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(11)「鈴香が30年経って出てきたら…」

検察側の問いかけは鈴香被告の娘時代の話に移る。証言台に立った被告の母親が、捜査段階で、被告をかばった姿勢があったことを明らかにしようとする検察側。ところが、証人は「覚えていません」「分かりません」を連発した。

検察官「被告が小学校1年のとき、担任が『水子の霊がついている』といったのを警察や検察に話したとき、正直に話していないこともある。あ、覚えていないのか。調書では高校卒業まで、本人は問題を起こしていないと言っているが、一部事実を隠した覚えは?」

証人「分からない」

検察官「少なくとも被告が高校で停学していたのは知っていた?」

証人「はい」

検察官「なのに、あなたは被告が学校生活に問題なかったといっている。被告の高校生活についてかばったことは?」

証人「分からない」

検察官「調書の内容は読み聞かせ、サインもしている。特に問題なかったんでしょ?」

証人「調べではよく、彩香と鈴香の名前を取り違えた。話した内容よりも、彩香じゃない鈴香だ、などというところに注意がいっていた」

検察官「少なくとも高校時代、万引したことは?」

証人「知らない」

検察官「鈴香被告も万引の話をしているが、伝わっていなかったのか?」

証人「はい」

今度は鈴香被告の小学校当時の担任の話に戻る。友達とはうまくやっていたと思っていたという証人。いじめられていた様子も分からなかったようだ。鈴香被告は、小学生のとき、トイレで頭から水をかけられたと証言しているが、それについても「分からなかった」と話す証人。

そして、話は担任が鈴香被告に「水子の霊がついている」と話した件へ移る。

検察官「水子の霊については、学校に(証人が)呼ばれたのか」

証人「私が呼ばれた」

検察官「検察官にそういう話はしたのか」

証人「分かりません」

検察官「1年の途中で担任が替わったと言っているが、少なくとも警察が調べた範囲では、そういう事実ではない」

弁護人「異議あり!」

ここで、予定時間の1時間を過ぎたが、検察側の質問はまだ終わらないようだ。

証言台の前に座る鈴香被告の母親に対し、検察側は引き続き被告の小学生時代の話を聞いていく。

水子の霊がついているといわれたことに対し、抗議をしたという証人。その後、修学旅行の際にも担任から「来ないでほしい」と言われたことに検察側は疑問を呈する。

検察官「(水子の霊で)1年生のときに文句を言ってきた子供に対して、連れて行けないといったのか?」

証人「はい」

検察官「当時の先生は生きていられるが、そんなことはなかったといっている」

弁護人「誤導だ!」

検察官「誤導ではない! (担任に対して)文句は言ったのか?」

証人「自宅にいってきた」

次に鈴香被告の自殺について問う検察側。証人は捜査段階で、「鈴香が(自殺について)話したと言っているようだが、私は聞いた覚えがない」といっていたという。しかし、法廷では「後から聞いた。夫から聞いた後に本人に聞いた」と説明。当然、検察側は質問を投げかける。

検察官「聞いたのは間違いないのですね。どうしてそんなことをしたのか聞いたのか」

証人「忘れてしまった」

検察官「調書は事実ではないのか」

証人「はい」

検察官「どういう風に話したのか」

証人「覚えていない」

検察官「でも、娘が自殺を図ったというのは大きいことでしょ。それでも(当時のことを)覚えていないのか」

証人「そのころ、夫は仕事がなくて自宅におり、私はスーパーで休みなく仕事をしていた。こういうことはすべて夫がやっていて、私は聞き流していた」

証言の信用性を問おうとする検察側に対し、証人は当時、鈴香被告の相談を聞いたのは夫だったということをいいたいようだ。被告は調べの中で、「両親に不満をぶつけたら、神妙な顔をしていた」と供述したというが、証人はそれを聞き流していたと説明する。

その後、鈴香被告から子育てについての不満を聞いていなかったことなどを聞き出して、検察側の尋問はいったん終了。再度質問に立った弁護側は子育ての不満は深刻に聞いておらず、米山豪憲君の両親に対する謝罪は今後改めて行うことを引き出し、席に戻った。

続いて、裁判官からの質問が始まる。

左陪審の男性裁判官は家族関係について問い始めた。

裁判官「夫の、鈴香被告と弟に対する養育の違いは?」

証人「男だということで、昔の考えで娘より大事にしていたと思う」

裁判官「男尊女卑ということか?」

証人「はい」

裁判官「具体的には?」

証人「鈴香に対して怒った同じことを息子がいったりしても、息子には怒らないとか」

裁判官「(鈴香被告の)元夫の浮気のうわさを無線で聞いたということだが、会社の人はみんな聞けるのか?」

証人「ほとんどの人が(無線を)付けていた」

裁判官「元夫も聞けるのか?」

証人「(元夫が)休んでいる時に話していたから、女と歩いていても元夫は聞いていなかった」

さらに、極刑を望む鈴香被告に「腹立たしい」と発言した真意について質問が及ぶ。

裁判官「死刑を求める被告が腹立たしいというが、見方によっては覚悟を決めたともみえる。どういうことか?」

証人「これから30年経って出てきたら(被告は)60歳を過ぎ、私も80歳を過ぎている。仕事をすることもままならず、世間の目も前科のある娘には厳しく、死んだ方がましだと思えるような、本当につらいことがあると思う。それで、すぐ死ぬということを口にする娘に対し、腹立たしいと思った」

証人は、最後は吐き捨てるような厳しい口調で、こう言った。

⇒(12)「バカなこと、したね」目前の娘に語りかけた母