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(17)「このワラシ、橋の上さ乗っけて押してやれば、どうなるべ」

20分ほど休廷。この間、法廷に長さ約2・5メートル、高さ約1・2メートルの欄干(ガードレール)の模型が登場した。

検察官「ちょっと前のところを確認します。彩香ちゃんに、家で相当しつこく駄々をこねられて腹を立てた?」

鈴香被告「イライラはしていた」

検察官「実際魚を見たいと言われる前にも、台所でまとわりつかれた?」

鈴香被告「はい」

検察官「そのころからイライラしていた?」

鈴香被告「いえ。もっと後になって。見たい見たいと連続して言うようになる前は…」

裁判長「さっきは台所でイライラとも言っているが」

鈴香被告「全然なかったというわけでなく、なんでこんなにべったりくっついてくるんだろうと」

裁判長「それぐらいの気持ち?」

鈴香被告「はい」

検察官「寝ていたんだよね。うるさくなかった?」

鈴香被告「全然」

検察官「テレビを消して、と注意しないのか?」

鈴香被告「テレビをつけっ放しにすることは、うちではよくあることだったので」

検察官「橋に行くときはイライラした感情を持っていた?」

鈴香被告「はい」

検察官「橋に来てからも、帰ろうとか、また連れてきてあげるとか、見えないとか言ってもきかなかった?」

鈴香被告「はい」

検察官「イライラは募った?」

鈴香被告「徐々に強まっていった」

検察官「大事なので、もう1回聞きます。『何か頭の中に浮かんだ』というのはどんなことか?」

鈴香被告「『このワラシ、橋の上さ乗っけて押してやればどうなるべ』と」

検察官「けっこう長くダダをこねたようだが、どのぐらいの時間か?」

鈴香被告「ほとんどずっと」

検察官「だから時間を。5分とか10分とか…」

鈴香被告「(約15秒の沈黙を経て)5分ほどかかったと思う」

検察官「5分に近いけど、少し短いくらい?」

鈴香被告「はい」

検察官「その間、あなたが欄干の上に乗せて押したらどうなるんだろうと思ったとき、彩香はどうしていた?」

鈴香被告「またしゃがみ込んで、橋の、というか、川の斜め前方を見るような格好をしていた」

検察官「暗くて見えないと分かってもダダをこねた?」

鈴香被告「はい」

検察官「さっき、彩香ちゃんが怖いと思ったという話をした。怖いという感情は、そのときあなたの胸にあったか?」

鈴香被告「イライラしている最中のこと?」

検察官「そう」

鈴香被告「なかったと思う」

検察官「どの辺りで怖いと思った?」

鈴香被告「抱きつくような仕草をしたとき」

検察官「その前は思っていない?」

鈴香被告「はい」

検察官「『押したらどうなる』とまで思っているのに、そこまで考えてなかった?」

鈴香被告「実際にしようとは思ってなかったので…」

検察官「『押したらどうなるべ』ということは、結果を考えるのでは?」

鈴香被告「結果まで考えなかった」

検察官「それから?」

鈴香被告「『そんなに言うなら上ってみれば』と言った」

検察官「どうなると思った?」

鈴香被告「私を怖がって『じゃあ帰る』と言うと思った」

検察官「きつい口調で『帰るよ』とか『何やってるの』と怒るだけで十分では?」

鈴香被告「…」

検察官「『上れば』と言う方がより怖がると思った?」

鈴香被告「はい」

検察官「なぜ?」

鈴香被告「高いから」

検察官「高いだけか?」

鈴香被告「高いからとしか…」

検察官「川があるし、橋から落ちたら大変なことになる。だからではないのか?」

鈴香被告「そこまでは考えていなかった」

検察官「普通は、落ちたら死ぬ。それなら分かるが、高いところに上らせれば怖がる。それだけか?」

鈴香被告「まさか上ると思っていなかった」

検察官「いや、なぜ、『まさか』なのか?」

鈴香被告「私の口調が厳しいのと、橋の上に上ること自体怖いから」

検察官「普通なら、落ちたら大変だから怖いのでは?」

鈴香被告「…」

裁判長「答なしということで…」

検察官「なぜ上らないなら帰るのか?」

鈴香被告「…」

裁判長「答えられないんだね」

鈴香被告「はい」

裁判長「答えられないという問いに『はい』と答えた?」

鈴香被告「はい」

検察官「帰るのを嫌がっている子に、『上らないなら帰る』という必要があるのか?」

鈴香被告「…」

検察官「帰らせようというよりは、上らせようとしているように聞こえるが」

鈴香被告「私としては、帰らせようとしているつもり」

検察官「そしたら全然違う行動を取った。彩香ちゃんが上ってびっくりしたのでは?」

鈴香被告「びっくりした」

検察官「止めようとは?」

鈴香被告「その前に『お母さん押さえてて』と言われ、どうしようと思っているうちにどんどん上ってしまったという感じ」

⇒(18)法廷の被告“異変”裁判長「あなた、泣いているんですか?」