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(3)殴られ、たじろぐ被告 覆い被さると…弁護側が死亡の経緯詳述

千葉県市川市のマンションで平成19年、英国人英会話講師のリンゼイ・アンホーカーさん=当時(22)=が殺害された事件で、殺人と強姦(ごうかん)致死、死体遺棄の罪に問われた無職、市橋達也被告(32)の裁判員裁判は弁護側の冒頭陳述が続く。

市橋被告は自宅マンションでリンゼイさんを強姦後、4畳半の室内に連れて行った。男性弁護士が死亡した経緯について読み上げていく。市橋被告は殺人罪に問われているが、あくまでも「死なせてしまった」とする主張だ。

弁護人「リンゼイさんは(19年3月)25日深夜近くになって『持病がある。薬を飲まないと』と訴えました。被告はパソコンで病気と薬の名前を検索しました」

さらに弁護人は、市橋被告に当時、交際していた女性がいたことを明らかにした。市橋被告は交際女性が自宅に訪れることを恐れていたという。

弁護人「被告は女性に『1週間会えない』とメールしました」

その後、弁護人はリンゼイさんが死亡した経緯について、市橋被告の室内での行動を生々しく再現する。

弁護人「(交際女性に)メールを送ったのが(3月25日)午後4時半ごろ。その後、被告は眠ってしまいました。26日午前2時から3時ごろに目を覚まし、(リンゼイさんを拘束した)バンドが締まっているか、確認しようと近付きました」

市橋被告が眠っている間、リンゼイさんは手足を結束バンドで縛られ、4畳半の室内に置いた浴槽の中に放置されていた。

弁護人「バンドが足に着いているのを確認しましたが、浴槽をみると、手が外れていました。その時、突然、リンゼイさんが被告の顔面を殴りました」

市橋被告はうつむいたまま、冒頭陳述に聞き入っている。感情の変化はうかがえない。

弁護人「被告はたじろぎました。リンゼイさんは浴槽を倒し、逃げだそうとしたのです」

はうようにして進んだリンゼイさん。「リンゼイさんの大声が、隣人に聞こえるかもしれない」これ以上の声を出されることを恐れた市橋被告はリンゼイさんに近付いていった。

弁護人「被告は後ろから近付き、左手で口をふさぎました」

リンゼイさんはそれでも大声を出し、前に進もうとしたという。男性弁護人は身ぶりを交えながら説明する。裁判員らは真剣な表情で聞き入っている。

弁護人「今度は左腕を顔に巻くようにしました。それでもリンゼイさんが声を出し続けたため、上半身に覆いかぶさりました」

体重をかけていた市橋被告だが、異変に気付く。

弁護人「リンゼイさんの目の焦点が合っていませんでした」

市橋被告は心臓マッサージと人工呼吸をしたというがリンゼイさんの意識が戻ることはなかった。

弁護人「それが、26日午前2時から3時ごろの間です。被告はショックを受けました」

「何がなんだか分からなくなった被告は、疲れて寝てしまいました」

男性弁護人は市橋被告がベランダにリンゼイさんの遺体を遺棄したことは認め、裁判員に向け「審理に当たっての注意点」を呼びかけた。

弁護人「被告が逃げたことから供述が得られない状態で捜査が進んだわけです。(事件の構図は)捜査員が見立てでまとめたと考えます」

男性弁護人は捜査がこのように進んだ経緯について「やむを得ない」とした上で、客観的証拠が無視されていると主張。捜査の問題点を指摘する。

5日に証人として出廷する司法解剖医の主張にも「鑑定で分かった点、分からなかった点」に注意してほしいと呼びかけた。

弁護人「被告は2年7カ月間逃亡しました。(裁判員らも)ニュースを見て、頭に入っていると思います。ただ、事実と証拠に基づいて審理してほしい。公判では殺人と強姦致死に反する証拠が出てくる。良く考えてほしい」

弁護側の冒頭陳述が終了した。その後、堀田真哉裁判長が公判前整理手続きの結果について説明。強姦致死と殺人について争いがあることや、今後の日程について確認した。

午後2時15分に休廷。市橋被告はうつむきがちで、表情は読み取れない。

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