Free Space

(4)勇貴被告は「殺害時は判断能力あり」「損壊時は責任能力なし」

武藤勇貴被告の犯行当時の精神状態について、弁護人から牛島定信鑑定人への質問が続く。

弁護人「解離性障害について説明を」

鑑定医「軽度なものだと、日常生活の中でもうろうとした状態のこと。ちゃんと判断できるし、用事もまじめにできるのだが、後になって思い返すとどうやってやったのか分からないと。こういう状態も指す。ひどくなると、自分のことがまったく分からない状態。『私は誰なの?』という感じ」

弁護人「解離性同一性障害は解離性障害の一つ?」

鑑定医「その通り」

弁護人「勇貴被告は解離性障害?」

鑑定医「本人の陳述からそのように判断した」

弁護人「では勇貴被告は解離性同一性障害?」

鑑定医「推測、仮説の段階だがそうだ」

弁護人「潔癖症の勇貴被告が遺体を解体したり洗ったりと、他の人ならとうていできないことをしたことが判断の理由か?」

鑑定医「そういうこと。ほかに説明しようがない」

弁護人「では解離性同一性障害を証明するには?」

鑑定医「信頼関係を築くことが必要。長い時間を要するだろう」

弁護人「鑑定書には勇貴被告が別人のようになったとのくだりがあるが」

鑑定医「アスペルガー障害の解離性障害は、小中学校のころにタイムスリップしたような感覚になることと、もうひとつは自分が空想の中に入り込んで現実と空想の区別がつかなくなることがある。アスペルガー障害に基づく解離性障害はわが国でもそんなにあるわけではないので、慎重に判断しなければならないが」

弁護人「(勇貴被告の症状は)アスペルガー障害と解離性障害が総合したものというのが鑑定人の見解か」

鑑定医「そうだ」

この後、核心となる責任能力についての話題に入った。

弁護人「勇貴被告はまったくもって責任能力を欠いていたわけではないが、減退していたというのなら、それはどの程度?」

鑑定医「鑑定書には殺害時と(遺体)損壊時で責任能力が違うと書いたのを訂正する。損壊時は責任のない状態だった。殺害時に関しては、抑圧され、自我をなくしていたことはあっても、ある程度の判断能力はあった」

弁護人「この事件が発生した原因は何と考える?」

鑑定医「推測の域を出ないが、勇貴被告個人だけでは説明はつかない」

弁護人「というと?」

鑑定医「被害者側にも原因があり、どう検討してもそういう判断しかできない。犯行性、犯情性を考えると、(勇貴被告は被害者に)ずっと怒っている」

「(被害者は)子供のころからいろんなトラブルを抱え、いろんなことで周囲を引っかき回してきた。親は社会的にまっとうになるよう育てていたのだろうが、非常に不幸なのは本人たちが持っている病的な面に気づかなかったことだ。私は家族の持っている限界がきたのだと考えている」

勇貴被告の妹殺害時の責任能力を認めながらも、事件の原因は妹の言動や家族にもあると主張する牛島鑑定人。勇貴被告は一貫して腕をピンと伸ばしてひざの上にこぶしを置き、目を閉じたままだった。

⇒(5)髪をそり落とし、遺体切断は「別人格の出現」