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(4)「自分なりに謝罪」「希望持たせれば更生の可能性も」…注目の判決は3月25日

弁護側は、引き続き事件前の鈴香被告の精神状況について述べていく。入院生活をしていた父親の世話を献身的に焼きながらも、父親からは暴力を振るわれ、ストレスを抱えていた状況を細かく説明する。

弁護人「被告はストレスを抱えていました。しかし、これらは父親に対するものであり、彩香ちゃんに対するものではありませんでした。ストレス解消のために買い物に出かけていましたが、そこには彩香ちゃんも一緒に行っていました」

彩香ちゃんにストレスをぶつけていたのではないと強調する弁護側。事件当日も、ピカチュウのおもちゃの故障を一生懸命直してあげていたと主張し、こう結論づけた。

弁護人「疎ましく思っていたのも事実です。が、(彩香ちゃんの)成長に伴い、(関係が)改善されていったのもまた、事実です」

続いて弁護側は、彩香ちゃん事件の前後の記憶をなくしたという鈴香被告の健忘について言及した。やり玉に挙がったのは、やはり捜査段階の簡易鑑定だ。「忘れようと思って忘れた」とする簡易鑑定を、恋愛を例に挙げて否定する。

弁護人「しばしば、失恋した人に、『泣いて忘れたら』といいますが、忘れたいことはなかなか忘れられません」

「(弁護側の要請で鈴香被告と面談した)中島医師は『比較的自由に記憶を出し入れできる』とする簡易鑑定に対し、『それは違うと思う』としています」

どんどん早口になっていく弁護側。さらに、被告が故意にうそをついているわけではないことを熱弁した。

弁護人「被告は、あえて言わなくてもいいこと、例えば誘拐や、不適切な養育なども述べてきました。あえて不利になることも供述しているのです。もし、虚言であるならば、自分に不利なことはいいません」

「本当に責任を免れるための虚言ならば、不利なことをしゃべらないはず。被告(の供述)には一貫性がないのです」

そして、健忘についても触れていく。非公開の証人尋問で、中島医師が発言した健忘についての見解を次々に読み上げていく弁護側。忘れたいという意識的願望だけで忘れられるものではないことを強調したうえで、実際に健忘の状況を、こう説明した。

弁護人「事件直後から核心部分の健忘が始まり、その後周辺の記憶についても健忘がはじまりました」

「少なくとも第2事件(豪憲君事件)が起きるまで、思いだすことはありませんでした」

そして、弁護側は、あらためて彩香ちゃんとの関係性について触れ、彩香ちゃんを殺害する動機がないことを強調する。

弁護人「事件当時の被告と彩香ちゃんは、家事の部分で不適切だったことはあったものの、関係性では、最も良好だったといえます。被告にとって、彩香ちゃんは必要不可欠な存在でした。不満のはけ口は、母や恋人であり、彩香ちゃんではありませんでした」

「今は(事件前に修理してあげた)ピカチュウの部分の記憶も失われていますが、故意に殺害する理由はありません」

さらに、豪憲君事件にいたる鈴香被告の心の動きを説明する。

弁護人「彩香ちゃん事件後、鈴香被告には攻撃性が表れるようになりました。人格に変容をきたしたのです」

「なぜ彩香ちゃんが死んだのか、気持ちの整理がつかないうちに、(小学校の)運動会に出席したりしました」

「被告に残されたのは、彩香ちゃんがいないという現状だけでした」

では、豪憲君を殺害した動機は何なのか。

弁護人「豪憲君殺害の動機は詳しくわかりません。しかし、相当追い込まれていたのは確かです。警察には怒りがありましたが、周辺住民やテレビなどマスコミには怒りを感じていませんでした。世間に対する怒りから犯行に及んだ、とした(1審の検察側の)主張は誤りです」

「(控訴審で)検察は自らが犯人だという疑いの目をそらすためとしているが、そもそも彩香ちゃん事件を自分がやったと自覚していません」

「彩香ちゃん事件の犯人として第三者の名前を出したのも、場当たり的な発言です」

「意味不明な言動は、場当たり的な性格からです」

そして、2つの事件についての結論を、こうまとめた。

弁護人「以上より、第1事件(彩香ちゃん事件)は過失致死、第2事件(豪憲君事件)は少なくとも心神耗弱状態でした。第2事件の当時、第1事件の記憶は失われていたのだから、連続殺人ではありません」

従前の主張を、あらためて述べた弁護側。ここから弁論は、控訴審でも大きな問題となった「鈴香被告の謝罪」へ移る。

弁護人「被告は反省文を書くなど、どのように謝罪すればいいかを考えています」

「まったく謝罪をしていないわけではなく、むしろ相当な謝罪をしています」

「(土下座は)パフォーマンスであれば、もっと他人にわかるようなことをやっているはずです」

その後も、弁護側は、質的には不十分なものの、量的には十分な謝罪をしていると主張する。さらに、控訴審で事件に対する証言が後退していったことについても言及した。

弁護人「両事件ともつらい記憶であり、無意識的に防衛規制が働き、思い出すことができないのです。両事件を思い出せないのは、反省していない訳ではありません。自分なりに、一生懸命謝罪しているのです」

必死に弁解する弁護側。しかし、この言葉は豪憲君の両親らに届くのだろうか。

弁論の読み上げも終盤に近づいてきた。弁護側は鈴香被告の更生の可能性について言及を始めた。検察側が「戦慄すべき」とまでいった人格さえも改善できうるという。

弁護人「中島医師は『過去の反省を踏まえ、将来の展望を持たせれば改善する可能性はある』としています。たとえ困難でも希望を持たせれば更生の可能性は明らかです」

更に、鈴香被告が失ったという両事件の記憶についても取り戻すことが可能という。

弁護人「被告は第1、第2事件とも忘れています。事件の真相解明には記憶の回復が不可欠です。中島医師は『(鈴香被告が)自分で納得し、適当な環境と担当者があれば記憶を取り戻すことは可能』との見解を示しています。被告には記憶回復の機会を与えるべきです」

弁護人は一息あけて、結論に入った。

弁護人「結論−。第1は過失致死事件で、第2事件は心因性の突発的事件で、被告の性格が引き起こしたものです。更生の余地はあり、有期懲役刑の適用を望みます」

弁護側の最終弁論が終わり、裁判長が結審を告げると、鈴香被告は裁判長を見据え、うなづきながら、口を「はい」というように動かした。判決は3月25日午前10時から開かれる。

⇒控訴審 第7回公判