第3回公判(2008.5.8)

 

(7)「3000 ジロー お礼」 メモが最大の根拠

羽賀被告

 論告は羽賀研二、渡辺二郎両被告の共謀の立証に踏み込んでいく。大阪市内のホテルで恐喝未遂事件があった後、知人男性から依頼されたアルバイトの男性が、名古屋市内のジュエリー店で債権を回収するため羽賀被告を見つけた際の状況を再現した。

検察官「アルバイト男性が羽賀被告を見つけたとき、羽賀被告は『渡辺被告に任せているので』と答え、渡辺被告もアルバイト男性に電話で『お前殺したろか』などと怒鳴りつけたことが認められる。渡辺被告らに男性を脅してもらい、債権放棄を図ろうとしたのは明らかだ」

 さらに検察官は立証の柱として、羽賀被告から渡辺被告に渡った恐喝行為に対する「謝礼」に言及した。知人男性が債権放棄する確認書に署名した後、羽賀被告から渡辺被告へ3000万円が支払われていたのだ。

検察官「羽賀被告の自宅から見つかった『3000 ジロー お礼』のメモは羽賀被告が渡辺被告に支払った際のもので、羽賀被告の妻が書き留めたもの」

 さらに3000万円の趣旨について、羽賀被告らの反論に信用性がないことを説明する。

検察官「羽賀被告は『(メモのお礼は)妻にお礼にお菓子を贈るよう指示したことかもしれない』と言い、妻も同様の趣旨のことを言っているが、府警の捜査員からの任意の事情聴取で繰り返し聴くと『わかりません。忘れました』と証言し、メモの記載がお礼のお菓子の趣旨でないのは明らかで、3000万円は渡辺被告への謝礼とみるべきである」

 羽賀被告は上向き加減でため息をつくようなしぐさを見せた。羽賀被告はこれまでの公判で、3000万円は渡辺被告から借りていた金の返済だと主張している。検察官はその主張への反論を始めた。

検察官「当時、羽賀被告が渡辺被告に3000万円を借りる理由はなかった。メモにも融資を受けた返済などという記載は一切無く、2人の弁解は信用できない」

 検察官は被害者である知人男性の証言内容を最大の根拠に据え、羽賀被告の詐欺の弁解に信用性がないことを断罪していく。

検察官「知人男性が未公開株を羽賀被告の購入価格の3倍にあたる120万円でも買うと言ったので売却したと言うが、知人男性の証言と真っ向から矛盾している。知人男性の証言を凌駕(りょうが)する有効なものではない。なぜ3倍でも買うのか理由の説明がない。例えば120万円より安く買う方法も考えられるはずだが、120万円で買いたいと言ったと言うばかりで、具体的なやりとりを説明していない」

 論告は詐欺をめぐる羽賀被告の供述の信用性に言及する。検察官は株売買の契約書類に記載された手数料の支払い状況などを挙げ、こうした客観的な証拠と被告側の主張に整合しない点があると主張した。

検察官「羽賀被告の供述は、信用できる被害者の男性証言と矛盾するどころか、支払い方法や契約書類の記載など客観的な事実とも符号せず、不自然である」

 検察官の方を見て、うなずいたり首をひねるなど熱心に論告を聞く渡辺被告。一方、開廷から間もなく1時間半となり、羽賀被告はじっと斜め前を見つめたまま動かない。自らの主張を否定し「信用できない」と断じる検察官の論告に、表情には虚脱感さえ漂う。

検察官「両被告の供述に信用性はない。公訴事実記載の各犯行についてはいずれも合理的な疑いを入れるものではないと思量する」

 論告はいよいよ情状に移った。事件の動機について、羽賀被告自身が否認しているため「明らかでない」としたうえで、口座の入出金状況の記録から金銭目的の犯行であることは明確だとし、非難の言葉を続ける。

検察官「自己中心的な動機に酌量の余地はない。男性は羽賀被告のスポンサーでタニマチ的な存在だった。よもやだまされることなどないだろうという男性の信用を逆手に取っており、悪質である」

「被害額は3億7000万円と高値で、被告が得た利得も極めて大きい。被害者自身が税金を支払うことが困難となるなど、虎の子の現金をだまし取られたという意味でも重大である」

 断罪の言葉が続く。高額な金融商品を購入するに当たって、事前に専門家に相談するなどリスク回避が甘かったのではないか−というこれまでの弁護側の指摘に対しても、検察官は厳しく反論した。

検察官「男性が株を購入したのは羽賀被告を信用したからこそ。それを裏切った羽賀被告が、注意しなかった男性の落ち度を責めるのは筋違いである」

 羽賀被告はじっと視線を落としたまま動かない。

⇒(8)足を投げ出し硬い表情で求刑を聞く被告 弁護側は無罪主張