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(6)主任弁護人の意図が不明!? 疲れ見せるほかの弁護人

午後から出廷した証人の被害者は、加藤智大(ともひろ)被告(27)に右上腕部を切り付けられた瞬間を「衝撃を感じた」と表現した。切り付けられた瞬間、加藤被告の姿を目の当たりにしたのか、検察官が確認する。

検察官「犯人の姿を見ていますか」

証人「確実には姿を見ていません」

検察官「その後、どうしましたか」

証人「警察と救急車を呼んでもらうため、近くの店に行きました」

検察官「対応してくれた店員はどのような様子でしたか」

証人「『ソフマップの向こうに交番があるので行ってみればいいのでは』ということを言われました」

検察官「その後はどうしましたか」

証人「店員の言うとおり、交番に向かいましたが、結果的にはたどり着けませんでした」

結局は交番にたどり着けなかったという被害者。騒然とする現場をみたそのとき、何を思ったのか。

証人「さまざまな人が傷付いて倒れているのを見て、呆然(ぼうぜん)として立ちつくしました。まるで地獄のようでした」

検察官「その時、痛みはありましたか」

証人「かなりひどかったです」

検察官「どの位の時間、現場にいましたか」

証人「1時間くらいです。その後、救急車で病院に行きました」

検察官「医者からはどのように言われましたか」

証人「もう少し傷が深ければ、神経や血管を傷付けて大変な状況になっていたと言われました」

検察官「そのとき、どう思いましたか」

証人「運良く助かったのだと思いました」

検察官「仕事には、影響がありましたか」

証人「自分の任されている仕事ができませんでした。自分の仕事はフォークリフトの運転なので」

検察官「どの程度通院しましたか」

証人「1カ月で10回くらいです」

検察官「傷跡はどうなりましたか」

証人「最初よりは良くなっているのでしょうが、(見た目は)あまり変わっていないです」

検察官「傷跡は消えないということですか」

証人「はい」

検察官「今も、痛みやしびれを感じるときはありますか」

証人「右腕をよく使ったときは、しびれがあります」

検察官の質問は事件後の影響に移る。これまで出廷してきた被害者や目撃者は、今も続く漠然とした不安感を証言している。今回の被害者の証人も同様のようだ。

検察官「精神的影響について聞こうと思います。事件後、秋葉原に行ったことはありますか」

証人「秋葉原には行きたくありません。現場検証で1度行ったきりです。いまでも近付きたくはありません」

検察官「そのほかに何かありますか」

証人「外出したくなくなりました。何かに襲われるのではと恐怖を感じるからです」

検察官「それではなぜ法廷で証言しようと思いましたか」

証人「あまり思いだしたくありませんでしたが、きちんと事件を解決してほしいと思ったからです」

検察官「被告からの手紙は読みましたか」

証人「被害者のことを考えていない手紙だと思いました。自分のしたことは書いてあるのに、被害者が今、どんな思いをしているのか何も考えていないと感じました。怒りを感じました」

公判を前に、被害者や遺族に届いた加藤被告の手紙。その文面をみてある程度の評価をする人もいれば、今回の証人のように批判的にとらえる人、手紙を開けていない人など、反応はさまざまだ。

検察官「どんな処罰が必要だと思いますか」

証人「被告がきちんと反省の態度を示すことが必要だと思います」

検察官の質問が終わり、弁護人の質問に移った。それまで、ノートにメモを取っていた加藤被告の手が止まり、ノートが閉じられる。加藤被告はうつむき加減でじっとしたままだ。

弁護人「あなたはトラックが人とぶつかる瞬間は見ていないということですね?」

証人「はい」

弁護人「あなたの供述調書によると、あなたの周囲には30〜40人いたということですが、それで間違いないですか」

証人「はい」

弁護人「周囲から悲鳴が聞こえたとき、犯人がナイフを持っていることは知っていましたか」

証人「知りません」

弁護人「(被害時の)リュックの持ち方を確認させてください」

切り付けられた際の右腕の角度を、供述調書と今日の供述内容とを比べて細かく確認する主任弁護人。だが、その質問の意図はあまり周囲に伝わっていない様子だ。弁護人の1人は、集中力が切れてきたのか、目がだんだんと閉じていっては、目を見開く動作を繰り返している。

弁護人「(刺されたときに)体全体に衝撃を感じたことはありますか。体当たりをされたような」

証人「ないです」

裁判官の質問は何もなく、この被害者への尋問は終了した。証人が書き込みをした現場の見取り図などにサインをし、退廷する。

続いて村山浩昭裁判長が「次の証人については、ビデオリンクによる証言のため、準備にしばらく時間がかかります」と告げ、約25分間の休廷に入った。その瞬間、微動だにしていなかった加藤被告がちらっと右側の刑務官の顔を見た後、またまっすぐ前に向き直した。再開は午後3時からだ。

⇒(7)「宝箱の街、秋葉原を殺人の舞台にした犯人には極刑を!」強く訴える目撃者