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(1)母怒り真っ向対立“咲はネコをかぶっていた”

長野県富士見町で昨年11月、義妹の五味絵里子さん=当時(24)=を殺したとして殺人罪に問われた五味咲被告(24)の第3回公判。被告の義理の母でもある絵里子さんの母が被害感情を陳述した。この後には検察側の論告求刑と弁護側の最終弁論が予定されている。

午後1時45分、咲被告が長野地裁松本支部の2号法廷に現れた。紺色のフード付きトレーナーに水色のジャージーのズボン。初公判の時から変わらない背筋を丸めたおどおどした歩き方で、所在なげに被告人席に腰掛けると、荒川英明裁判長が開廷を告げた。

法廷には、咲被告から見えないように遮蔽板が用意され、絵里子さんの母親が証言席に座った。髪の毛を後ろにまとめた咲被告は、ずっとうつむいたままで、その顔に前髪がかかる。

証人「私は平成19年11月7日に自宅で次男の嫁、咲に殺害された絵里子の母親です」

義母は自分のことをそう紹介すると、用意してきた文書を読み上げ始めた。まずは近隣住民や事件関係者へのおわびと感謝を述べると、続いて、咲被告との生活状況が語られる。

証人「平成16年、咲を家族に迎え入れた。13年に長男を亡くした私は、子供ができ喜んでいた。孫と3人の同居生活では、買い物や外食などたくさんでかけた。咲は(夫の)次男よりも私と外出することが多かった」

「一方、絵里子は高3の時から、友人に紹介された交際相手と付き合っていたが、交際相手は絵里子を金銭を得る相手だと思っていた。絵里子は自分の体がボロボロになるまで尽くしていた。最初は私も、『好きなら嫁に出しても』と思っていたが、絵里子が青あざを作って帰ってくるようになった。絵里子は『こんな生活はいやだ』と交際相手と別れた」

こうして実家に戻ってきた絵里子さんと咲被告の同居生活が始まった。義母には、同い年の2人がまったく異なった性格を持っていることがわかったが、2人に同じ愛情を注いでいたという。

証人「本来は口数の少ない次男が絵里子に話しかけてくることから、私は『咲が絵里子を気にしているからではないか』と思った」

「(持ち物などがなくなるようになると)絵里子は見えない犯人にイライラして私に怒りをぶつけてきた。でも絵里子は、『咲が勤務すれば(紛失は)起きないだろう』とじっと耐えていた」

「職場では、『絵里子は精神を病んでいる』と言われていた。私は富士見交番に、被害届を出したが、人ごとで片づけられた」

じっと耐える絵里子さんの家族に対する思いやりに、義母は涙が出たという。しかし、義母は仕事が忙しくなり、2人に目をかけることが難しくなった。

証人「絵里子はおなかをすかして外で泣き、私の帰宅時間に合わせて家に帰ってきたりした。『なぜ咲は絵里子に温かい言葉をかけてくれないのだろう』と思うようになった」

「咲は、絵里子に対して、何か特別な感情を持っているのかと話し合いの場を持ったが、次男が止めた。絵里子に『一番上の兄ちゃんが生きていれば違ってたよね』と言われ、胸が痛んだ」

「2人が話し合った席で、『言って分からない人間は、殴って分からせる』と絵里子に殴りかかった咲に驚いた。孫にも同じことをやっているのではないかと心配になった」

検察側の冒頭陳述では、自分の子供の体にあざができていたことについて、咲被告は『絵里子さんがやったのではないか』と邪推していたことが明らかになっている。義母は、咲被告が子供に手をあげた可能性もあると言いたいようだ。

証人「絵里子が自宅を出ると次男に話したら、咲夫婦が出て行くと言った。私は孫と会えなくなるが、会いに行こうと思った。咲がアパート生活がうれしいと言って出て行ったとき、良かったと思った。咲には毎月のアパート代、生活資金を届けた」

「私は咲と絵里子の2人のセーターを買ったり、同じ愛情を注いでいた。アパートの玄関にあった楽しそうな咲、次男、孫の写真を見て、『次は第二子の報告かな』と思っていた」

しかし、義母の見込みは外れる。別居生活が始まって少したったころから、咲被告は再び絵里子さんのことを気にしだしたという。

証人「絵里子は『次は私の命がなくなるよ』と(家の)鍵を変えてくれるよう頼んだ。私があのとき絵里子が言ったとおりしてやれば、とくやみきれない」

それまで、しっかりと文章を読み上げていた義母は、ここで初めて声を詰まらせた。義母の涙声を聞いても、咲被告はうつむいたままで、様子に変化はない。

証人「絵里子は23年生きて、これから人並みの幸せを得るときだった。『お母さん大好き』『旅行いっぱいしようね』と言っていた」

遮蔽板越しに、義母は咲被告に語りかけた。

証人「咲、生きていた健康な絵里子を帰してください。声もかわいい笑い顔も、抱きしめることもできない。『絵里子、会いたい。ごめんね』という私の思いが、咲はわかりますか?」

「逮捕後、私は女手ひとつで築いた家も友人もすべて失った。小さな孫を殺人犯の子にしてしまった咲に母親の資格はない」

『逮捕後、自殺も考えた』という義母は、孫のために生きていく道を選んだ。義母はすぐに夫と離婚して名字を旧姓に戻しているが、さらに次男も離婚させ、孫の名字を変えさせようと考えていると説明した。「咲被告を支えていく」と述べた咲被告の夫とは対照的だ。

証人「咲は、(裁判で)蚊の鳴くような声で返答し、本音が出ておらず、反省していない。咲は介護士をしていて、命が戻らないことを知っていたはず。それなのに邪魔者を消すという許しがたい行動を取った」

残虐な手口で娘を殺害し、その後何食わぬ顔をしていた咲被告への義母の怒りは、厳しい処罰感情につながった。

証人「できる限りの厳しい刑を求めます」

⇒(2)義妹の嫌がらせ「想像に過ぎぬ」検察官バッサリ