(16)「私も母親も人殺しの家族」

被告の弟であり、被害者の彩香ちゃんの叔父でもある証人。弁護側は、鈴香被告への率直な感情に切り込んでいく。
弁護人「遺族として鈴香被告に対してどう思うか?」
証人「彩香が転落したときに、記憶がなかったにせよ何にせよ、助けようとしていれば彩香は生きていたかもしれない。そういう行動を取れなかったことを残念に思う」
弁護人「でも本当に事件を忘れていたのなら、そういう行動は取れないよね?」
証人「はい」
弁護人「遺族として処罰感情は?」
証人「彩香に関しては、故意なのか故意じゃないのか私にはわからないので、そういうの(処罰感情)はわからない」
続いて弁護側は豪憲君殺害事件について、「被告の家族」としての思いを聞いていく。弟とわずか1メートルも離れていない場所に座っている鈴香被告は、終始伏し目がち。表情ひとつ変えないその心に、弟の言葉は届いているのか。
弁護人「犯人の身内として、どういう思いでいるか?」
証人「姉のしたことによって、大事なお子さんが失われてしまい、謝罪のしようもないほど申し訳なく思っている。まだ謝罪できていないが…」
弁護人「米山さんと接触を取ろうとは?」
証人「昨年12月、姉の住んでいた住宅から荷物を撤去することになり、豪憲君に手を合わせて謝りたいと連絡した」
弁護人「米山さんはなんと?」
証人「来ないでくださいといわれた」
弁護人「そういう対応をされたことをどう思うか?」
証人「やはり自分の子供を殺した人間の家族に会うのは腹立たしい。断られても仕方ないと思った」
弁護側は、鈴香被告が公判で「極刑を望む」と述べたことについて、弟の気持ちを尋ねた。弟の答えは、最初に証言した母親と同じものだった。
証人「腹が立った。自分が犯した罪を償おうとしないで、死ねば誰にも責められない、だから楽になると考えているとしか思えなかった」
弁護人「(極刑は)償い方のひとつだと思うが、逃げているようにしか思えなかった?」
証人「はい」
弁護人「どうやって償うべきだと思うか?」
証人「例え極刑になってもそれ以外でも、自分から死を望むのは間違っていると思うし、きちんと自分で罪を償う気持ちになってほしい」
弁護人「姉を待ち続ける気持ちに変わりはないか?」
証人「はい」
最後に弁護側は、鈴香被告の今後について、弟の気持ちを聞いた。
弁護人「社会復帰をすることがあったら、どう償うべきだと思うか?」
証人「ちょっと今はそこまでは考えられない」
弁護人「鈴香被告が自分の罪から逃げようとしたら?」
証人「怒ると思うし、自分の手が届く距離にいるのであれば、強引にそちらの(償う)方を向くようにさせる」
弁護人「あなたは所帯を持とうという気持ちはあるか?」
証人「いえ。今はない」
弁護人「なぜ?」
証人「やはり私も母親も、人殺しの家族であるということで、周りからいろいろ言われている。所帯を持つということは好きな人ができるということで、好きな人に同じ思いをさせたいとは思わないので」
弁護人「姉を待つため、将来を犠牲にする覚悟なのか?」
証人「はい」
弁護人「あなた個人は鈴香被告にどのような刑を望むか?」
証人「…生きていてほしいとかは考えたことがない。答えようがない」
弁護人「生きていてほしいとは思わないか。米山さんへの遠慮はあると思うが」
証人「極刑が出たとしても、それはそれで受け入れてほしいと思っていたので、生きていてほしいとかは考えたことがない」
伏し目がちだった鈴香被告は、最後は目をつむったまま弟の声を聞いていた。午後4時25分、弟に対する弁護側の証人尋問は終わった。