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(3)自白の任意性に自信「迫真性にあふれている」

鈴香被告は、彩香ちゃん転落について、捜査段階では『足を一歩踏み出し、力いっぱい押すと落下した』『彩香ちゃんが生まれたときから嫌悪感があり、会話もほとんどなかった』などと自白、告白していたとされる。弁護側は『不当に長く、非人道的な取り調べによるもので、任意性はない』と主張してきたが、検察側は、自白には任意性があることを主張する。

検察官「捜査段階では、『殺す』などとする言葉に抵抗感があったものの、一貫して認めていた。具体的かつ詳細で、彩香ちゃんが落ちる際に『お母さん』と消え入るような声を聞いたなど、体験した者にしか分からない迫真性にあふれている」

鈴香被告の様子は変わらない。顔を上げて真っすぐに検察側を見ているが、まばたきが多い。

検察官「犯行までにいらだちを高めており、動機として十分納得できるものだ。自白は客観的事実と整合しており、信用できる」

自白の任意性を強調して“外堀を埋めた”後で、論告は、彩香ちゃん事件の『本筋』へ至る。検察側は、彩香ちゃんの転落が、弁護側の主張するような事故ではなく、鈴香被告の殺意に基づいた事件であることを論理的に述べていく。

検察官「(事件現場の大沢橋は)60メートルの川幅で、水面まで8メートル弱もある。殺意がもしないなら、9歳の幼児が欄干に上ろうとしたら親として止めるはず。ところが、腰より下を支えて、彩香ちゃんが足を外側に出して、危険きわまる体勢をとらせた」

検察官はさらにたたみかける。

検察官「『とっさに止められなかった』というが、欄干に腰掛けるのは大人でもかなりの恐怖で、容易にはできない。身長134センチの彩香ちゃんにとっては相当な時間がかかる。止めることのほうがはるかに容易。自発的に上ったとは考えられない」

理詰めで責める検察側は、鈴香被告が汗っかきの彩香ちゃんが『お母さん、怖い』と身を寄せてきたことに驚き、『反射的に振り払って落ちた』とする弁護側の主張にも疑義を唱える。

検察官「下方には水面があり、彩香ちゃんが恐怖心を抱くのは当然。抱きついてくることは当然に予想でき、驚いて振り払ったというのは荒唐無稽(むけい)な弁解だ」

検察側は、このほかにも不自然な点を細かく指摘。『殺意と実行行為が存在した』と明言した。

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