第3回公判(2010.11.29)

 

(2)圧力団体存在の可能性「今も50%」 「大切な人奪い申し訳ない」と遺族に謝罪

高窪教授

 中央大学理工学部教授の高窪統(はじめ)さん=当時(45)=を刺殺したとして殺人罪に問われている卒業生で元家庭用品販売店従業員、山本竜太被告(29)に対する被告人質問を続ける男性弁護人は、山本被告が存在を信じていた嫌がらせをする圧力団体について、逮捕後にどのような認識を持っていたかを尋ね始めた。

弁護人「高窪教授が圧力団体の首謀者でない可能性はどれくらいだと考えていましたか」

山本被告「50%程度と考えていました」

弁護人「圧力団体が実在する可能性は?」

山本被告「50%程度です」

弁護人「なぜ考えが変わったのですか」

 山本被告は両手をひざの上におき、沈黙する。しきりに瞬きを繰り返し、口を開いた。

山本被告「逮捕されてから、以前のような『イジメだ』『ありえない』という言葉が聞こえず、普通に生活できたからです」

 山本被告は捜査段階の取り調べや法廷で、事件前に電車内などで周囲の人が自分について話していることがあったと供述していた。

弁護人「起訴後、ほかの警察署に移送されましたね?」

山本被告「はい」

弁護人「少し状態が悪い方に変化しましたか?」

山本被告「そうは思っていません」

弁護人「とても落ち着かない様子に見えましたが、そんな気持ちはありましたか」

山本被告「ありました」

弁護人「何に落ち着かなかったのですか」

山本被告「起訴された後、少し気持ちが動揺しました」

弁護人「動揺だけですか」

山本被告「それともう1つ、体調不良がありました」

弁護人「(山本被告は)小さな物音にもびっくりして、警戒するような表情をしていました。何かに警戒していたのですか」

山本被告「警戒心を持っていました」

弁護人「何に警戒をしていたのですか」

山本被告「もしかしたら、警察の中に圧力団体に属する人がいるのではないかと警戒していました」

 山本被告はこの時期、他人がぶつぶつ言葉を発する声が聞こえ、自分への何らかの警告ではないかと気にしていたという。

弁護人「看守の人から私のところに連絡があり、『壁に向かって正座して、小さな言葉を発していて様子が少しおかしい』と言ってきました。覚えていますか」

山本被告「記憶に残っています」

弁護人「壁に向かって何を考えていたのですか」

 山本被告はうつむきながら唇をなめ、再び沈黙する。裁判員たちの視線が山本被告に注がれる。

山本被告「裁判になったとき、どう回答したらいいのか考えて正座したのだと思います」

弁護人「『高窪教授の遺族がどうしているのか確認する方法はないか』と尋ねていたことがありましたが、どうしてですか」

山本被告「遺族がどうしているのか気になりました。例えば、息子さん、娘さんがちゃんと学校に行っているのか考えました」

弁護人「遺族に対して申し訳ないという気持ちはありましたか」

山本被告「ありました」

 弁護人は看守から『山本被告がうつぶせになって大の字になっている』という報告があったことを明らかにして、山本被告に当時の思いを尋ねる。山本被告は「覚えていない」と繰り返した。

 山本被告は平成21年10月30日、警察署から東京拘置所に移送された。弁護人はこの移送後、山本被告の様子がさらに悪化していったと指摘する。

弁護人「私の質問に答えなかったり、答えが遅いことが続きました。答えたくない気持ちがあったのですか」

山本被告「どういう風に答えたらいいのか分かりませんでした」

 その後も状態がよくならない山本被告は22年3月10日、再び拘置所から警視庁の警察署に移送される。

弁護人「その後も私の問いに答えないことが続きました。理由は」

山本被告「気持ちがめいっていました」

弁護人「どんなことを考えていましたか」

山本被告「両親がどうしているのか(考えていました)。裁判が近づき、裁判がどうなるのか不安でした」

弁護人「警視庁の職員に食事や水分を取ることを止めると宣言したことはありますか」

山本被告「宣言していません」

弁護人「今は気持ちも落ち着いていると思うが、圧力団体が実在している可能性は何%だと考えていますか」

山本被告「50%程度です」

弁護人「実在しているとして、高窪教授が首謀者の可能性は何%だと考えていますか」

山本被告「0%です」

 右端の女性裁判員がメモを取りながら、山本被告を見つめている。

弁護人「高窪教授が圧力団体に関与している可能性は?」

山本被告「50%程度です」

 今崎幸彦裁判長はあごに手を当てながら斜め上を見上げ、何かを考えるような表情を見せた。

弁護人「圧力団体が存在して、高窪教授が団体に関与しているという前提で、高窪教授を殺害したことについてどんな気持ちを持っていますか」

山本被告「殺してしまったこと、命を奪ったことは仕方ないと思います」

弁護人「圧力団体が存在せず、高窪教授が団体に関与していない前提では?」

山本被告「申し訳ないことをしたと思っています」

弁護人「圧力団体が存在して、高窪教授が団体に関与している前提で、高窪教授の遺族についてはどう思いますか」

山本被告「申し訳ないことをしたと思います」

弁護人「何について?」

山本被告「高窪教授を殺してしまい、遺族にとっては大切な人を奪ったことを申し訳ないと思います」

弁護人「圧力団体が存在せず、高窪教授が団体に関与していない前提ではどうですか」

山本被告「同じように申し訳ないと思います」

弁護人「もし刑を終えて出所することがあったら、法廷で指摘されているように精神的な病気があると考え、治療を受けようと考えていますか」

山本被告「必要であれば、しようと思います」

弁護人「私の質問はこれで終わりますが、何か説明したいことはありますか」

山本被告「特にないです」

 午前10時50分、弁護側の質問が終了した。

 続いて、今崎裁判長に促され、男性検察官が質問を始めた。検察官は小・中学校に同級生から受けたイジメについて確認していく。

検察官「護身用に武器を持ったことはありますか」

山本被告「それはなかったと思います」

検察官「果物ナイフを持ったことはありませんか」

山本被告「中学校のとき、一度だけ」

検察官「そのナイフをみんなの前でみせたことは」

山本被告「ありません」

検察官「同級生5、6人から暴力を受けたとき、見せたことはありませんか」

山本被告「ありました」

検察官「どうして同級生に見せたのですか」

山本被告「身を守るためです」

検察官「攻撃のためではなく、見せるだけでしたか」

山本被告「はい」

検察官「その後、イジメはありましたか」

山本被告「落ち着きました」

 高校では友達ができ、落ち着いた学生生活を送った山本被告。検察官の質問は大学の5年目に、高窪教授の研究室に入ったときのことに移る。

検察官「当初は高窪教授に尊敬の気持ちはありましたか」

山本被告「研究室に入った当初は尊敬していました」

検察官「5年のときは研究室にちゃんと行っていましたか」

山本被告「後半は行かない日が多かったです」

 山本被告は淡々とした様子で答え続ける。

⇒(3)事件悔やむ一方で「殺さなければ伝わらないと思った」