初公判(2010.9.3)

 

(3)「オレ、変態だから…」 法廷に響く赤裸々な告白

押尾被告

 合成麻薬MDMAを飲んで容体が急変した飲食店従業員、田中香織さん=当時(30)=を放置し死亡させたとして、保護責任者遺棄致死など4つの罪に問われた元俳優、押尾学被告(32)の検察側の冒頭陳述が続く。男性検察官は押尾被告が証拠隠滅を図った経緯について読み上げていく。

 田中さんが死亡した東京都港区の六本木ヒルズの2307号室には、押尾被告にMDMAを譲渡した麻薬取締法違反の有罪が確定した泉田勇介受刑者や、田中さんの携帯電話を屋外に捨てた証拠隠滅罪で略式起訴された元マネージャーの△△さん、△△さんの上司の□□さんが駆け付けていた。

検察官「被告は自分が部屋にいなかったことにするための口裏合わせとして、△△さんが田中さんの遺体を発見したことにするように依頼しました。田中さんの携帯電話からメールなどを削除したいと相談したが、□□さんから『電話会社に記録が残るから意味がない』と言われました。□□さんからは何度も『救急車を呼んだほうがいい』と言われました」

 だが、押尾被告は救急車を自ら呼ぶことなく、田中さんの遺体を残したまま、泉田受刑者らと4201号室に移動する。この4201号室も、押尾被告が知人から借りて使っていた部屋だ。

検察官「被告は泉田さんに『田中さんは錯乱を繰り返して、重篤になった』と説明しました。このとき、泉田さんに残った薬物の処分や、体からMDMAを抜く手配を依頼しました」

 裁判員らの方に体を向けながら、冒頭陳述を読み上げる検察官。一番左端に座る女性裁判員は神妙な表情で聞き入っている。

 そして検察官は押尾被告が事件当日に田中さんと合う直前、田中さんに送った『来たらすぐいる?』とメールに関する証拠隠滅行為について言及していく。このメールの文言について検察側は、押尾被告がMDMAを田中さんに譲り渡したことを立証する上で重要な証拠と位置づけている。

検察官「被告は翌日の8月3日、泉田さんに『来たらすぐいる?』のメールについて『オレ、変態だから。自分のチンコが欲しいか』という意味だと言えばいいか、と相談しました」

 押尾被告の刺激的な言葉が法廷に響く。だが裁判員たちの表情に大きな変化はなかった。続いて検察官は裁判の争点を整理していく。大型モニターに争点表が映し出され、検察側はMDMAの入手について説明していく。

検察官「弁護側は『すぐいる』メールについては『体がほしいのか、すぐセックスするのか』を尋ねているもので、使用したMDMAは田中さんが持ち込んだとしています。被告が泉田さんから入手したMDMAは未使用としています」

「検察側は被告が田中さんにMDMAを譲り渡したと主張します。メールはドラッグセックスをするか尋ねるもの。8月2日に田中さんと会う約束をした上で、7月31日に泉田さんからMDMAを入手した。田中さんは(以前の)ドラッグセックスの経験について『飲まされる』と受け身の発言をしていました」

「保護責任者遺棄致死罪についてです。まず田中さんが保護すべき病者に当たるかですが、弁護側は田中さんがブツブツ独り言を言ったり、怒ったり、笑ったり、正気に戻ったりしたとしており、『被告が重大な異変と認識していなかった』としています」

「検察側は田中さんが午後5時50分ごろから怒り、ボクシングの状態になったり、笑ったりしたりして生命の危険が生じるようになった。被告は病者に該当して、保護すべき状態になった。(現場となった)2307号室には被告しか正常な判断をできる人間はおらず、被告に保護責任が生じました」

 左から3番目に座る裁判員は手元のモニターを食い入るように見つめる。次の争点は被告が田中さんを保護したかどうかだ。

検察官「弁護側は被告が必死に救命活動を行っていたため、119番通報できなかったとして、不保護ではないとしてます」

「検察側は被告が田中さんの死亡前後に心臓マッサージや人工呼吸をしただけで、MDMA使用発覚を恐れて119番通報しなかったことは不保護にあたるとしています」

 次の争点はいつ田中さんが死亡したのか。そして119番通報したときの救命可能性だ。

検察官「弁護側は田中さんの容体急変から死亡までは数分であり、死亡時刻は6時ごろとしています。119番通報しても、病院まで40分かかり、仮に119番通報しても救命できなかったとしています」

「検察側は被告が午後6時54分以降、友人に『死んでいるみたい』と電話をしていることなどから、死亡したのは午後6時47分から午後6時53分ごろとしています。被告が(異変が始まった)午後5時50分から午後6時までの間に直ちに119番通報していたら、救命することができたと考えています」

 検察官は最後に情状面の訴えを行って、冒頭陳述を締めくくった。

検察官「遺族の処罰感情が強い。被告に真摯(しんし)な反省はみられず、再犯の恐れがあることを証明していきたいと思います」

 続いて弁護側の冒頭陳述に移る。大型モニターには『最初に』と書かれた文章が映し出され、男性弁護人が同じ趣旨の発言を始める。

弁護人「事件はマスコミで大きく取り上げられ、マスコミは被告が田中さんを見殺しにしたかのように報道してきました。皆さんの中には押尾被告に対して予断、偏見を持っている人がいるかもしれません」

 弁護人は裁判員の方に向け、明瞭(めいりょう)な声で訴え続ける。

弁護人「もし持っているのであれば、その考えを捨てる必要があります。裁判で間違った判断をする可能性があるからです」

「立証責任は検察官にあり、裁判には『疑わしきは被告の利益に』という原則があります。もしも検察官の立証に合理的な疑いがあると判断したときには、協議では自信を持って『無罪』と述べてほしいです」

 大型モニターには続いて、『弁護側のポイント』というページが映し出される。そこにはMDMA譲渡、保護責任者遺棄致死罪の成立などに関する弁護側の主張が「○」「×」で簡潔に書かれている。MDMAは田中さんが用意したなどとする従来通りの主張をした後、保護責任者遺棄致死罪が成立しないことをこう強調した。

弁護人「被告は田中さんに心臓マッサージ、人工呼吸を行っています。また田中さんの救命可能性は低く、遺棄致死は成立しません」

 長髪の中に疲れた表情を見せる押尾被告。その表情からは、感情の変化はうかがえない。

⇒(4)「違法薬物のセックスこれまでも」 あえてクスリの確認必要ないと弁護人