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(7)「顔が普通以下では彼女ができない」 自らの書き込みを解説

元派遣社員、加藤智大(ともひろ)被告(27)が派遣先の静岡県内の自動車工場で働いていたころ、同僚とカート遊びに行った話について、男性弁護人が聞いていく。カートの後は焼き肉を食べ、カラオケにも行ったという。

弁護人「カラオケではどんな感じでしたか」

加藤被告「持ちネタというか、おもしろがらせる歌をあえて歌うような感じでした」

弁護人「みんなの反応はどうでした?」

加藤被告「すべったのもあるし、笑ってもらったのもありました」

工場で派遣切りされた話へと質問が移る。

弁護人「静岡の工場で働いて、ほかにどのようなことがありましたか」

加藤被告「平成20年5月末に、6月末で派遣契約を解約すると通知されました」

弁護人「予想はしていましたか」

加藤被告「突然のことでした」

弁護人「今後について会社からはどのように言われましたか」

加藤被告「会社としても初めてのことで、ほかの工場を紹介するということでした」

加藤被告は正面を見据え、表情を変えずに淡々と述べていく。

弁護人「あなたはどうしましたか」

加藤被告「派遣切りの話が出た日に、次に行く工場を決めました」

弁護人「なぜその工場に決めたのですか」

加藤被告「工場の人間関係が良かったので彼らとの関係を続けたかったのと、近くの工場だったのもあって決めました」

弁護人「派遣切りで、工場と書面のやりとりはしましたか」

加藤被告「工場の偉い人に呼ばれ、(契約は終わるが)最後まできちんとやるようにというものに署名させられました」

弁護人「させられたという表現を使っているが、自発的に署名したのではない?」

加藤被告「そうではなく、させられました」

弁護人「どう思いましたか」

加藤被告「最後までやるつもりだったのに、信用されていないというか、見くびられているような対応をされ不愉快でした」

弁護人は、加藤被告が静岡の工場に派遣されていた当時の掲示板の利用状況に話題を移した。加藤被告が使っていた「キュウカイ」という掲示板への書き込みについて尋ねていく。

弁護人「書き込んでいた内容は?」

加藤被告「相も変わらず、雑談やネタを書いていました」

弁護人「書き込みの仕方はどのように変わっていきましたか」

加藤被告「このころ、掲示板に教会の牧師のように説教をする人が現れました。それを利用して、世の中のブサイクを幸せに導くという教会の牧師をイメージした書き込みをしました」

裁判官や弁護人、検察官の手元にあるモニターには書き込み内容が分かる資料が映し出されているが、傍聴席からは見ることができない。弁護人は加藤被告の隣に立ち、書き込みの内容について聞いていく。村山浩昭裁判長は口元にハンカチをあてながら、じっとモニターを見つめている。弁護人は特定の書き込みについて、加藤被告に尋ねた。

弁護人「書き込んである内容を説明してください」

加藤被告「要するに、顔が普通以下の男性には彼女ができないということです」

弁護人「『報われない努力は人の心をむしばみます。生き方を変えれば穏やかに幸せに生きられます』。これはあなたの書き込みですか」

加藤被告「はい」

弁護人は加藤被告の別の書き込みも読み上げた。

弁護人「『逆上がりは努力でできるようになるが、彼女は努力してもできない。顔の見かけが平均以下の人は彼女はできない。彼女を作る努力より、ほかのことをしたほうがいい』。本気で考えていたのですか」

加藤被告「そうではありません。あくまでネタです」

弁護人「『これこそ真理だ。あなたをたたえます』そういう(加藤被告の書き込みを見た人からの)書き込みがありますが?」

加藤被告「本当にそんなことを思っているのではなく、私のネタにネタをかぶせて返してきている。その程度のものです」

加藤被告は独特の言い回しで、自らの書き込みに対するレスについて説明する。聞き終わると弁護人は元の場所に戻った。

弁護人「書き込みの内容はその後どうなっていきましたか」

加藤被告「なんでもかんでもブサイクにこじつけるように変わっていきました」

弁護人「自分が見かけのことで悩んでいたのですか?」

加藤被告「そうではないです」

弁護人「ブサイクを話題にしていたのはなぜ?」

加藤被告「ブサイクというキーワードは掲示板上で興味を引きやすい、話題になりやすい単語。そうしたものを出すことで、ネタを評価していくというか、そういう要素からです」

裁判長は加藤被告に弁護人の前の席に戻るよう促し、休廷することを告げた。加藤被告は傍聴席に一礼し、退廷した。約1時間半の休憩をはさみ、午後1時半から引き続き被告人質問が行われる。

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