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(8)夫不明も、心配は「給料とボーナス」

休廷明けは、この日3人目の証人が出廷。三橋祐輔さんが事件当時勤務していた外資系証券会社の上司だった男性だ。

歌織被告は祐輔さんを殺害した平成18年12月12日以降、「警察に捜索願を出した」と、この男性にうそをついたとされている。犯行直後の歌織被告の“演技”を間近で見て、不信感を抱いた男性の証言に注目が集まる。

検察官「平成18年12月12日、祐輔さんは会社に来なかった。それまでに無断欠勤はあった?」

証人「ない」

検察官「13日も休みだった。歌織被告から電話があった?」

証人「はい」

検察官「内容は?」

証人「『家に帰ってこない。会社に来たら連絡がほしい』と」

検察側は冒頭陳述で、歌織被告は平成18年12月12日午前6時ごろに祐輔さんを殺害。12〜14日にのこぎりなどを購入し、14日午後に遺体をバラバラにしたと指摘している。

検察官「14日は会社で重要な会議があった?」

証人「はい。1年に1回、各人の業績や来期の年俸が発表される」

検察官「どう対応した?」

証人「(携帯)電話がつながらないので、14日の朝に歌織被告に電話をし、警察に届けるよう依頼した」

検察官「歌織被告は何と?」

証人「『届けました』と」

だが、会社側が警察に確認し、「捜索願を届けた」という発言はうそであることが判明する。

検察官「捜索願が出されていないと分かり、どうした?」

証人「再度、歌織被告に電話し、捜索願を出すよう言った」

検察官「何と?」

証人「『2、3日いなくて警察に届けるのは世間体が悪かった』と、うそを認めた」

検察官「その後、歌織被告が警察に行ったか確認した?」

証人「はい。警察に聞いた。だが正式な受理はされていないと言っていた」

検察官「なぜ?」

証人「『(祐輔さんの)写真が足りない』と」

検察官「ほかには何か言われた?」

証人「『なぜ奥さんが真剣でないのに、会社が心配するのか』と」

祐輔さんを案じた証人は14日夜、祐輔さんの家を訪ねる。歌織被告との初対面だ。

検察官「対応は?」

証人「家にあげてくれず、玄関先で10〜15分ぐらい話した」

検察官「家にあげてほしいと言わなかったのか?」

証人「近所の目があるので、中にあげてほしいと言った」

検察官「歌織被告の様子は?」

証人「淡々としていた。焦りがあると思ったが…」

歌織被告は証人のほうをあまり見ないが、時折口をへの字にし、不機嫌そうな表情を見せる。

検察官「歌織被告は何と言っていた?」

証人「『12日朝に出社し、帰ってきていない』と」

だが、事件4日後の12月16日になると、そっけなかった歌織被告は『代々木署に行くので一緒に行ってほしい』と連絡してきた。

検察官「16日は新宿で上半身が発見された日だが…」

証人「警察に行く前、報道を見た同僚から『(遺体は)三橋じゃないか』と電話があった」

検察官「歌織被告の反応は?」

証人「非常に驚き、『それはどういうことなのか』と、事件のことを知らないように質問していた」

検察官「その後どんな話をした?」

証人「『いつまでこの家に住めるのか』『今月と来月の給料、ボーナスは支払われるのか』などと言っていた」

検察官「どう思った?」

証人「違和感があった。そういう心配より、夫の心配が先だと思った」

検察官「どう答えた?」

証人「今月は出る。1月以降は失そうしていたら分からないと」

検察官「歌織被告の様子は?」

証人「少し安堵していた」

歌織被告の言動に疑いを抱いた証人は、事件当日の12月12日、祐輔さんが『出社した』とする歌織被告の発言にも疑問を抱き、“自力”で発言がうそであることを証明。歌織被告に突きつけた。

検察官「(マンションの)ビデオを確認した?」

証人「部下がした」

検察官「どうして?」

証人「不自然なことが多いので…。マンションの管理者が知り合いということもあった」

検察官「調べた結果は?」

証人「夜3時に帰った確認は取れたが、12日の朝8〜10時に出社した確認は取れなかった」

検察官「歌織被告は?」

証人「『そんなはずはない、出たはずだ』と言った」

⇒(9)夫の勤務先に給与口座を問い合わせた歌織被告