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(1)裁判長「金づち1本没収」 判決は“迫害”を考慮?

長野県富士見町で昨年11月、義妹の五味絵里子さん=当時(24)=を殺したとして殺人罪に問われた五味咲被告(24)の判決公判。3月に開かれた第3回公判で、検察側は懲役15年を求刑した。しかし、弁護側は絵里子さんからの度重なるいじめが犯行につながったと主張。犯行時の責任能力はなかったと精神鑑定を求めたが、却下されている。

判決が言い渡される長野地裁松本支部では、裁判員制度に備えて建物の改修工事が行われている。咲被告の公判が行われるのは、工事が終わったばかりの真新しい1号法廷だ。前の公判が長引いたため、裁判官3人は午前11時16分に法廷に着席。報道機関による廷内撮影の後、咲被告の家族とみられる関係者が入廷し、同21分、咲被告がようやく姿を現した。黒色のトレーナーに紺色のジャージーのズボン。髪の毛を左前で1つにしばっている。

背中を丸めて入廷した咲被告は、うつむいたまま弁護人の前に設置されている被告人席に腰掛けた。荒川英明裁判長が開廷を告げると、咲被告は落ち着かない素振りで体を動かし、前かがみになった。

裁判長「それでは双方(検察側と弁護側)よろしいですね。被告人は証言台のところに座ってください」

裁判長に促され、咲被告は法廷の中央にある証言台に移動した。咲被告が台から少し離れた位置に立つと、裁判長が主文を告げた。

裁判長「あなたに対する判決を言い渡します。主文。被告人を懲役10年に処する。未決勾留日数90日をその刑に算入する。金づち1本を没収する」

検察側の求刑の3分の2にあたる量刑だ。情状面を勘案したのだろうか。裁判長の正面に立っている咲被告の表情は読み取れないが、体を大きく動かすなどの様子は見られなかった。傍聴席では、判決主文を聞いた記者が、内容を知らせようと一斉に立ち上がる。その間、裁判長は咲被告に「座ってください」と声をかけた。

裁判長「主文の意味を簡単に説明します」

裁判長は、咲被告がこれまで身柄を勾留されていた日数のうち、90日を懲役10年の刑に繰り入れることなどを説明した。

裁判長「理由の要旨を読み上げます。まず、犯罪事実ですが、被告人は平成14年4月に専門学校に入学し、◯◯さん(夫)と交際を始めた。16年7月に婚姻し、子をもうけ、18年7月に長野県富士見町の実家に引っ越した」

「咲被告は被害者の絵里子さんと、18年12月ごろ同居するようになった。しかし、家事をほとんどせず、帰宅が遅い絵里子さんに、不満をもつようになった」

裁判長は手元を見ながら、少し早口で判決文を読み上げていく。

裁判長「19年4月から、咲被告と絵里子さんは同じ職場で働くようになったが、職場で絵里子さんの携帯がなくなり、警察が職場に来る騒ぎになった。6月には、咲被告は別のセンターに異動させられ、絵里子さんは、携帯がなくなったことを自分のせいにしようとする言動を取った」

裁判長は、検察官の冒頭陳述に出てきたエピソードを事実として認定した。咲被告と絵里子さんの間にあったトラブルが犯行につながったとみているようだ。咲被告は、証言台に座ってうつむいたままだ。

⇒(2)「☆→駐車場→助手席」 記号入り犯行メモ明らかに