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(13)被告に手紙を返信した被害女性「私たちのことを知ってほしい…」

加藤智大(ともひろ)被告(27)に刺され、約3カ月の重傷を負った女性被害者Gさんに対し、弁護側の反対尋問が始まった。弁護側はまず、加藤被告のトラックが交差点に突っ込んだ際のことについて質問する。

弁護人「交差点を渡り終えてた時点で『ガシャン』という音が聞こえたということですが、すぐにその方向に振り向いたのですか」

証人「はい」

弁護人「そのとき交差点にトラックが走ってくる様子は見えました」

証人「見えませんでした」

弁護人「そのとき一緒にいた友人とは何か言葉を交わしましたか」

証人「交わしていません」

弁護人「あなたは振り向いてから走り出したということですが、すぐに走り出したのですか」

証人「友人を置き去りにする形で走り出しました」

弁護人「事件現場交差点では男性が転がってくる様子が目に入ったのですか」

証人「はい」

弁護人「トラックにはねられているところは見ていないのですか」

証人「見ていません」

弁護人「何かの反動で転がっている様子でしたか」

証人「何かにはじき飛ばされたという感じでした」

弁護人「その後、あなたはベージュの上下をきた男性(加藤被告)が目に入ったということですか」

証人「はい」

弁護人「男性は警察官の後ろに立っていたのですか」

証人「最初は警察官から距離のある位置で見えました」

弁護人「男性はどちらの方から来たのですか」

証人「来るところは見ていません」

弁護人「男性に気づいたとき、男性はどの辺りにいましたか」

証人「神田明神通りから現場の交差点に入ってくるように見えました」

弁護人「最初、見たときは交差点の内側でしたか、外側でしたか」

証人「何となく横断歩道のあたりにいたと思います」

弁護人は、警察官が襲われるのを目撃したというGさんの証言を、細かく検証していく。

弁護人「男性は警察官のところまで、どのように近づいていきましたか」

証人「走っていたかどうかは定かではないが、まっすぐにスピードがあるように見えました」

弁護人「男性が動いている様子を見ていたのではないのですか」

証人「私が見たのは男性が警察官から2、3歩離れたところにいたときからです」

弁護人「あなたから警察官の距離はどのくらいでしたか」

証人「数メートルくらいだと思います」

弁護人「警察官の方を見ていたのですか」

証人「はい」

弁護人「あなたから見て警察官の正面は見えていましたか」

証人「真正面ではありませんが、左肩がよく見える斜めの角度でした」

弁護人「男性はどちらの方向を向いていたのですか」

証人「警察官の方向を向いていました」

弁護人「表情はどうでしたか」

証人「無表情だったと思います」

弁護人「男性は警察官の左肩を触っていましたか」

証人「どちらかの手で触っていましたが、殴るときは、右手で殴るような感じでした」

Gさんは「殴る」と表現しているが、実際にはこの警察官はナイフで刺されている。弁護人はGさんの記憶を質すかのように、加藤被告の動きを詳細に尋ね続ける。

弁護人「男性が近づいてくる間、あなたは何をしていたのですか」

証人「(トラックにはねられ)倒れている被害者のことで頭がいっぱいで、そちらの方を見ていました」

弁護人「その後、自分のお腹の部分に衝撃を感じたということですか」

証人「はい」

弁護人「(男が)手に何かを持っているのは見えましたか」

証人「見えませんでした」

弁護人「衝撃というのを具体的に教えてください」

証人「『うっ』となるような、息が詰まるような感じでした。かなりの力で殴られたかのような感じがしました」

自分が刺された際の記憶を、詳しく証言するGさん。弁護人はさらに質問を続ける。

弁護人「事件の全体のことを知ったのはいつごろですか」

証人「だいぶたってから、新聞やネットを見て何となく分かりました。今もすべては分かりません」

弁護人「被告から手紙を受け取ったと思いますが、いつごろ読みましたか」

証人「受け取ってそのまま読みました」

弁護人「その後、被告の両親からも手紙が来ましたね」

証人「はい」

弁護人「あなたはその手紙に返事を書いていますよね。どんな気持ちで書いたのですか」

証人「この事件に限ったことではないと思いますが、加害者と被害者のいる事件は、何らかの形で加害者と被害者が関わらないといけないと思うんです」

弁護人「どのようにですか」

証人「私は、被告がどういう人なのか知らないし、なぜこんな事件を起こしたのか全然分かりません。でも裁判には、『やられたらやり返す』というつもりではなく、どうしてこのような事件を起こしたのかを、どうやったら社会の人に広められるかと思って…。すいません、うまく説明ができないのですが、事件のことが何か分かればと思って、それで手紙にも返事を出したのです」

考えがまとまっていないながらも必死に自分の気持ちを話そうとするGさん。加藤被告はうつむき加減のまま。この言葉を、どういう思いで聞いたのだろうか。

弁護人「被告人に興味を持ったのですか」

証人「はい。逆に、被告には被害者の生い立ちなど、どんな人だったのかを知ってほしいし、自分のしたことがどういうことなのか分かってほしいです。私の想像ですが、被告は自分のしたことについて、まだ分かってないのだと思います。被害者や遺族のためにも、私に何か役に立てることがあればいいな、と思ったのです」

弁護人「分かりました。以上です」

裁判長「それでは証人、長い間お疲れ様でした。退廷してください」

Gさんに対する証人尋問は終了し、午後4時、再度休廷となった。加藤被告は、傍聴席に向かって一礼すると、静かに法廷を後にした。

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