の後に寺田さんからもらったとしている1000万円に触れ、犯行動機に迫る。

検察官「被告は、現金について具体的で合理的な説明を行っていない」

 その後、検察官は証拠隠滅工作にも触れた後、寺田さん事件についても木嶋被告の犯行だと言い切り、午前の審理を終えた。

⇒(5)「50キロ離れた店に練炭買いに行かない」「リフォーム楽しみ…」矛盾つく検察官