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加藤被告、死刑求刑にも無表情

 その瞬間も、加藤智大被告(28)は無表情だった。「命をもって償うのが相当。死刑に処すしかない」−。25日午後3時36分。検察官の結びの言葉が法廷内に強く響いた。数回まばたきした被告は、うつむき、身じろぎもせず、淡々とした様子。一方、閉廷後には、傍聴した被害者たちから「本当に反省しているのか」と憤りの声が上がった。

 午後1時半。東京地裁で98人が傍聴できる最も広い104号法廷。職員に導かれて入廷した被告に、ほぼ満席に埋まった法廷の視線が集まった。

 12月の公判では短かった髪は、すっかり伸びて、ぼさぼさに。これまでの27回の公判と同様に、白のワイシャツ、上下の黒のスーツ。被害者遺族が座る特別傍聴席に向かって頭を深々と下げ、弁護人席前の長いすの中央に腰を下ろした。

 「では、検察官の意見を申し述べます」。検察官はゆっくりとした声で、要旨を読み上げていく。人々がトラックではねとばされていく様子、泣き叫ぶ被害者の声、あちこちにできていく血だまり−。約2年7カ月前の「歩行者天国を一瞬にして地獄に」変えていった様子が再現されていく。時折、検察官の声のトーンが上がった。対する被告は、目の前のノートを開き、ボールペンで細かに何かをメモしていった。

 被告の様子が変わったのは、検察側が被害者遺族らの処罰感情に触れたときだっだ。

 「私の手で逆に殺してやりたい」「苦しんで、苦しんで死んでほしい」「死ぬ前に、一つでもいいからいいことをしてほしい」

 被告はペンを手にすることもなく、ノートを開きっぱなしにしたまま、じっと聞き入っていたが、次第に落ち着きを失った。頭をかきむしり、眼鏡をしきりに直し、目元を触り…。そして、何度か鼻をぎゅっとつまんだ。何かの感情を抑え込もうとするしぐさにも見えた。

 検察官は、被告が遺族らに出した謝罪の手紙の内容を引用。各遺族・被害者の精神的苦痛を「私の唯一の居場所であったネット掲示板において、私が荒らし行為によってその存在を殺されてしまった時に感じたような、われを忘れるような怒りがそれに近いと思います」と評したことに、「極めて身勝手で反省の気持ちが感じられないもの」と厳しく指摘した。

 午後3時38分、論告求刑は終了した。「それでは、被告人」。村山浩昭裁判長に呼ばれ、すくっと立ち上がった被告。「次回公判は2月9日。この事件で最後にあなた自身が述べる機会がある。もし述べることがあったら、自分なりに整理し、まとめてきてもいいのではないですか」。裁判長の呼び掛けに、ゆっくりとうなずいた被告は、特別傍聴席に向かって一礼し、足早に法廷を後にした。

 次回公判は、被告が自身の口から語る最後の機会。初公判で被告は「せめてもの償いは、どうして事件を起こしてしまったかを明らかにすることです」と語っていたのだが…。

 ナイフで刺され重傷を負った元タクシー運転手湯浅洋さんは、この日も公判を傍聴。なぜ事件を起こしたのか、約1年という長い裁判を通じても、被告から納得できる答えが得られない怒りを抑えながら、こう答えた。

 「真相も分からないまま裁判が終わってしまっていいのだろうか。このまま終わったら、時間の無駄になる」

⇒論告求刑全文