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(10)攻め込む検察側、笑う鑑定人

西脇巽鑑定人の鑑定結果に、理詰めで攻め込む検察側の勢いは止まらない。鈴香被告の証言にも信用性はあると主張する鑑定人に対し、検察側はひとつひとつ疑問点をぶつける。

検察官「(彩香ちゃんを探している最中に)友人に2件電話している。彩香ちゃんの自転車があると分かっているにもかかわらず、もっと前から自分が探しているということを言うためではないか?」

鑑定人「隠蔽(いんぺい)工作はいろいろやっていたと思う。それは否定しない」

検察官「(彩香ちゃんを橋の上から)払ったのかどうかは別にして、自分が手にかけたということを少なくともこの段階では覚えていないと?」

話が流れ出したとき、鑑定人の理解をスムーズにしようとして藤井俊郎裁判長が補足説明を促した。

裁判長「『この』ってのは、家に帰ってあちこち電話して、ってことですか」

うなずく検察側。

鑑定人「私は被告人が彩香ちゃんを殺害したと思っている。それを無意識の世界に押し込めてしまったと。無意識のうちに行動することがある」

検察官「無意識の中で探したり行動できることが…」

鑑定人「あり得ます」

検察官「先生には(被告人が)正直に話しているのが前提ですが、捜査段階では、警察の人がおかしなことをしたんだとか(警察官、検察官に)反発している」

鑑定人「よく分からないが、7月6日、最初に告白したシーン、そのころの調書は信憑(しんぴょう)性があると思う」

鈴香被告は、前方を表情を変えずに見つめている。

検察官「(鈴香被告)本人はそのころも『(調書の内容について)自分が言っているわけじゃない』と言っているが」

鑑定人「自分が殺害したことを認めたくないという気持ちが出てきたのではないか。殺害理由を認めたくないという気持ちで検察官に反発したのだと思う」

検察官「でも、最後の方で反発している以外、反発は認められなかった。橋の上に(彩香ちゃんを)座らせて、手を滑らせるなんて普通は考えられないこと。橋の上に立たせること自体が常識では考えられないのだから。警察がそんな風に言って(鈴香被告の供述を)誘導すると信じられるか」

鑑定人「最初のころは、本当のことを言っていたと思う。正直でない部分もあると思うが、私から言わせると、ウソをつくのが下手というか…。バカ正直というか。つこうと思っても通じるようなウソはつけない」

と言いながら自分で笑いを殺せず、失笑をもらす。検察官は繰り返し丁寧に質問し、その意図を分かってもらおうと続ける。

検察官「(鈴香被告は彩香ちゃんは橋から落ちてしまって死んだと主張し)『過失だ』と言い続けているが、それも『バカ正直』といえるのか」

鑑定人「いや、バカ正直な部分もある」

検察官「元恋人らが犯人だと言ったこともある」

鑑定人「苦し紛れのウソだと思う」

検察官「一方で巧妙なウソもある」

鑑定人「いろんなウソが混じってたということですね、分かりました」

⇒(11)裁判長も一言「被告人を信用できる理由は何?」