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(4)「貞操害されず」「終生、贖罪を」…声裏返る裁判長

公判で「死刑にしてほしい」と自ら述べていた星島貴徳被告。平出喜一裁判長は、過去の判例の面から量刑の理由を説明している。

根拠としているのは、昭和58年の『永山事件』の最高裁判決だ。死刑を検討するにあたっては、犯行の罪質▽動機▽残忍性▽被害者の数▽被害感情▽社会的影響▽被告の年齢▽前科▽情状などを併せて判断する必要性を説き、特に殺害方法の執拗(しつよう)性、残虐性が重要であるとして、こう結論づけた。

裁判長「死体遺棄や死体損壊については悪質な事案といえるものの、殺害行為は執拗なものではなく、残虐極まりないということはできない」

「死刑を選択するかどうかの場面において、このような事情から、被告人の刑事責任を重くするものと評価できない」

星島被告は首を45度くらい傾け、じっと下を見つめたまま、裁判長の説明に聞き入る。裁判長は極刑を回避した説明を続けていく。

続いて判決は、強姦を行っていなかった点についてのくだりに移る。星島被告は瑠理香さんを自室に引き込んだ際、額にけがをさせたことに動揺し、マットの上に寝かせたとされる。

裁判長「アダルトビデオをみて陰茎を勃起させるように試みたりするなど逡巡(しゅんじゅん)したが、結局、目的の強姦はおろか、わいせつ行為にすら至らなかった」

検察官は、わいせつ行為をしなかったのは、勃起する前に警察の捜査が開始されたためで、刑の重さを決める際に、わいせつ行為がなかった点を有利になる材料とするのは適当ではないと主張していた。

裁判長「いかなる事情があるにせよ、被害者がわいせつ行為を受けるなどして性的自由や貞操が現実に害された事案と、そうでない事案とでは非難の程度におのずから差異がある」

「従って、このような事案も量刑を考えるにあたって考慮されるべき」

公判で、弁護側は星島被告があらかじめ凶器を準備することもなく、計画性がなかったと強調していた。裁判長は計画性についても言及していく。

裁判長「(連れ去ったという)住居侵入、わいせつ略取については計画性があることが認められるが、殺人、死体遺棄、死体損壊については、逮捕を免れるために被害者の存在を消してしまおうと考えたのであって、略取時点では殺害などを意図していない」

「殺害のための凶器や死体の解体のための道具も準備していたわけでもなく、事前に計画されていたとは認められない」

判決では、住居侵入とわいせつ略取には計画性があったものの、その後の殺人、死体損壊、死体遺棄には計画性がなかったとする結論となった。検察側は当初から瑠理香さんの殺害を計画していなかったとしても、東城さんを連れ去った時点で、『性奴隷』になるはずもなく、殺害は必然的なものになっていた、としていた。

裁判長「確かに『性奴隷』になるとは到底考えられず、被告人の当初の思惑は遅かれ早かれ破綻(はたん)することは避けられなかった」

「被告人は自分の生活や体面を失うと考え、短時間のうちに殺害を決意して実行しており、殺害が偶発的であったとは言い難い」

「しかし、わいせつ略取の段階から殺害して死体を解体することを計画的にした者と、そうでない者に対する非難の程度には差異があるのは当然」

裁判長は殺害や遺体をバラバラにした行為には計画性がないことと、星島被告が実際にわいせつ行為をしていなかった2点を強調した。傍聴席の遺族らは落ち着かないのか、星島被告の顔を見たり、床を見たりと視線を上下させる。その中で、裁判長は核心に触れる。

裁判長「量刑均衡の観点から量刑の傾向をも踏まえて検討した場合、本件は死刑の選択も考慮すべき事案ではあるものの、特に酌量すべき事情がない限り死刑を選択すべき事案とまでは言えない」

このひと言で、遺族から、また深いため息が漏れる。裁判長は、星島被告の逮捕後の態度などに言及し、死刑回避の判断を補足する。

星島被告は逮捕後、勾留(こうりゅう)施設で写経を続け、本棚を仏壇に見立てて手も合わせているという。

裁判長「警察官の言葉に心を動かされ、罪悪感を募らせて、自供。その後も一貫して事実を認めた」

「被害者の冥福(めいふく)を祈るなど罪を悔い、謝罪の態度を示している」

裁判長は星島被告の犯行後の態度に理解を示す幼少期に負った大やけどについても再び言及する。

裁判長「幼少時に負ったやけどのあとにコンプレックスを感じて生きてきたことは同情すべき点もみられる」

「これらは過大に強調することは適当ではないものの、死刑を選択すべきとまでは言えない以上、それ相応の意味を持つ」

極刑を回避する判断が出た星島被告に矯正の可能性はあるのだろうか? 裁判長の説明は続く。

星島被告は殺害を実行してから、躊躇(ちゅうちょ)なく解体作業に取りかかる一方、善良な住民を装って、マスコミ各社のインタビューにも答え、きちんと会社にも出勤していた。

裁判長「一連の態度からは、相応の犯罪的傾向がうかがえる。しかし、わいせつ略取(連れ去り)計画は、被告人の現実離れした妄想の産物であって、ずさん」

「わいせつ行為にすら及んでおらず、前科前歴もなく、犯罪と無関係な生活を送ってきた。犯行も自供し、被害者の冥福も祈っている」

「矯正の可能性がいまだに残されている」

裁判長は、時折、声を裏返らせながら、極刑を回避してきた理由を説明してきた。そして、裁判長は大きく息を吸い込み、最後の締めに入る。

裁判長「死刑をもって望むのは、重きにすぎる」

「したがって、被告人に対しては、無期懲役刑に処することとし、終生、生命の尊さと自己の罪責の重さを真摯(しんし)に考えさせるとともに、被害者の冥福を祈らせ、贖罪にあたることが相当と判断した」

裁判長はこう説明し『閉廷』を告げた。遺族は納得がいかないという表情で法廷を後にした。星島被告は最後まで無表情で、耳を赤らめ、うつむきながら足取り重く法廷を後にした。

⇒判決要旨(1)やけどの跡で「普通の恋愛できないと思っていた」