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(3)「あなたの所有物ですね」「はい」… 凶器のナイフ示され、うなずく被告

犯行当時の現場を写した防犯カメラのビデオテープについて、証拠調べが行われる。加藤智大(ともひろ)被告(27)は、背中を丸めて、じっと座っている。

検察官「甲5号証は、ビデオテープです。被害者が写っているので、モニターはオフにさせていただきます。合計約30分ですが、(平成20年6月8日午後)12時18分30秒ごろから、12時21分ちょうどごろまでの、2分30秒間を再生します。特に、12時18分44秒と、12時20分57秒に注目してください…」

テープには、犯行現場の交差点近くの家電量販店ソフマップに備えられていた防犯カメラの映像が収められている。

検察官「今ちょうど、12時18分30秒からスタートしますので、12時18分44秒ごろに注目してください…」

村山浩昭裁判長ら3人の裁判官の前に1台ずつ、検察官席と弁護人席にも1台ずつ置かれたモニターで、ビデオが再生されている。傍聴席から映像は見えない。

検察官「…えーと、続いて、しばらく早送りします。12時20分57秒ごろに注目してごらんください…。今、12時20分57秒ごろですので、注目してください」

検察官は何度も時間に言及し、注意を促している。

検察官「…しばらく早送りします…今、12時27分52秒でいったんストップします。この後の画像をごらんください。12時27分58秒ごろに注目してください…」

村山裁判長ら3人の裁判官は、あごに手を当てたり、みけんにしわを寄せたりしながら、モニターに見入っている。時間が気になるのか、検察官はビデオを操作しながら、何度も腕時計に目をやっている。

検察官「今、12時33分1秒でいったんストップします。ここから約1分…12時33分8秒ころ、および、12時33分44秒ごろに、特に注目してごらんください…」

説明者とは別の検察官らも、唇を引き締めてモニターをのぞき込んでいる。重要な場面なのだろうか、村山裁判長らも、やや身を乗り出したように見えた。検察官は同じ部分をもう1回再生したようだ。その後、「では、5号証の取り調べは以上であります」と結んだ。加藤被告は、身じろぎもせず座ったままだ。

ここで検察官が、検察官席と弁護人席の後ろ側上方に備えつけられた大型モニターに、リモコンでスイッチを入れた。画面には「甲76 捜査報告書」の文字が映し出された。

検察官「続いて甲76号証は、犯行現場の地番を特定した捜査報告書です…」

加藤被告がトラックで5人を死傷させた現場と、トラックを停車させた現場の厳密な「地番」が表示された。検察官は席に着き、別の検察官が立ち上がった。ここから犯行に使われたダガーナイフなど、凶器の説明に入る。

検察官「ナイフの種類や、どこから発見されたのかなどを、簡単に説明いたします。ナイフは全部で5本あります。後ほど現物を提示します…」

押収されたナイフは、(1)ダガーナイフ(2)折りたたみ式ナイフ(3)ユーティリティーナイフ(4)ダイバーズナイフ(5)ユーティリティーナイフ−の計5本だ。

検察官は、それぞれについて刃体の長さや、押収状況を明らかにしていく。犯行に用いられた(1)のダガーナイフは12・3センチ。(2)の折りたたみナイフは9・1センチで、加藤被告のジャケット内から発見された。

(3)のユーティリティーナイフは11・5センチで、犯行現場の路上に落ちていた。(4)のダイバーズナイフは12・2センチ、(5)のユーティリティーナイフは11・6センチで、いずれもトラック内のリュックサックから押収された。検察官は早口で説明を終えた。

検察官「それでは、証拠品を示します」

検察官が手元の風呂敷をさっと解くと、透明なケースが現れた。その中には、鞘が外され、刃が剥きだしになったダガーナイフ。犯行に用いられた凶器。法廷がざわめき始めた。一部の傍聴者が思わず、身を乗り出す。

検察官「見えますか?」

加藤被告は軽くうなずいた。

検察官「透明のケースに入っていますが、ケースは証拠品ではありませんので…」

検察官はケースを持って加藤被告に近づく。

検察官「見覚えがありますね?」

加藤被告「はい」

検察官「あなたが使用したナイフに間違いありませんね?」

加藤被告「はい」

検察官「あなたの所有物ですね?」

加藤被告「はい」

加藤被告の声はほとんど聞き取れなかったが、3度目の問いかけにだけ「はい」とはっきり返事をした。背中を丸めた姿勢のまま。表情も淡々としており、特に感情の動きはうかがえなかった。

⇒(4)「背中を刺された。息苦しい」…被害者の“声”にも被告は無表情