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(3)女性の死亡報道で芸能人、銀座ホステス、薬…とつながり 知人「やられたと思った」

合成麻薬MDMAを飲んで容体が急変した飲食店従業員、田中香織さん=当時(30)=を放置して死亡させたとして、保護責任者遺棄致死など4つの罪に問われた元俳優、押尾学被告(32)の裁判員裁判第2回公判が開かれている。

検察側が請求した田中さんの知人で、芸能プロダクション社長の男性が証人として出廷している。田中さんを妹のようにかわいがっていたという証人に、事件当時の様子を女性検察官が引き続き質問している。

検察官「田中さんの死亡はどうやって知りましたか」

証人「私が外で仕事していたところ、◇◇(法廷では実名)から電話がありまして、あ、違うか店の従業員から電話がありました」

弁護側請求の証拠によると、◇◇さんは指定暴力団稲川会系組長。

検察官「死んだ理由は分かりましたか」

証人「いえ、『アゲハが亡くなりました。自分も分からない』と。『分かったら電話します』といって電話を切りました」

検察官「アゲハは源氏名ですか」

証人「はい」

妹のようにかわいがっていた田中さんの死亡。従業員からの『テレビを見てください』という電話で、テレビをつけた証人は、押尾被告に関する報道で田中さんの死亡理由を知った。

検察官「すぐにテレビを見ましたか」

証人「ええ。押尾被告が、銀座のホステスと薬を飲んで、(ホステスが)薬を飲んで亡くなったという報道でした」

「見た瞬間、24日のシーンが頭をオーバーラップしました」

検察官「24日とは何月のですか」

証人「7月24日です」

検察官「どのようなこととつながりましたか」

証人「芸能人ということ、銀座ホステスということ、薬ということです。あ、これだ、やられたと思いました」

交際相手にセックスの際、違法薬物を飲まされている、という話を田中さんから聞いていた証人。

検察官「やられた、というのはどういう意味ですか」

証人「やっぱりぼくは、(薬を)飲まされたと聞いていたので」

検察官「押尾被告に田中さんが薬を飲まされたということですね」

証人「はい」

検察官「あなたにとって妹のような立場の田中さんが亡くなりました。この事件についてどう思っていますか」

証人「まあ、とにかく、彼(押尾被告)と会うのは初めてですが、まだ、彼女の墓参りもしていません。自分の中で何が真実か見守ってから墓参りに行こうと思っています」

押尾被告は、ボールペンを右手で握っているものの、メモを取る様子もない。口を小さく動かし、少し落ちつきのない様子で証言を聞いている。

引き続き、弁護側の質問に移った。男性弁護人が立ち上がり質問を始めた。

弁護人「警察の事情聴取は何回受けましたか」

証人「3回くらいです」

弁護人「検察庁の事情聴取は何回受けましたか」

証人「まあ、そのくらいです」

弁護人「警察の聴取で、間違いないと署名、押印した調書は何通ありますか」

証人「6通くらいです」

弁護人「検察庁で署名押印した供述調書は何通ありますか」

証人「数えてはいませんが、そんなに膨大ではなかったです」

弁護人「昨年の7月24日、八王子で田中さんと一緒にいたんですね」

証人「はい」

7月24日から、日をまたいで25日、証人は田中さんと会っていた。

弁護人「7月25日早朝の話を聞きます。田中さんはあなたに何て言ったのですか」

証人「『変なのと付き合っている』と」

弁護人「『最近』と言っていませんでしたか」

証人「はい」

証人のほうに目をやっていた押尾被告は、弁護人に視線を移した。

弁護人「押尾さんと田中さんが付き合ったのは、平成20年12月末と言いましたよね。7月25日は男女関係に入って8カ月ごろですよ。それを『最近』という表現をしますか」

証人「はい」

質問は、証人の夢に田中さんが出てきた話に移った。夢に出てきた田中さんは証人に『そうじゃないよ、兄貴』と話していたようだ。

弁護人「夢を見たのはいつごろですか」

証人「いつごろか覚えていません。私が警察に話す前ですね」

弁護人「警察の10月14日の調書では『先週』と言っています。10月14日の『先週』でいいんですね」

証人「それは本当ですか」

証人は、夢の話をいつしたかは覚えていないようだが、弁護人は追及を続ける。

弁護人「検察庁での12月4日付の聴取では、さきほどの夢をいつ見たと検事に話していますか」

証人「記憶にないです」

弁護人「8月半ばに田中さんが夢に出てきて『そうじゃないよ、兄貴』と語ったと話しているんですよ」

弁護人の口調が次第に激しくなっていく。

証人「私が言ったのは夢のところだけ伝えたつもりなんですが」

弁護人「いったいいつ見たんですか。あなたが見た夢は、なんらかの目的を持った作り事じゃないですか」

証人「私も議論にしたくないんですが、なぜだかその日は夢の内容を鮮明に覚えていて…」

弁護人「もう長話はいいです」

弁護人は、証人の証言をさえぎった。質問は、事件の報道を見た証人が、田中さんの交際相手を押尾被告と判断した理由に移った。

弁護人「押尾学さんと判断した理由は何ですか」

証人「業界の人間かと聞いたところ、『そんなようなもの』といわれたので押尾被告は芸能人ですし。『エクスタシー(MDMA)を飲ませたがるんだよね』とも言われていたので、同じ薬だったので」

弁護人「同じ業界と聞いたのですよね。前提は芸能界だったのですか」

証人「はい」

弁護人「夜の街と解釈してもいいんじゃないですか」

証人「言葉だけだとそうかもしれませんが、自分と同じ、業界の人という前提で話したので」

ここで検察側が弁護人の質問に対し「仮定の質問を繰り返している」と異議を唱えた。裁判員の中には、法廷内のやり取りを身を乗り出すようにして聞いている人もいた。

弁護人「(交際相手の)名前は聞きましたか」

証人「(聞いたら)にごしました」

弁護人「なぜ、きつく聞かなかったのですか」

証人「そういわれると、まさか死ぬとは思わなかったので…」

弁護側は厳しい口調で質問を続けた。質問は、田中さんが、押尾被告と交際前から薬物を使用していた状況に移った。

⇒(4)「ヤクザです」と次々実名 被害女性と暴力団との関係強調する弁護人