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(3)殺害「死の恐怖与えていない」…主張認められうなずく弁護人

犯行の残虐性から極刑を選択する可能性も指摘されていたが、平出喜一裁判長はなぜ星島貴徳被告の死刑を回避したのだろうか。判決文の読み上げは、星島被告の生い立ちや逮捕後の態度に移っていく。

青々と丸刈りにしていた星島被告はわずかに頭を左にかしげた格好で、一点を見つめたまま判決を聞いている。

裁判長は星島被告が1歳11カ月の時に負ったやけどについて言及。小学校時代にやけどの跡でいじめに遭っていたことについて触れた。

裁判長「泣きながら父親に相談すると父親から『そんなことで泣くな』と怒鳴って叱られ、母親に相談しても父親に伝わってしまい母親も信用できなくなった」

裁判長はやけどの跡のいじめや両親の対応が、星島被告の人格形成に影響を与えたことを指摘。前科・前歴はなく、仕事ぶりも正確で勤務先での人間関係に特に問題はなかったと言及する。

女性に対するゆがんだ妄想を抱くようになっていたものの、犯行の1週間前に犯行を決意するまでは、妄想の次元にとどまり、心の内はともかく、生活状況からは問題となる点は見受けられなかったという。

裁判長「この点は量刑にあたって考慮すべき事情として過大に強調することは相当ではないものの、相応の意味がある事実というべきである」

裁判長は星島被告が犯行直前まで普通に生活していた点を量刑の判断材料とした。

裁判長「屈折した感情を持つに至った経緯はコンプレックスを感じていることや、両親との葛藤が影響していることがうかがわれ、同情すべき点があり量刑を考えるうえで心にとどめるべき事情ということができる」

極刑を強く希望していた遺族ら関係者の中には、予想外の判決に傍聴席でうなだれる女性や、ハンカチで涙をぬぐう男性の姿もあった。

裁判長はさらに逮捕後の様子についても情状酌量の余地があることについて述べていく。星島被告が取調べで罪悪感を募らせ自供を始めたことや、般若心経を2000通以上写経し、本棚を仏壇のように見立てて花を飾ったり菓子を供えたりしていることなどだ。

裁判長「改心は遅きに失しているものの、自らの非を悔い謝罪しようとしているのをうわべだけのものと切って捨てることはできない」

弁護側の主張した情状面について裁判長が考慮したようだ。判決文を聞いている弁護人は満足したのか天井を見つめながら何度も小刻みにうなずいている。一方で3人いる検察官は伏し目がちにジッと聞き入っている対照的な表情だ。

裁判長は引き続き、量刑の検討について述べていく。性奴隷にしようという歪んだ性的欲望で拉致し、発覚を防ぐために殺害、死体を細かく切断したことについて、検察官が死刑を求めることに一定の理解を示した。ではなぜ無期懲役を選択したのか。裁判長は続ける。

裁判長「しかしながら、刑事責任を検討するにあたっては犯情として以下の事情も指摘されなければならない」

裁判長が考慮した事情とは、まず、東城瑠理香さんに執拗な攻撃をした訳ではなく、首を包丁で一突きして殺害したもので、「殺害においては、ことさらに死の恐怖を与えるようなことはしていない」ということだ。検察官が論告で指摘した、1人が殺害された事件で死刑判決となった前橋、奈良、三島の3事件と比較して殺害方法が残虐極まりないとまでは言えないということのようだ。

裁判長「死刑の選択が問題となるのは法定刑に死刑を含む殺人罪を犯したからであり、殺害前、殺害行為自体の態様に比して、命を落とした後である死体損壊、死体遺棄の態様を過大に評価することはできない」

事件は死体損壊と遺棄の行為がショッキングだったが、この2罪は法定刑に死刑はない。殺害とこの2罪を分けて考えるという弁護側の主張を認めたといえそうだ。

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