(1)証人出廷した母の前で涙…「共犯の女性を愛していた」「漫画からアイデア得た」
大阪市営地下鉄の電車内で今年2月、会社員の男性が痴漢にでっち上げられた事件の公判で3日、虚偽告訴などの罪に問われた元甲南大生、蒔田文幸被告(24)に対する被告人質問が行われた。共犯の女(31)には8月、懲役3年、執行猶予5年の判決が言い渡され、すでに確定している。女の判決で「主犯」と認定された蒔田被告は法廷で涙を流して謝罪したが、女の供述とは多少食い違う場面も。果たして真相は…。
午前10時、開廷。蒔田被告はこれまでの公判と同様に、頭は丸刈り、上下黒のスーツ、白のワイシャツ、裸足にスリッパという格好で法廷に現れた。弁護人席の前に刑務官2人とともに座る。この日も傍聴席には、痴漢にでっち上げられた被害者の男性の姿が見える。
被告人質問に先立ち、母親が情状証人として出廷した。最初は気丈な様子で、事件について「情けない。こんな悪いことをできる子じゃないと思っていたので驚きました」と語り、事件の原因については「教育面ばかり気を取られて、精神面、生活面に気を配れなかったと思います」と話した母親。
「(社会復帰後は)まじめに働くようにできる限り注意していこうと思います」と、次第に涙をこらえながら話す母親の前で、終始うつむいていた蒔田被告も涙ぐむ。証人尋問が終わると被告人質問が始まった。
弁護人「今回の事件であなたが罪に問われている事件のうち、共犯者の女性と一緒にした事件が3つあるわけですが、あなたが女性と知り合ったのはいつですか」
蒔田被告「1月の終わりぐらいに知り合いました」
弁護人は共犯の女と知り合った経緯について尋ねていく。女は当時、水商売のアルバイトをしていたという。
弁護人「女性の仕事について、あなたから何か言いましたか」
蒔田被告「やめてくれと言いました」
弁護人「なぜですか」
蒔田被告「彼女を愛していたからです」
弁護人「女性に恋愛感情があったということですか」
蒔田被告「はい」
法廷中央の証言席に背筋を伸ばして座る蒔田被告。目線をやや落としながら、弁護人の質問にはっきりとした口調で答えていく。
弁護人「仕事をやめてほしいということについて、女性は何と言いましたか」
蒔田被告「『私がやめたらお金はどうするの』と」
弁護人「お金というのは」
蒔田被告「彼女のマンションの家賃や生活費のことです」
弁護人「彼女の家賃はどれくらいだったんですか」
蒔田被告「13万円ぐらい」
弁護人「彼女のマンションは大阪市内の中心地に近いところですね。結局、仕事をやめたんですか」
蒔田被告「やめたと思います」
弁護人「今回、一連の犯行の動機として、女性から『生活費や家賃についてどうするの』と言われたことが原因になったということはあるんですか」
蒔田被告「はい」
弁護人「彼女には自殺願望があって、『死ぬまでに100万円稼いで親に払いたい』と供述しているんですが、そういうことを聞いたことありますか」
蒔田被告「ありません」
弁護人「ではどうして、女性はそういう仕事に就いていたと思いますか」
蒔田被告「家賃と、ホスト通いをしてたので…。お金遣いが荒かったので」
弁護人「女性はどれくらい稼いでいましたか」
蒔田被告「1日に3万5000円なので、(月に)100万円ぐらい稼いでいたと思います」
弁護人「あなたと女性の間で一連の犯行で得られたお金を折半するという約束はあったのですか」
蒔田被告「はい」
弁護人「それを持ちかけたのはどちらですか」
蒔田被告「2人で話し合いました」
弁護人「女性が折半を断ったことはありますか」
蒔田被告「ありません」
弁護人「では、虚偽告訴(痴漢でっち上げ)事件について聞きますが、やったことは間違いないですか」
蒔田被告「はい」
弁護人「なぜこのようなことをしたんですか」
蒔田被告「2人ともお金がほしかったからです」
弁護人「この痴漢の虚偽申告に関して金銭を得られたら」
蒔田被告「分け合う予定でした」
弁護人「犯行はどちらが持ちかけたものですか」
蒔田被告「私が持ちかけました」
弁護人「アイデアはどこで得たんですか」
蒔田被告「漫画の本を読んでいて、アイデアを得ました」
弁護人「アイデアに関しては捜査段階で『女性から持ちかけられた』と述べていませんでしたか」
蒔田被告「自分の身を守るためにうそをついていました」
弁護人「今は反省して本当のことを言っているということですか」
蒔田被告「はい」
弁護人「その他のこと、今日の法廷では正直に言っていると約束できますか」
蒔田被告「はい」
共犯の女の公判供述によると、蒔田被告は『痴漢でっち上げは目撃者と被害者がいれば99・9%、100%に近い確率でお金になる。ちょろい。触られましたといえば、男性は失うものがあるから、名誉とか家庭のために金を出す。それが一番“熱い”』などと言って、痴漢でっち上げを持ちかけたとされている。
弁護人「犯行を持ちかけたとき、女性の反応は」
蒔田被告「乗り気でした」
弁護人「特に反対はしなかったのか」
蒔田被告「はい」
犯行を持ちかけられたときの状況について、女は「やりたくなかった」と公判で供述しており、蒔田被告の話す内容と食い違う。
弁護人「平成20年2月1日が犯行日ですが、この日に実行することは前もって決まっていたのですか」
蒔田被告「いえ、彼女が鬱(うつ)の薬を飲んでいたので、起きれた日にやろうと。薬で朝、起きれないことが多かったので」
弁護人「起きれた日が2月1日だったと」
蒔田被告「はい」