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(2)顔覆う豪憲くんの母 裁判長、殺意は認めるが…

無期懲役の判決が読み上げられた後、一瞬騒然とした法廷内だが、まもなく静寂が戻った。藤井俊郎裁判長は、続けて、犯行に至る経緯を読み上げる。

豪憲君の母、真智子さんは、ハンカチで顔を覆った。父、勝弘さんは、悲しみを抑えるように、表情を固めたまま藤井裁判長の方を向き、耳を傾ける。

藤井裁判長はまず、鈴香被告の経歴などを読み上げた後、鈴香被告が彩香ちゃんに対して疎ましさを抱いていたことを認めた。これは、検察側の主張通りの内容だ。

裁判長「体に触れられることに強い嫌悪感を持っていた」

「苦手意識を持っていた」

「5歳になるころまでは、自ら彩香に話しかけることもほとんどなかった」

さらに、彩香ちゃんに対する養育態度が続く。

裁判長「かわいいと思えなかった」

「1人で買い置きの食事を取らせて登校させたり、汚れた服を続けて着せたり、風呂に十分入れなかったりした」

「男性が自宅を訪れると、彩香を追い出したりしていた」

「ストレスのはけ口として、しばしば彩香を怒鳴りつけたりした」

これらの状況は、証人尋問で周辺住民が証言した通りの内容だ。鈴香被告は被告人質問でこうした証言を否定、彩香ちゃんをかわいがっていたと話したが、裁判所は周辺住民の証言を重視したといえる。

そして、彩香ちゃん事件への犯行の経緯に移る。

裁判長「彩香ちゃんが川で魚を見たいと言いだし、駄々をこね続けたことから、イライラしながら車で大沢橋まで行き、橋の欄干から川面を見せた」

「普段は聞きわけのよい彩香ちゃんが、なぜか言うことを聞かずイライラした感情が高まった」

そして殺意が芽生えたという藤井裁判長。

裁判長「『橋の欄干の上にのせて背中を押せば、彩香ちゃんが目の前から消えてくれるのではないか』などと考え、『川に落下していなくなればいい』と思いながら、欄干の上に乗せた」

「彩香ちゃんが被告人に抱きつこうとした瞬間、とっさに、殺意を持って左手で払うように押し返し、落下させた」

藤井裁判長は、鈴香被告の殺意を認めた。

続いて豪憲君事件の経緯に移る。藤井裁判長は、犯行後、鈴香被告が大変なことをしてしまったとして後悔していたという。

裁判長「自分のやったことが信じられない、信じたくないという強い思いにとらわれ始め、その記憶を抑圧しようとした」

「母親が、『彩香ちゃんは1人で川に行く子ではない』と言っている姿をみて、事故ではなく事件と思いこむようになった」

判決は、弁護側の、「犯行後、当時の記憶がなくなっていた」とする主張を退けた。

そして、地域の人にも疎んじられ、疎外感を抱える鈴香被告は、小学校の運動会などで元気な子供たちの姿を見るなどして、嫉妬(しっと)心や切なさを感じ、あらためて事件解決を促そうと子供をさらうことを計画したという。

読み上げは、米山豪憲君事件当日に移った。

裁判長「帰宅途中の豪憲君が歩いてくるのが目に入り、一緒に遊ぶとき使っていたおもちゃをあげようと自宅玄関に招き入れた」

「豪憲君を見ているうち、彩香ちゃんはいないのに、豪憲君はなんでこんなに元気なのかといったせつなさや嫉妬心などの気持ちと、彩香ちゃんの死が事件であるとの主張に目を向けさせる絶好の機会として、とっさに殺害しようとした」

藤井裁判長は、豪憲君に対する殺意の芽生えは豪憲君を招き入れた後だったと認定した。

⇒(3)「母親の行動として理解できない」彩香ちゃん突き落とし